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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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抹消

「兄さん、大丈夫?」

「ああ。くそったれだが致命傷は避けた」

 アリサージュが【回復球】を当てて微量の回復を始める。気休めでもない箸休め程度の回復量。

「勘が鈍りすぎていたか。フェンリルを使って毒を対処していたから耐性はないと思っていたが……そんなことはなかった」

「慢心ですね」

「うっせぇぞ」

「それとも油断ですか」

「うっせぇぞ」

「それしか言えないほどバカになったんですか、兄さん」

 クイーンがいるのを無視して喧嘩が始まる。

 だがクイーンは動けずにいる。喧嘩していながらも飛び込めないほどに隙がなく、殺意はクイーンへと届いていた。

「ぎりぎりでしたわ」

 冷汗をぬぐい、それでもクイーンは一安心。

 ルルルカを封印する際に使用しなかったのは予定通りだが、ここでこの特典を使うのは想定外だった。

 強力すぎるゆえ体力による回数制限がある。現状、使えて三回。願い事だってなんだって大抵は三回縛りがある。

 初回突入特典〔嘗ては格好の的キャンセル・カルチャー〕は過去の言動を理由に、現状に降りかかった事象を排斥し無効化する。

 それによってコリバクチンが過去にしていた毒霧の散布を理由に、毒霧の効果自体を無効化していた。

 そのコリバクチンへ兄者フェンリルが噛みつく。鹿のように見えるが実体がないようにも見える。 

 だが噛みつけた。

 霧散するように消え、【封獣結晶(キューブ)】へと戻っていく。

 その噛みついた兄者フェンリルへと三日月斧〔一笑に付すゲレロンチ〕を握りしめたテタノスパスミンが突進。

 自身の毒によってフェンリルの毛皮を劣化させ、そのまま斧を打ち付ける。

「グルルッ…」

 皮膚に傷を負うものの致命傷には至らず。

「おいおいおいおい。耐性がつくのが早すぎだろ」

 喧嘩している最中でも毒の魔物たちはフェンリルと戦っており、そしてフェンリルの変化に気づいて自然と喧嘩は止まった。

 治療薬も使いすぎると効き目が薄くなるのと同じで状態異常も何度もかかれば当然抗体ができ、効きにくくなる。

 冒険者が即死する毒もフェンリルならある程度の毒の抗体があるため効きにくい。

 フェンリルはあえて毒の魔物と戦ってその抗体を作り出していた。

 だから戦うのに躊躇いはない。

 コリバクチンを噛みついた兄者フェンリルに毒の影響はない。

 一方でまだテタノスパスミンが持っている毒には抗体が薄いのか、その毒によって毛皮が劣化していたが、それもすぐに再生。

 どころかテタノスパスミンは人型を保っているがところどころに食いちぎられた箇所が見える。

 弟者フェンリルの奮闘だった。

「畳ミカケルッ!」

 テタノスパスミンの三日月斧に向かって兄者フェンリルが強靭な尻尾をぶつけ、その反動でひるんだところに弟者フェンリルが足を嚙みちぎる。

 片足を失い崩れ落ちたテタノスパスミンを兄者が抑えつけると弟者が噛みつく。

 たまらずテタノスパスミンが【封獣結晶(キューブ)】と戻っていく。

「無理させたな」

 【封獣結晶(キューブ)】に戻ってきたテタノスパスミンとコリバクチンを労う。

「形勢逆転ですわ」

 兄者と弟者の毛皮を撫でながらクイーンが言う。

 視線はヴィクアとキムナルの方向。テアラーゼとアリサージュは見ていない。

 姉様と妹君フェンリルはふたりに猛攻をしかけている。

「くそっ、どうにか振り払ってよ。ヴィクア」

「ふたりの女に振り回されるなんて不倫ですよ、キムナル。絶対に許さない」

 言いながらキムナルの尻を蹴る。妹君フェンリルの鋭利な爪が空を切った。

 尻を蹴られてなかったらきっと避けれなかった。代わりにヴィクアの足が深手を負っていた。

「わわわ、ごめんよー」

「他の女に現を抜かすからです」

 そう言って今度はキムナルは頭を思いっきり地面に叩きつけられる。

 頭を屈めなければ、姉様フェンリルの尻尾がキムナルに激突していたに違いない。

 キムナルの傷は意外と少なく対するヴィクアの傷は比例するように増えている。

「いつも通り、操縦すればいいんです。あなたは」

「分かってるって。やってるよぉ」

 弱気ながらにキムナルは操縦技能を使用しようとするが瞬間、姉妹フェンリルの前足と後足の連携攻撃が繰り出される。

「コウスレバ」

「手モ足モ出ナイデショ?」

 それだけで技能は一時的に使用停止になる。本来は距離を開けて操縦技能で戦況を操るのが本質。

 操縦師だとばれてしまえばその厄介さから姉妹フェンリルがやっているように集中的に狙われるのが常だった。

「投降して、おとなしく封印されるのでしたら、これ以上痛い目に遭わないで済みますわよ?」

 その準備と言わんばかりか家具を周囲に設置していく。

「お前はバカか」

 テアラーゼが言った。

 途端に、家具が破壊されていく。

「何をしたんですの?」

「いや、それは知らない」

 ネタばらしをすれば、【不在証明(アリバイ)】を使用したジネーゼが破壊していた。

 それを察知していたテアラーゼだったがクイーンには知らぬ存ぜぬを貫き通す。

「そんなことより、重要なことにお前は気づいてない」

「何を言っているんですの? この距離で天召陣は書けないでしょう? それとも残りの【封獣結晶(キューブ)】でも使うつもりですか?」

 テアラーゼが腰帯(ベルト)にぶら下げている【封獣結晶(キューブ)】は五つ。うち四つは使用していた。毒狼だけが顕現しアリサージュを守っている。

「いや、それもそもそもそんなこと、だよ。真に恐ろしいのは妹だ」

「何を?」

「ピンと来ないとか普通じゃないぜ。封獣士と召喚士は切っても切れない関係だ。召喚士の使う召喚技能は何より封獣士が作る【封獣結晶(キューブ)】がなきゃ戦えない」

「兄さんまた語ってますね」

「うるせぇよ。ってかクイーンだっけ? あんたは天召師になって、それまで使ってた【封獣結晶(キューブ)】と、提供してくれた封獣士は切り捨てたのか、それとも死んだのか?」

「……」

 クイーンは答えない。

「前者なら大バカ者だし、後者なら残念でならない」

 テアラーゼは少し悲しげに訴える。

「天召師は封滅師に絶対に勝てない。【封獣結晶(キューブ)】を持ってないならな」

 瞬間だった。

「【選択抹消(ディセレクト)】!」

 アリサージュが言うやいなやクイーンの描いていた天召陣に傷がつく。

 本来、天召陣は召喚した魔物の傷に比例してボロボロに崩れていくものだが、封滅師の抹消技能は、その天召陣に干渉できる。

 もちろんレベル差、ランク差によって成功率は変動するが、同ランクであれば抹消技能のほうが優位に働く。

 兄者フェンリルが消え、兄者フェンリルの雄叫びによって召喚されていた弟、姉妹フェンリルも消えていった。

「なっ?」

「知らなかったなら、今後のために知っておいたほうがいい。まあここで死ぬなら意味ないが」

 言いながら、クイーンの全身を見て

「とはいえ、その【擬人化】とやらは解けないみたいだな」

 九尾之狐が呼ばれた天召陣にも【選択抹消(ディセレクト)】は使用されていたが、クイーンはいまだに九尾之狐の【擬人化】のままでいた。

「さあてどうする? 増援でも呼ぶか?」

 テアラーゼとアリサージュ、キムナルとヴィクアがクイーンを囲う。

 フェンリルが一瞬で消え、どこか寂しさがある一方でそれでも多勢に無勢でも劣勢でもない雰囲気がまだクイーンの周囲には漂っていた。

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