観賞
8
出現した出口から三人が出ると目の前のモニターが点数と順位を映し出していた。
『ジネーゼ組 18032点 三位』
「どういうことじゃんよ!?」
それを見て驚愕したジネーゼは思わず叫んでいた。ナイトゴーントを倒せずとも一位にはなっただろうと過信していたからだ。
一位と二位を見てみれば、一位はまさかの落第者のレシュリーで二位は、試練前に女連れでナンパしてきた上半身裸の男だった。名前がアエイウだとここでジネーゼは初めて知る。
「アエイウと……」「レシュリーといえばー」「どちらも[十本指]に新たに選出された……」「やつらだねー」
「だとしても、あの落第者は……認めないじゃんよ」
ジネーゼは複雑な気持ちだった。
かと言ってレシュリーはざまあみろなんて言ってこない。何も言ってこなかった。ただ、試練で実力を見せつけただけ。
「認めないじゃんよ……」
ジネーゼはもう一度呟いた。その呟きに含まれていたのは嫉妬と悔しさだ。
「でもどうしてあんなに点数が高いんだろう?」
リーネがぽつりと呟く。
「あいつは金魚のフンだから、他のふたりがすごかったじゃんよ。他のふたりも[十本指]じゃんよ」
もちろんそんな甘い試練ではないと自身が体験して分かっているジネーゼだったが、それでも認めたくないのか、頑なにそんなことを言う。
「疑問に思うなら……」「映像記録媒体を買えばいいよー」
そう呟くフレアレディは既に三本の映像記録媒体を持っていた。映像記録媒体は長方形で黒い形をしており左右に白い歯車のようなものがついている。
「それ、どうしたじゃんよ」
「そこで……」「売っていたー」
「三つもあるならひとつジブンに譲って欲しいじゃんよ」
「駄目だ……」「駄目駄目ー!」
「なんでじゃん?」
「これはいわゆる鑑賞用に……」「保管用に、転売用なんだよー」「試練の記録媒体はその時しか買えない限定品だからな……」「オークションに出品したら、ウマウマでー」「ウハウハなんだよ……」「そういうことで譲れない」
「……もういいじゃんよ」
その頑固さにジネーゼは呆れつつ、しかしながら結局、自分で映像記録媒体は買ったのだった。
試練は進み、全ての冒険者が試練を終えたが、ジネーゼ組以降、上位三位に変動はなし。
一位がレシュリー、アリテイシア、コジロウ、二位がアエイウ、エミリー、アリーン、三位がジネーゼ、リーネ、フレアレディとなり、その三組にして九人は無事にランク4となった。
ジネーゼは引き続きフレアレディをパーティに誘ったが、
「三人は……」「都合が悪いー」
よく分からないことを言って、フレアレディは去っていった。
明後日始まるらしい次の試練に備え、ジネーゼとリーネは宿屋へと戻った。備えつけの再生機に媒体を入れると、レシュリーたちの的狩の塔の映像が映し出される。
「認めないじゃんよ」
それを見終わると、ジネーゼは本日何度目になるだろうか、悔しさ交じりの嫉妬を叫んでいた。
***
月の闘技場と太陽の闘技場の間にある大通り、人々が行き交うその通りを真っ直ぐ進むと一発逆転の島で一番大きな屋敷に突き当たる。
そのなかから、女冒険者の声が聞こえてきた。
「ねえ、いい加減返してよっ!」
女冒険者は目の前の太った男に懇願していた。しかしその肥満の男ははみ出た腹を掻き、別のものを見るのに夢中で彼女を見ていない。
「よほほほほっ! キミの弟は、サイコーでおじゃ」
肥満の男が見ている先には鎖に囚われた男がいた。肥満の男が言ったことが真実とするならばその男は懇願する女の弟らしい。
その弟は眠っており意識はない。肥満の男の趣味なのだろうか、女物の装飾付纏衣を着せられていた。
「よほほほほっ。返して欲しくばお金を寄越せと言っておじゃるじゃろ!」
「ふざけないでよ、オジャマーロっ! あちきは指定された額はきちんと払ったはずだよっ! どうして弟を返してくれないっ?」
「よほほほほほ? 借金は利子をきちんとつけて返すものでおじゃる。指定された金額にニ割は上乗せするのが、貸主への礼儀というものでおじゃ」
「そんなの聞いてないっ!!」
「よほほほほ! 確かにまろは言ってないでおじゃる。しかし礼儀を弁えろと誓約書には書いたでおじゃる。その礼儀というのがニ割上乗せした金額というものでおじゃる」
「……理不尽すぎるっ!」
「なんとでも言えばいいおじゃ。言うだけタダじゃからのー。でも弟は返さないぞえ。しかしまろは意地悪しているわけではおじゃらんよ。まろはきちんと弟を雇っておじゃる。お前が何もしなくてもあと十年、お前の弟がまろの着せ替え人形になれば、借金はなくなるでおじゃる」
その言葉に女は愕然とする。
「よほほほほ。何を愕然としておるでおじゃ。また闘技場であの手を使えば、いくらでも金は手に入る。その金の千分の一がお前の借金に充てられるのは知っておるでおじゃ? なーに、あと一回やれば弟は返してあげるでおじゃる! よーほほほほほ!」
そう言いながらも肥満男オジャマーロはその女冒険者の弟を視続けていた。いや、視ていたのはその弟だけじゃない。その弟の左右にも眠った男たちが鎖に拘束されていた。どの男たちも女に間違えてもおかしくないような中性的な顔立ち。もちろん着ているのは女性物の衣装だ。オジャマーロは、男を女装させ視続けるという趣味を持っていた。
女冒険者は悔しさに唇を噛締めながらその部屋を出た。
女冒険者にはオジャマーロの言うあの手を使うぐらいしか、救える手立てが思いつかなかった。




