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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
728/874

拳闘

***


 テンテンの鉄錘〔傲慢無礼のオジャマーロ〕が床を砕き、破片が飛び散る。

 その破壊力を威嚇のように見せつけて、誰よりも前へと走り抜ける。

 そんなテンテンの元に大金槌〔超大正義ユシヤ〕を担いで猛進してきたのはユーゴックだった。

「グハハハハハ!」

 大袈裟に笑って大金槌で床を叩く。するとテンテン以上に床が砕かれ破片が飛び散る。

 テンテンの威嚇に対する挑発だった。

「キャハハ。おっさんもなかなかなのよん!」

 テンテンは動じない。

 テンテンとユーゴックがぶつかる。

 どちらも狂凶師。

「ふんっ!」

「ドガーン!」

 超強化技能【筋力最大(ターミネーター)】によって筋力を超増強し、盛大に振るった鉄錘〔傲慢無礼のオジャマーロ〕と大金槌〔超大正義ユシヤ〕が互いを互いに叩き合うように衝突。

 反発した衝撃でお互いの腕から鉄錘が、大金槌が後方へと吹き飛んでいく。

「へっ!」

「ふぅん!」

 変に笑うユーゴックに妙に納得をするテンテン。

 互いが互いに武器を取りに戻る――ことなどせずそのまま、殴り合いが始まる。

『miso_Know>続けっ!』

 テンテンとユーゴックの衝突に乱戦になると見抜いて、miso_Knowが号を飛ばす。

 続くのはいわゆる脳筋と呼ばれるキャラを選択、もしくは育成を行ったPCたちだった。

 ユーゴックの後ろにPCでありながらNPCへと寝返った不良番長軍団が続いているのもその影響だろう。

 不良番長のキャラも特殊能力は持ちつつも基本は殴り合いだ。

 それこそが得意というキャラたちで大混戦。

 魔法合戦が右翼とするならば、左翼は大乱闘だった。

 ただし不思議なことがひとつ。

 誰もが武器を出そうとしなかった。

 不良番長の女番長八頭となっているBuddhak's etraこそ拳で戦っているが

 万年二位男ことyahksは番長湯梨浜を使用。湯梨浜はゴエンダマと呼ばれる穴の開いた銭の穴に紐を通して鞭のように使っていたが、今は取り出すことなく、対峙したnaida777と拳をぶつけ合っている。

 naida777は"懐いて眠るよすがの頃に"と呼ばれるアクションRPGの棒術拳士で、こちらも棒を使用した格闘術で戦うはずなのだが、肝心の長棒を使わずにyahksと殴り合っていた。

『Shr@vaka>何が無し、何と無しに、どういうわけか、おかしいっぽいらしいっ!』

 テンテンとの再戦を熱望していた壁越しドラドンのShr@vakaは違和感を覚えていた。

 自身は殴り合いに参加していないが、召喚したドラドンはツッパリドン。リーゼントスタイルの竜を可愛らしく変形(デフォルメ)したぬいぐるみのようで不良番長のキャラに混ざるとマスコットのようにも見える。

 カッパリドンよりも突破力に尖らせた分、攻撃するたびに自身の鱗が剥がれ落ち、脆くなっていくという完全攻撃突破型のドラドンを召喚してしまっている。

 普段のShr@vakaなら選ばない選択。

『Tillie Yan Chu>確かにおかしいののら。変に気分が高揚している。これがあのテンテンの能力ってやつののら?』

 DUM -MY games-のTillie Yan ChuもYang swordと呼ばれる自分の現実の能力によって生成された剣を持っているが、どうしてか使ってはならないような気がしてしまっているのだ。

『Shr@vaka>いや、それはないらしいっぽい』

『Tillie Yan Chu>ちょっとそれ、曖昧に聞こえるののらよ、それ』

『Shr@vaka>ワシが対峙、対決、正対したときはそんな気分にならなかったらしいっぽい。だからそれはないらしいっぽい』

『Tillie Yan Chu>ほうほう。ってことは何? あのおっさんの特典?』

 そう推測したTillie Yan Chuだったが、同時にブラギオに見逃されたmayatsuteru・JH2・4fMの例の言葉が響く。

『mayatsuteru・JH2・4fM>大変だ、大変だ、大変だ。特典が分からなかった。いくら探しても今特典が判明してないNPCの特典は分からなかった』

『Shr@vaka>特典ではないっぽい。だとしても才覚に固有技能みたいっぽいものすら可能性はあるっぽい』

『Tillie Yan Chu>なるほど。それに中てられてるって可能性があるののら』

『Buddhak's etra>そんなことどうでもいいのですワー!』

『yahks>そりゃあんたや俺らはいいかもしれないが他は違うだろ』

 不良番長は総じて武器などがなくても強いが共通認識だが、DUM -MY games-や壁越しドラドンはその限りではない。

 それでも、ユーゴックとテンテンが殴り合うたびに、胸の内にある何かが刺激され、どうしても殴り合いたくなってしまう。

 違和感を覚えていても。

『Tillie Yan Chu>こうなら、行ってやるっ! いつか効果が切れるののら』

『Shr@vaka>ワシに効き目が薄い、鮮少、乏しいのはワシ自身が戦うキャラじゃないからっぽいな』

 それでもどこか刺激されているのは事実だ。だからこそ攻撃的なドラドンを召喚して戦わせている。

 ユーゴックは特典を使用していない。

 これはユーゴックの才覚が及ぼす影響だった。

 才覚〈拳闘(フィストファイト)〉は無手による攻撃の威力を上昇させる――だけでなく副次的に周囲に殴り合いを推奨する雰囲気を作り出す。

 ただし、本来はこんなに色濃く影響は出ない。

 テンテンの特異"欲望(ディザイア)"が影響していた。

 "欲望(ディザイア)"は一定以上の傷を負うと、自分が叶えたい欲望が成就するが、問題多発時空ヒヤリハットの戦いでその条件はすでに達成済み。

 そうして自分と互角以上の拳と筋肉を持つユーゴックを見て思ってしまったのだ。

 もっと殴り合いをしたい、と強く強く。

 それが〈拳闘(フィストファイト)〉が持つ副次的な雰囲気の効果を増大させていた。

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