少変
『eizas sazie>変化?』
スタータクトの光ものこりひとつ。ひと際輝く光のみ。
だがその前に体に変化が起きる。
スタータクトが地面に落ちる。見れば握っていた右手。指が徐々にだが石化が始まっていた。
さらに腹に痛み、いつの間にかぎざぎざの傷ができており、それも広がっていく。
同時に頬が熱くなり、やがて爛れていく。
どこから足も凍傷によって凍りついていく。
全て状態異常だった。
石化に裂傷、火傷に凍傷。
状態異常における火傷や凍傷は、皮膚に寒さ冷たさが作用して起こる凍傷や、焚火などの熱で起こって生じる外傷としての火傷とは違う。
状態異常と定義される先頭における魔法によって発生する身体的症状のことを指す。
その状態異常が一度に四つも発生していた。
『eizas sazie>なんなんだよ、これ?』
「アル先輩がしてくれたぼくの自己紹介、きちんと聞いてた?」
レイシュリーが言う。
「ぼくは〈少変〉の異質者だよ!」
eizas sazieはピンとこない。
レイシュリーの声が聞こえたPCの何人かが気づいて視線をレイシュリーに向ける。
その何人かには思い当たる節があるらしい。
『gatti tWman>そいつの魔法は魔法障壁で完全に消滅させるか、避けるかしないと!』
『eizas sazie>魔法障壁なんてないっ!』
素直にeizas sazieは素直に白状する。スタータクトから発射される魔法は反属性以外に防げないという強みがあるが、その強みを消されたら太刀打ちできないのが弱みだった。
スタータクトを手放したeizas sazieにできることはただ祈ることのみだった。
状態異常が進行する。
シャアナたち資質者が各属性の威力を上昇させるのに対し、異質者は各属性に対する状態異常を付与する力を得る。
レイシュリーはなかでも〈少変〉ですべての属性に対して状態異常を付与する力を持っている。
eizas sazieが放ったスタータクトの魔法の反属性で魔法を打ち消すともに、その属性の状態異常を発生させていた。
『gatti tWman>ええい、もう少しで状態異常回復の料理ができるってのに』
『HUMA・Ntte117>そそそそそういう情報は、非公開チャットですすすすすするるるるべべべきき!』
とはいうが終極迷宮から非公開チャットは戦闘時以外という制限があるのでその指摘は実は間違ってはいるが、敵に情報的利益を与えるように喋ってしまったのは利敵行為なのかもしれない。
いやどこかで自分が状態異常を治して役に立てる、目立てるという承認欲求を優先した結果なのかもしれない。
結果、とんでもないPCに目を付けられたが。
護衛であるが、シャアナはじっとしていない。好き勝手暴れまわるのがシャアナの役目。
『gatti tWman>補佐っぽいことして点数稼ぎってこと?』
『HUMA・Ntte117>キキキキミにそうおおおお思われたっていいいいいいっ!』
HUMA・Ntte117は軽くあしらう。点数稼ぎ発言は時間稼ぎでしかない。
すでに連撃が始まっていた。防ぎきれない。
自分にできること、gatti tWmanは連撃の中、地面に落ちていた魔食材を拾い、瞬間料理を発動。
瞬時に料理が作成される。視線でeizas sazieとsaikyou manを指定。ふたりの状態異常がひとつ解除。
四つの状態異常を付与されたeizas sazieも、凍傷によって動きを鈍くなっていたsaikyou manも、凍傷が解除される。
『gatti tWman>これが精いっぱいだ……』
最後の連撃が終わり、gatti tWmanが消失していく。
『saikyou man>助かるっ!』
普段通り動けるようになったsaikyou manがタミとともに進軍。ゲシュタルトの黒弾を受ける盾としての役割を再開。
『eizas sazie>なめんなよ』
石化によって指が動かないがなんとかスタータクトを拾い、ひと際輝く光――光棘を発動させる。
が途端に【闇叫波】によって打ち消される。レイシュリーが無言で素早く対応していた。
もうeizas sazieへ興味を失っている。移り変わりが早い。
『eizas sazie>見えないっ!』
同時に暗闇の状態異常が起きていた。暗闇だと理解はできている。けれど戦場で突然見えなくなる、というのは理解していても恐怖が沸いてくる。
そうして聞こえてくるのだ。剣戟の音、魔法の音、怒号に、足音。
その合間から
「「熱は柳緑、湿は花緑青、熱は若芽、湿は黄浅緑、熱は青漆、湿は左伊多津万」」
寸分狂いのない、双子の声が聞こえる。
それは暗闇で目を奪われたeizas sazieには死神の声のように聞こえた。
一度意識してしまえば、その声は鮮明になったかようにずっと聞こえていた。
この声の終焉は、詠唱の終わり。そして双子の魔法が発動する始まり。
震えが止まらなくなった。スタータクトには次の魔法が準備されていたが、そんなのはもう関係なかった。
スタータクトを放り出して手探りするように床に触れて、慌てふためき、双子の声が遠くなるように逃げ出していた。




