表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
72/873

実力

 7


 ジネーゼたちの番が始まって六分が経過していた。魔方陣が輝き、ナイトゴーントとグールが出現する。

「ようやく現れたじゃんよ」

 待っていましたと言わんばかりにジネーゼが声を荒げる。ナイトゴーントから飛び降りつつも爪を振り降ろすグールの攻撃をジネーゼはさらりと避ける。

「当たらないじゃんよ」

 ジネーゼは後ろに回りこむと短剣〔見えざる敵パッシーモ〕を突き刺す。これには自分で作り出した、いわば自家製の猛毒が塗ってあった。その毒にあたってグールが一瞬で倒れた。

「ヒュウッ♪」

 それに満足したジネーゼは口笛を鳴らす。

「グールに効いたってことはゾンビ系魔物(モンスター)にも効く可能性が高いってことじゃんよ!」 

 満足そうにそう続けるも、

「でも、あっけなさ過ぎるじゃん。じわじわと倒すのが毒の醍醐味じゃんよ。もうちっと遅効性にすべきじゃんね」

 結果を見て冷静に分析する。ジネーゼにとっては的狩の塔(ハンティングタワー)も実験の場を兼ねていた。

「それよりも上のは……」「どうするのよー?」

 一定の言葉ごとに変わる声色が部屋に響く。喋ったのは右半分が炎の紋様(ファイヤーパターン)、左半分が氷の紋様(フローズンパターン)で象られた紋様の纏衣(パターンドレス)を着る女冒険者だった。服装も特徴的だが、髪型と眉も特徴的だった。右半分が水色に白交じりのオールバック。左半分が赤に橙色交じりの長髪。右側の眉は髪型と同じく水色と白で彩られ、しかも長く太い。対して垂れ下がった前髪に隠れている左側の眉は髪型を同じく赤と橙色で彩られているがこちらは短く細い。その不均一な形が、ある種の美しさを見せていた。

 フレアレディ・フロストマンというその冒険者はジネーゼとリーネが的狩の塔(ハンティングタワー)に参加するために雇った冒険者だった。四本の短剣を巧みに操る操剣士フレアレディの協調性は高い。急造のパーティながらも邪魔にもならず、けれども突出せずふたりの攻撃に合わせていた。

「上空四十(メーチェル)か……」「私らの四本の剣の射程距離は三十二(メーチェル)」「残念だが……」「四十(メーチェル)だと届かないわねー」

 男の声色から女の声色へ。ふたつの声色を交互に使い分けながらフレアレディが無念そうに呟く。

 そんななかナイトゴーントが(ターゲット)を破壊し、総得点が減点される。

「どうにか届かせるじゃんよ!」

「一度言ったと思うが……」「私らの射程距離は三十二(メーチェル)」「射程距離に入らなければ……」「対処しきれないのよねー」

「何か法則性があるのかな?」

「どういうことじゃんよ」

「さっきからターゲットが出る前に移動してる」

「確かに……」「それはそうねー」

「だとしたらどういう法則性じゃんよ」

「それは分からないけど。でも(ターゲット)が出る前に、破壊している(ターゲット)に向かっていくのは確か」

「つまりそれは……」「どの(ターゲット)に行くのかを」「いちかばちかで……」「狙いを定めるのも手ってことねー」

「じゃないと点が減る一方じゃんよ」

「だとしたらおれ達が……」「適任ねー、私らの剣なら」「高さ三十二(メーチェル)、距離四十三(メーチェル)まではカバーできる」「しかも四つの剣全てを違う方向に移動できるおまけつきよー」「そうそうできる技術じゃないけどな……」

「なら任せるじゃんよ」

「最低でもナイトゴーントの邪魔さえできればいいよね?」

「その通りじゃん。フレアレディも無理はしないでいいじゃんよ」

 近場の(ターゲット)を破壊しながら三人の話し合いは終わる。ナイトゴーントが壊すよりも速く(ターゲット)を壊しているため、点数は上昇を見せていた。

 だがそれでは他の冒険者組と同じだろう。それではレシュリーに実力を見せつけることはできない。もっとも三人ともレシュリー組の驚異的な点数など知ることすらせず試練に望んだのだが……。

 赤色の耳短剣〔強火のゴブレット〕、青色の耳短剣〔薄氷のゴーフレット〕、橙色の耳短剣〔弱火のコフレッド〕、白色の耳短剣〔淡雪のコブレード〕、四つの耳短剣(イヤードダガー)がフレアレディの指示により、夜鬼が狙うかもしれない新しく出現した(ターゲット)へと向かう。

 耳短剣(イヤードダガー)柄頭(ポンメル)が耳のような円盤になっていることが由来だった。その円盤とその下に作られた溝によって巧く親指がかけれるようになっており、逆手で持つことによって突き刺す際に貫通力が増す。

 だが、操剣士フレアレディは手を使わずに意志で耳短剣(イヤードダガー)を自在に操っているのでその特長を生かせてない。とはいえ、接近戦で普通に戦えば、その貫通力で突破することも可能だった。

 その四本の耳短剣(イヤードダガー)を操り、さらにナイトゴーントを追うフレアレディ。新たに出現した(ターゲット)のうちひとつに目標を定めるとその(ターゲット)にナイトゴーントも向かっていた。

 全ての耳短剣(イヤードダガー)をナイトゴーントに向かわせ、

「トドメ……」「だよー」

 少し気の抜けたような気合と同時に四本の耳短剣(イヤードダガー)を加速させた。途端、ブザーが鳴る。

 同時にナイトゴーントが消え、今まで出ていた(ターゲット)まで消失する。的狩の塔(ハンティングタワー)の終わりだった。

「終わってしまったじゃん……」

「結局、倒せずじまいだね」

「あと少し……」「だったねー。残念、残念ー!」

 ナイトゴーントが倒せなかったことにそれぞれが言葉を述べ、フレアレディはふたり分の嘆息を吐く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ