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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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見逃

 双子の詠唱が始まると同時に飛び出していったシャアナたちを尻目にジョーカーはゆっくりと歩き、味方となったPCと増援のNPCたちをまるで品定めのように見定めていく。

 全員を一通り見終わって

「さーて、あーれをなんとかしなーいとですねー」

 キングの作り出した亀裂――言わばPCたちが通る(ゲート)を見つめる。

 レシュリーは量と質でバランスが取れていると言ったが、それはさすがに気休めだと全員が分かっていた。

 いくらレベルやランクが勝っているとしても、物量には敵わない。それに強肉弱食(ジャイアントキリング)はないとは言い切れない。

 (ゲート)を観察していると、そこを取って現れるPCもいるが、粒子のように消えたように見えるPCは吸い込まれるようにそこに消えていく。

「なーるほど。出入口でもあーるのでーすねー」

 そう解明しながら、同じく(ゲート)を見ていたふたりを見つける。

「どうやーら考えているこーとは同ーじのよーうでーすねー」


 ***


「実に興味深い」

 ブラギオ・ザウザスはレシュリーたちを助けに来た、というわけではない。

 ダイバーシティが語りかけた情報に興味が沸いてきたからだった。

 そして今ブラギオの興味は、異界とも呼べる世界からやってきたPCたちよりも、その世界の出入口たる(ゲート)に興味があった。

 誰よりもいち早く近づいていたように思う。

 その(ゲート)がどういう仕組みなのかどうか。

 【転移球(テレポーター)】と似ているのかどうか。

 それともどこかに中継地点があって、そこである程度待機させておいて転送しているのか。

 ならば特典〔休憩室(レストルーム)〕のような部屋がこの亀裂の先には存在していて、そこから先がPCの世界につながっているのか。

 いやそもそも、彼らはひとつのPCの世界からやってきているのか。それとも複数の次元(サーバ)が存在しているのか。亀裂の周りをぐるりと一周しながら観察していた。

『osoi=merei>うわっ、いきなり』

『try=merei>誰もいなかったのに』

 新しく(ゲート)から送られてきたふたりがブラギオの姿を見て驚きわずかに後ずさる。

「誰もいなかったのに?」

 転送されてきたPCの言葉にぴくりと反応する。

「ということは転送される場所は選べて、しかも確認できるが、それには時差(ラグ)があると」

 言葉数が少なかったにも関わらずブラギオはかなりの情報をを読み取っていた。

『osoi=merei>なんだ、こいつ?』

 目を輝かせ、新しく得た情報に喜々するブラギオは不気味に映る。

 それでも、

『try=merei>でも、こいつぐらいならいけるんじゃ……』

 不気味さはあるが、貧相な体つきが紫装束の上からでも見てとれる。

『osoi=merei>行こう』

 try=mereiとosoi=mereiはダーク・サバイバルのPCだった。闇を生き抜け――がコンセプトで多種多様な甲冑を来た戦士たちが薄暗い洞窟に迷い込み、奥へと進みながらなぜ自分たちがこの洞窟へと迷い込んだのか真相を探るPRGだ。

 try=mereiとosoi=mereiもその設定に従い、甲冑を身につけている。

 貧相な男に負けるはずがない。

 try=mereiがタワーシールドに身を隠し、ブラギオを警戒し、そのタワーシールドに一緒に身を隠したかたちとなるosoi=mereiが六角形の棍棒オーガロッドを握りしめる。

 try=mereiが攻撃を防ぎ、osoi=mereiがその隙に後ろから強襲する、幾度も勝ってきた常勝の型。

「察した」

 その構え、動きからブラギオは呼吸するように言った。try=mereiとosoi=merei。その後ろで。

 右手に持った隠技短刀〔在りし日のクラミド〕をまるでジャグリングのように何度も空中に投げながら退屈そうにしていた。

「聞きたいんだが、この(ゲート)の通り心地はどうだった?」

『osoi=merei>通り心地?』

『try=merei>そんなの一瞬だったわ。ってか感想なんて必要か。状況分かってる?』

「状況? 分かってるというか終わってる。感想戦っていうんだったかな、こういうの」

 違うな、なんて言うべきなんだ? と独り言をぶつぶつと言っている間にtry=mereiとosoi=mereiの首が落ちる。

 滅殺師は暗殺士の上位職だった。ブラギオは静かにひとりで抹殺してみせた。隠技短刀に何か秘密があるのかもしれなかったがtry=mereiとosoi=mereiには分からなかった。

「ヒーハッハハッハ。すごーいでーすねえ」

 消滅していくtry=mereiとosoi=mereiを尻目に近づいていたジョーカーがブラギオに拍手を送る。

「あなたは?」

「こーれを何とかしたーいというあなーたと同じ考えの人間でーすよ」

 (ゲート)を指して説明したジョーカーは

「まあもうひとりいまーすがね?」

 今度はひっそりとこちらに向かってきているレストアに指さして

「かーれが来たーら色々と試してみまーしょう」

 レストアも指をさされたのに気付いたのか軽く会釈。様子を窺っていたがこれ幸いにと早歩きで近づいていてくる。

 その最中、亀裂から新しくPCがやってくる。

『mayatsuteru・JH2・4fM>大変だ、大変だ、大変だ。伝えなきゃ』

 ブラギオの少し後ろに転送されていた。

 一瞬、ブラギオの姿に驚いたがそれどころではないと他のPCのところへと大急ぎで向かっていた。

「おーやおーや、見逃しーていいのでーすか?」

「彼は何か情報を持っているらしい。それが流れたところで状況がどう転ぶか純粋に気になる」

 ブラギオの言葉が気に入ったのか、気まぐれなのかジョーカーもmayatsuteru・JH2・4fMを見逃していた。

 mayatsuteru・JH2・4fMはそれなりにPCがいるところまで走りきると叫んだ。

『mayatsuteru・JH2・4fM>大変だ、大変だ、大変だ。特典が分からなかった。いくら探しても今特典が判明してないNPCの特典は分からなかった』

 情報が大音声で伝播していく。

「ああ、だって今まで一度もそんなもの使ってないからな」

 <8th>のディオレスが代表者のように全員の代弁をしていた。それだけでPCの何人かが震え上がる。 

「そもそもぼくはここ初めてだし」

 レイシュリーもぽつりと呟く。

 カードや育成型対戦において手札や技構成を知っているのは有利になる。

 PCは情報優位性(アドバンテージ)を得ようとして転送前のmayatsuteru・JH2・4fMに情報収集を依頼していた。

 mayatsuteru・JH2・4fMは個人で情報収集をしているPCだった。mayatsuteru・JH2・4fMは個人の情報網を駆使して情報をかき集めてきた。

 けれど、転送されてきた[十本指]やレイシュリーの情報――特に特典に関しての情報を得ようとしたが、その情報がなかったのだ。

 元来、保護封で情報は守られているが、終極迷宮(エンドコンテンツ)はその限りではない。

 それでも情報がなかった。

 PCの何人かが青ざめる。

 そもそも特典が不明だった時点で、明確にはっきりと「分からない」と伝えるべきではなかったのかもしれない。

 「分からない」という情報が分かっていたのか定かではないが、mayatsuteru・JH2・4fMを見逃したブラギオの判断は、幾人かのPCの戦意を確かに奪っていた。

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