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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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台無

胸中を吐き出したgrid onpaoの手のひらにねじれる様に青色の名前の冒険者が吸い込まれていく。

『grid onpao>さて手のひらで踊ってもらうよ"って"思いました』

 手を開いて、手のひらを上に見せるとそこで先ほど吸い込まれた冒険者の姿が半透明で映し出された。

 grid onpaoは'邪竜の隣で猫は哭く'――通称'猫哭き'のPCだった。

 '猫哭き'はハックアンドスラッシュに分類される。魔物たちと幾度となく戦い、落とす素材で自身の武器や防具を強化していくのが特徴だった。

 手を握ると、映し出されていた半透明の冒険者がぐしゃりと歪む。苦悶の表情はなく無表情で。

 その冒険者にはもはや実態もなく、意識もない。

『grid onpao>うぉをうぅをおおおぉ!』

 grid onpaoは哭く。猫の威嚇のような竜の慟哭のような、鳴き声。

 近くにいた味方の冒険者たちの耳に届き、自然と身震いが起こる。

『Shr@vaka>ここで、こなたで、このタイミングで、'猫哭き'とかやばいっぽいらしい』

 できるだけ敵味方問わずShr@vakaが叫ぶ。

 Shr@vakaにとっては敵であるmiso_Knowたちも自分たちの味方であるはずのgrid onpaoから距離を置く。

 テンテンとユーゴックも気づいたが、その危険性に判断がつかない。

 目先の脅威を潰そうと互いが互いに拳をぶつける。

 そこへgrid onpaoが飛び込む。

 狙いはユーゴック――ではなく、テンテン。

 青色の名前で、grid onpaoにとっては味方。味方で間違いないはずだった。

 なのに間違いなくgrid onpaoは味方であるテンテンへと矛先を向けていた。

 しかもユーゴックの拳がテンテンに命中した瞬間に合わせて。

 それはテンテンにとって不可避の一撃だった。

 さくっとテンテンの背中に、手のひらに隠せる程度の鈍色の短剣が刺さる。

 テンテンも無論油断していなかった。

 超強化技能【完璧表皮(パーフェクトボディ)】によって表皮を超硬化させていた。

 なのに、テンテンの皮膚を貫通していた。

「あんた、なんなのっ! 邪魔をするなああああ!」

 怒りのままgrid onpaoへと拳が振るわれる。

 剛腕が瞬く間にgrid onpaoの顔を叩き潰すかに思われた。

 ピタリ、と止まる。

『grid onpao>悪いけど台無しにするよ。あんたの意志とか思いとか諸々。あんたもジリ貧だったしちょうどいいだろう"って"思いました』

 バタンとそのままテンテンが倒れる。

『Tillie Yan Chu>おっさん、いったん下がるのらっ! そいつは味方でも敵でも危険すぎるっ!』

「ぬぅ!」

 Tillie Yan Chuの忠告にユーゴックはおとなしく後退。

 ユーゴックも異変に気づいた。

 テンテンもユーゴックと同じ狂凶師。

 だとすれば【鋼鉄心臓(アイアンハート)】や【不死身体(イモータルメイク)】で死への備えをしていないはずがない。

 テンテンがこんなにもあっさり死ぬわけがないのだ。

「なんなのだ、あれはっ!」

 Tillie Yan Chuにユーゴックが問いかける頃には、テンテンは痙攣が始まっていた。

『Tillie Yan Chu>こっちは折角決着を付けようとしていたののら。なのに全部全部、あいつのせいで台無しののら』

『Shr@vaka>あいつは――'猫哭き'のPCは'友喰い'して吸引、飲み込み、吸収して強くなるっぽいらしい』

『Buddhak's etra>'友喰い'というのはなんなのデスワー?』

『yahks>味方倒して、能力吸収するんだよ』

 その'友喰い'こそが'猫哭き'――'邪竜の隣で猫は哭く'の特徴だった。

 正確には友人登録した冒険者が定められた期間、ゲームにログインしなくなった場合、その友人登録した冒険者の能力を根こそぎもらえるという仕様だった。

 その仕様の表現を残酷にしたのも一時期話題を呼んでいた。 

 その表現を再現するかのように痙攣したテンテンが歪み、grid onpaoの手のひらに吸収されていく。手のひらに収まると、テンテンもまた手のひらに半透明で表示される。

『grid onpao>くひひひ、くひひひ、すげえすげえすげえよ。特典に特異? すげえ力だ”って”思いましたっ!』

 狂ったように叫び、grid onpaoはユーゴックたちを睨みつける。

 瞳は猫目に変化し、見開いていた。

『Shr@vaka>おかしいっぽいらしい』

『Tillie Yan Chu>ああ。'友喰い'したなら――罰則(ペナルティ)で動けなくなる時間があるはずののら』

『yahks>そうだな。その間が唯一の好機のはずなんだが……』

 '猫哭き'では'友喰い'することで本来のレベル上げよりも楽に能力上昇が可能のため、友人登録を補助垢(サブアカウント)で行い、一定の時点まで育て'友喰い'する。

 そういう悪用によって能力上昇が繰り返されたため、その対処として罰則(ペナルティ)が作られた。

 それがyahksたちが言う行動不能時間だった。その時間制限が切れるまで、素材集めなどができなくなるためハックアンドスラッシュでは不利に働くのだ。

 けれど、grid onpaoは動いている。

『grid onpao>なんで動いてるんだろう、”って”お前らは思いましたっ! 正解は、極☆蹴球倶楽部の冒険者も'友喰い'したからでしたっ!』

『Tillie Yan Chu>そいつがレッドカード無効を持ってたってことののら? 極☆蹴球倶楽部だとそれ持ってると確か、罰則なしだからなんでもありになるののら』

『yahks>おいおい、それじゃあ、あいつはもう……』

「待て待て。話はなんとなくだが理解したが、だとしたら何を恐れる。'友喰い'とやらは要は味方を殺して能力を奪うのだろう? 吾輩はあいつにとって敵だぞっ?」

 話しながら不安げになっているPCたちが理解できずユーゴックが問いかける。

『Shr@vaka>違う違う。こっち、こなた、こちらでいう世界改変(アップデート)みたいなもので、'友喰い'はもはや友人登録をしなくてもできるようになったっぽいらしい。つまり、誰にでも使えるっぽいらしい』

 自分で言ってShr@vakaは震え上がる。

『Buddhak's etra>なるほど。でもご安心なさい。それでもなんとかなりそうデスワー』

『yahks>ちょっとそれは楽天的すぎ……じゃないか……。いやだからこそ毎回一位なのか?』

 万年二位のyahksにはその自信が理解できない。

「ガハハハハハッ!」

 ユーゴックも笑っていた。

 他のPCの不安に対して、Buddhak's etraとユーゴックはこの絶望そうにも見える状況をむしろ楽しんでいた。

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