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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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竜王

 テンテンとユーゴックの拳がぶつかる。

 何度目かの激突。痛みは拳から腕を通じて痺れるように脳天まで届く。

 形勢はテンテンが不利だった。

 特典〔痛いの痛いの飛んでけ(ペインシェア)〕の効果は切れている。そもそも切れたからこそ一定以上の傷を負うのが条件の"欲望(ディザイア)"が発動しているのだ。

 テンテンの効果は二律背反ともいえる。

 お互いが狂凶師でお互いが超強化技能【筋力最大(ターミネーター)】を発動。

 差はないように見えるがテンテンの"欲望(ディザイア)"はユーゴックの才覚の副次的な効果を増強させているだけで

 ユーゴック自身は自らの才覚〈拳闘(フィストファイト)〉によって無手による攻撃の威力を上昇させている。

 がそれだけではない。

 肉体的に筋肉質なユーゴックに比べればテンテンの肉体は、標準的な冒険者よりも少し筋肉質という程度。

 超強化技能【筋力最大(ターミネーター)】では最大限の筋力を得ることができるが、生身で存在している分は当然差として現れる。

 ユーゴックの才覚の特徴と、その筋力の差だけがテンテンを追い詰めていく。

 ユーゴックの右拳を両手で防御するが、態勢が上向く。足元がわずかに浮ついたのをユーゴックは見逃さず、腹に強力な左正拳。

 痛みで喘いで前のめりに倒れかけるも踏ん張って後退。近くにあった大金槌〔超大正義ユシヤ〕を手繰り寄せ、メチャクチャに振り回す。

「おいおい。姪は大事に扱え」

 ユーゴックは慌てて抱きしめるようにそれを受け止めて、豪快に槌の面を抱えたまま振り回し、柄を握るテンテンを振り飛ばす。

 撫でるように傷ついた面を拭き、軽くメンテナンスを施す。

 歴戦の戦士ほど武器に年季が入っているが、それは要するに傷やすり減った部分が目立つということだが、ユーゴックの扱う大金槌〔超大正義ユシヤ〕はよほど丁寧に使われているのか、傷も少ない。

 ユーゴック・ジャスティネスの姪、ユシヤ・ジャスティネスは<10th>では〈水質〉アクテリア・ンヴォノージョに偏執的な愛をささげ独自の正義を貫く少女だった。

 それはある意味で<10th>のユーゴック・ジャスティネスに近しい。<10th>のユーゴック・ジャスティネスが自らの正義を押し付けレシュリーたちに敗北し、ユシヤはディエゴに敗北後、ジョーカーの甘言によって人間武器にされるという不幸を辿る。

 一方で、<8th>のユーゴックはシュリの生存により、偏向的な正義の押し付けはなくなっていた。もちろんシュリに出会う前は<10th>と同じような正義の持ち主だったが、分岐があるとすればやはりシュリの生存が分岐点だったのだろう。

 シュリの生存によって起こった出来事でユーゴックは正義が自分の信じているものひとつではないと自覚させられた。

 一辺倒だった正義を変えた出来事こそユシヤの死である。

 ユシヤはシュリと出会う前のユーゴックに憧れていた。他者から見れば一方的な正義かもしれない。

 悪人は絶対に許さなかった。温情はなかった。必ずトドメを刺した。罪を償う機会は与えなかった。

 そんなユーゴックにユシヤは憧れていた。

 なのにシュリと出会ってからユーゴックは悪人に罪を償う機会を与え始めた。それはひとえにシュリに言われたからだった。

 そんな正義もあると教えられたからだった。

 だからユシヤはシュリが許せず、自分自身の正義に基づいて、シュリを襲い、殺された。

 ユーゴックには深い悲しみがあったが、シュリの言い分も正しく、またユシヤの言い分も正しかった。

 悪と正義のぶつかり合いではなく、正義と正義のぶつかり合いも存在するのだと、そこで教えられた。

 そこからユーゴックは表立って正義は語らなくなった。

 偏執的な正義も影を潜め、それでもどこかに自分の正義は持っていた。

 おそらくユーゴックの道筋が正された瞬間だった。

 姪の正義も、シュリの正義も、自らの正義も、すべて背負って、自分の正義になっていた。

「手加減するつもりは、ないぞっ!」

 拳に闘気が宿り、竜の顔が形作られる。人差し指と小指をくっつけピンと伸ばして親指を曲げる。あたかも竜の顎と言わんばかり。

「受けてみよ、吾輩の秘伝の拳をっ!」

 固有技能【竜王無双突】である。

<10th>ではユシヤが剛槍〔正義のユーゴック〕を用いて繰り出していた技能を、<8th>のユーゴックもまた覚えていた。

 振り飛ばされたテンテンの心臓めがけて竜の顎が迫る。

「負けるもんかあああっ!」

 らしくないかもしれない。テンテンが叫ぶ。"欲望(ディザイア)"が呼応する。

 目の前のおっさんには負けたくない。

 "欲望(ディザイア)"が、ユーゴックが繰り出した奪命の一撃を防ぐ。

 自然と心臓から軌道が逸れた。

 肉は抉られるもテンテンはまだ生きている。負けてはいない。

『grid onpao>さてと、そろそろこの殴り合いを台無しにしたい"って"思いました』

 テンテンの様子を見て同じように副次的な雰囲気にあてられてこの乱闘に参加していたgrid onpaoは冷静に胸中を吐き出す。

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