一発
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レシュリーたちが終極魔窟に向かってから半月後、画期的な発明品が世の中に誕生する。
そのふたつは昔から研究がされていたが成功せず凍結寸前だったが、ジョーカーとクロスフェード、研究者のなかでは悪名は知られながらもその研究成果で研究者から一目を置かれていたふたりの死亡が、急速に研究を進める結果になった。
ジョーカーの研究成果は闇市に流れ、クロスフェードの研究成果はコジロウが"特異"に関しては処分したが、クロスフェードが参考に収集していたと思われる別の研究に関しては、アエイウたちの報酬として手渡していた。
そのアエイウが歓楽街の宿代にと商人に無理やりその研究を買い取らせ、それが巡りに巡って研究者のもとへとたどり着いていた。
クロスフェードの研究成果とそれまでの研によって開発されたのがchartDCS。
ジョーカーの研究成果とそれまでの研究によって開発されたのがLabel AI。
chartDCSはそれまで困難とされていた試練攻略の道筋を表示する端末だった。終極迷宮では、地上では入手できない情報が手に入る。
その仕組みを利用してchartDCSは終極迷宮の情報源にアクセスできるようにしていた。
ただし、世界の法則としてランク7未満の冒険者は終極迷宮を認識できない。
ゆえにchartDCSはその法則を潜り抜けるために、誰が使用しても試練攻略の情報しか入手できないという縛りを設けた。その縛りによって冒険者なら誰でも試練の情報が入手できる。
情報はchartDCSに『共闘の園の攻略方法は?』と入れるだけで良い。それだけで終極迷宮の情報源に蓄積された情報が手に入る。
もちろん、その情報がすべて正というわけではない。
世界は変わる。
世界改変によって試練は幾重にも難易度を変えてきた。
その影響はchartDCSに初めは表示されない。そういう情報がないからだ。あくまで今までの情報しか表示されない。
それでもchartDCSは急激にランク6、そしてランク7の冒険者を増やす結果になった。
そうしてランク6、ランク7が増えることで終極迷宮の情報源に新しい情報が蓄積され、chartDCSは自動的に最新の攻略情報を導き出していく。
ただし、現状攻略情報が表示されるのは悪戯の聖域まで。それはそれ以上の攻略をした冒険者がいない示唆なのか、圧倒的情報不足によってまだ情報がないのか、それは不明だった。
chartDCSの開発者ですらその深淵を知る由はなかった。
もうひとつ、Label AIは魔法士系複合職の概念を覆した。
元来、魔法士系複合職は後衛で前衛に守られながら詠唱し、高火力を押し付けるのが主な役割だった。
Label AIはその役割を覆し、クレインが生み出した打術も相まって魔法士系複合職ですら前衛で戦えるように進化させた。
癒術士系複合職も回復時は詠唱するため後衛に下がることもあるが、それも不要になった。
Label AIは魔法士系、癒術士系複合職が必要とする詠唱を自動的に担ってくれるのだ。
さらに高速演算によって、詠唱者の早口とは比べ物にならないほど高速で詠唱を行う。
無詠唱よりは遅いが詠唱よりも段違いに早い自動詠唱は、Label AI搭載の機杖を用いることで誰でも簡単に使用できるため、魔法士系複合職の強さが際立つようになっていった。
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「ということです。よろしく先輩方!」
アルの紹介から続く挨拶もそれなりにレイシュリーは目の前のsaikyou manを圧倒していく。
本来、魔法士系複合職、上級職のもつ杖は基本的に樹枝と宝石の組み合わせで作られるが、機杖は宝石は必要だが、柄の部分は樹枝ではなく鉱石になっていた。
レイシュリーの橙極石の機菱杖〔和を平つヴアナラ〕もLabel AI搭載で、自動詠唱によって魔法が紡がれていく。
魔法は独自の始動の祝詞。そして属性の定義があり、魔法の発動へと続く。
魔法を唱えたいという思考をLabel AIが読み取り、独自の始動の祝詞を自動詠唱。つづいてどの魔法を発動したいかという思考を読み取り、その魔法が発動するように属性の定義を行う。
備え付けられた宝石が仄かに光れば詠唱準備は完了だった。
『saikyou man>だからどうなってんだ!』
『1ppatsuya-1828>魔法じゃないのに、魔法とか? 魔法なのに技能とか?』
「分からないなら、諦めてくださいよ。時代遅れですよ!」
『eizas sazie>調子に乗んな! あほたわけ!』
魔導士たちと同様に杖を握るPCが介入。彼の握る五星の杖――スタータクトは先端が星のようになっており、それぞれの角に五色の魔法を宿す。
「それ、教戒前線マジカルダクターだね」
ロイドが指摘する。ロイドも終極迷宮にて生き続ける冒険者だ。無数のPCと出会っている。
言い当てられて驚いているPCの表情は経験の浅さを物語っていた。
eizas sazieはどこかでNPCたちが自分たちに対しての知識がないと思っていた。
「五色の魔法はそれぞれそのまま五属性を示していて、炎なら氷、風なら地っていうように反属性で対応する必要があるんだよ」
ロイドはさらりとその知識を披露する。
『eizas sazie>知ってることに驚いたが、だからどうした。この世界の魔法使いたちはそれぞれ得意な属性が決まっていて、それ以外はあんまり得意じゃないって知ってるんだよ』
「やれやれ。偏った知識をお持ちのようだ。まあいい。僕が対応しようか」
「いえ、先輩はそのネズミ顔みたいな人の足止めをお願いします。その間にぼくが倒しますよ」
「なら任せようか」
ロイドはレイシュリーの顔を立てて、タミへの特典〔魔法の捕縛〕へと攻撃階級1を中心とした魔法群を連打していく。
タミも焦りがあった。
ディエゴを封殺したことが多少自信には繋がっていたのだが、それは一対一の話。
ロイドの演奏による高速詠唱とシャアナの特典〔炎上勝報〕による攻撃階級5以下の炎属性魔法の無詠唱による猛攻をタミは特典〔魔法の捕縛〕で処理していくがeizas sazieに向かうレイシュリーには気を割けない。
気を割いた分だけ捕縛の精度が落ちるが、eizas sazieを助けるべきかどうか。
『saikyou man>くそっ、凍傷のせいで動けないっ!』
『1ppatsuya-1828>この中にお医者はいませんかぁ!?』
1ppatsuya-1828もsaikyou manと同じキャラ選択型FPS十五人の夜明けのキャラのひとりを選択していた。名を根こそぎタンスケ。根こそぎタンスケはいわゆるヒールキャラではなく……いや悪役設定ではあるが回復役割ではなかった。
ただ1ppatsuya-1828の声は届かない。そこかしこで、様々なPCとNPCがぶつかり合っているのだ。聞こえる範囲も狭く、なおかつNPCの魔法の爆心地がここだ。そこにいざ勇んで現れる回復役はいなかった。
後退すればきっと回復役が待機しているはずなのだが、そもそもsaikyou manは、鎧が重いうえに凍傷のせいで動きが鈍っていてそこまで逃げ切れるとは思えない。
タミが手伝ってくれて魔法を封殺できればたどり着くかもしれないが、そうすれば前線はきっと魔法の猛攻によって壊滅する。
今一番に考えるのはタミを失わないこと。
『1ppatsuya-1828>俺が止めてくるっ!』




