天舞
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『damdami229>僕についてこれる?』
廃棄病棟2399は出現する怪奇現象から逃げながら、ときには戦いながらゴールを目指す探索型ホラーFPSだ。そのキャラのひとりデルタスを選択したdamdami229は特殊能力として高速移動を持っている。
廃棄病棟2399は多様な特殊能力を持つキャラとそのキャラに対抗として苦手怪奇現象が存在する。
デルタスの苦手怪奇現象はぬりかべで、「ぬりたて~!」という特殊能力によって壁を生成し高速移動を阻害するのだが――こと終極魔窟においてはそのぬりかべも存在しない。
高速移動から急カーブでアルへと強襲。超高速の蹴り。
『damdami229>これが避けられる?』
避けられた。
確かに安直だった、damdami229も反省。壁すれすれで急停止して、反転。
再度アルに向かおうとして、
「三対一なんて美しくないっ!」
一番傷が浅かったジョレスの治療が終わりdamdami229へと向かっていく。
「【八爪流・予想の姿】っ!!」
damdami229が蹴りを入れてくると予想して、その予想通り回避。
繰り出した【八爪流】は【予想の姿】。
相手の攻撃を予想して回避し、八連撃で対応する超反応型だった。
『damdami229>ちょ、それ……知らないっ!』
【収納】の繰り返しによって出し入れされる直剣が一撃、二撃、三撃と腕と足に入り、四撃をdamdami229が高速回避。
五撃目と繰り出された蹴りが相討ちになり、六撃が肩を切り裂き、七撃目が胸に突き刺さる直前、
『random・lot>交代だ』
首根っこを引っ張られて九死を救われて、parep・pareがジョレスへと向き合う。
『damdami229>でもあんたはあっちの剣士の流派を知ってるんじゃ?』
『random・lot>知らない技使ってくるから一緒。手数が多い奴の相手こそ天舞の本領よ』
random・lotは――天舞、天罪謡いで舞踊るの略称を伝えて、任せるように言う。
『damdami229>確かに天舞向きかも』
random・lotが味方だと青いネームプレートで分かってもどんなキャラで参加しているかはぱっと見では分からない。
伝えられてようやくその特徴を理解したdamdami22は、ジョレスの相手を交代する。
『random・lot>行くぞ、行くぞ、行くぞ』
ジョレスへと意気込みを伝えて、大きく振りかぶって縦に回転しながらハートサーベルを振るっていく。
「――【八爪流・山荘の姿】」
静かに言ってジョレスはハートサーベルをいなす。
途端にrandom・lotの目に幻影が写る。
まるで山小屋にいるようだった。
外は嵐で小屋の中は暗い。扉や窓は硬く施錠されており、密室。
床に横たわるのは、七人の仲間たち。すでに死んでいた。
雷鳴が轟き、目の前に殺人鬼の姿が映る。
自分が八人目の犠牲者なのか――自覚したときにはすでに意識は朦朧としていた。
それはあたかも山荘で起きた密室殺人のような不可思議な錯覚を見せる【八爪流】。
クルシェーダの初回突入特典〔夢見心地〕に似ているが、見せるのはあくまでも錯覚。
実際はその錯覚を利用して、八連撃を繰り出している。
ただし――
『random・lot>手数が多いんだよっ!』
天舞のPCの行動は常に選択を強いられる。
同じ攻撃で攻めるか、それとも小技を挟んで連続攻撃をする連撃技能を繰り出すか。
天舞では後者に限り罰則がある。
連撃技能を繰り出すと、天罪が溜まり、それが一定数を満たすと空が揺らぎ罰が下る。
しかも天罪が溜まるのは天舞のPCを連撃技能で攻撃すると認識された瞬間。ゆえに八連撃の初撃で天罪が溜まる。
八連撃ともなれば、一瞬で天罪が溜まり空が揺らぐ。
『random・lot>堕ちろよ、揺罰ッ!!!』
ジョレスが態勢を崩すほどに床が揺れる。揺れを感じたのはジョレスのみ。
連撃を繰り出し、空を揺らがせた者に対してその振動は発生する。
態勢を崩し、初撃目があらぬ方向へ。連撃が失敗し、直剣を床に突き立ててその揺れを耐える。
「美しくないっ!」
『random・lot>相性がいいみたいだな! 連撃以外に攻撃はあるのかよ? じゃなきゃ同じ目に遭い続けるぜ?』
random・lotの大車輪のように回転する攻撃は連撃のように見えるが同じ攻撃の繰り返し。
天舞において同じ攻撃の連続は連撃とはみなされない。単発攻撃の連続という定義になる。
ゆえにrandom・lotには揺罰が下らない。
「なら、それを捨てるっ!」
random・lotの問いかけにジョレスはそう答えた。
【八爪流】を一時的に破棄して、特典〔夢からメガ覚めた〕の条件が適応される。
『random・lot>なっ、速い。速いって。ちょ……』
自らの身体能力だけで、ジョレスは攻撃を紡いでいく。random・lotは防戦一方で、ジョレスの攻撃はまるで連撃のようにも見えるが技能でない以上適応されない。
条件はrandom・lotと同じ。差は身体能力のみ。
『random・lot>ちょっ、なんとか。してく――』
助けを求めようと他のふたりを見やると相手を交代したはずのdamdami229はアルに胸を貫かれ消滅していく瞬間だった。
『parep・pare>嘘、だろ……』
damdami229の消滅を見たparep・pareが方向転換。空高く飛んで、逃げ出す。不利を察したのだ。
「堕ちろ、レヴェンティ」
轟く声。ping・applenを倒したばかりのアリーが回復しきってないながら、魔充剣から魔法を解放。
【千却万雷】の轟雷がparep・pareを打ち抜き、黒焦げになって消滅する。
『random・lot>ちっ……』
舌打ちとともにジョレスの攻撃を弾く。それが手一杯。やがて捌き切れなくなり、地味に胸を貫かれる。
『random・lot>ちきしょ……』
弱点を突こうとした三人の思惑は無残にも散っていく。




