呼声
『Buddhak's etra>お待ちなさいなのですワー』
また制止が入る。二度目の制止にPCの何人からか文句が垂れたが制止した当の本人はお構いなし。
『Buddhak's etra>わったくし、あなたには従いませんのですワー』
「……」
キングは何も言わなかった。まるで理由を待つようにただ待っていた。
『Buddhak's etra>だってあなた、気に食わないのですワー。どうして仲間をそうやって切り捨てれますの。ここでけがをしておりますジョレスさんもあなたの仲間なのでしょう。でしたら、あちらの球使いさんがアリーさんにそうしているように、あなただって何かしらの手段でけがを治して差し上げればいいのにどうしてそうして差し上げないのです?』
言いながらBuddhak's etraはジョレスを回復させていた。
「くだらんな」
キングは理由を聞いて笑っていた。
「使えなくなった駒は切り捨てるだけ。それに見ろ。王たる王に従う者どもを。ハハハ、まだ増え続けているぞ」
キングの野望は達成まであと少し。今いるレシュリーたちをPCを使って倒せばいいのだ。だとしたら手負いのジョレスもまた邪魔なだけだ。人質にされるぐらいなら戦いに乗じて殺したっていいとまで考えていた。
『Buddhak's etra>でしたらわったくしはあちら側につきますのですワー』
「ふっ」
制止された時点で言うとでも想定していたのだろう。キングは笑い言い放つ。
「勝手にしろ」
申請したばかりのPCに動揺が広がるが
『yahks>じゃあ俺もそっちに行かせてもらう』
申請したばかりのひとりがPCのなかから颯爽と飛び出し、姿を見せる。ガムを膨らませながらの登場だった。
Buddhak's etraが不良少女の装いなら、そのPCは不良少年。周囲からの視線を浴びたときには膨らんだガムが割れて格好悪かったが。
『Buddhak's etra>あらあらまあまあ万年二位さんですワー』
『yahks>そ、そうだが……ここで言うことか、それ』
『bouillon・base>それずるくないか。俺たち一応キングに従うから申請したわけで』
観戦者ではあったが、コメントをしない主義であるPCが申請の条件を叫ぶ。
『yahks>いいや違うね。キングは「お前たちが望むなら、申請を許可してやる」って言ったんだ。従えっていうのは蛇足。従う代わりに申請を許可したとは言えないね』
『bouillon・base>屁理屈!』
まさにその通りだが、キングに申請してきたPCを強制的に従わせる術はない。従うのが交換条件とも取れるが、それは一方の裏切りで簡単に破棄できる交換条件でもある。
もちろんyahksもキングに対して不義理さを感じているが、それよりなによりBuddhak's etraに協力するためにyahksは申請したのだ。
だから屁理屈だろうが不義理だろうがなんだろうが、yahksは自分の信念に基づく。
じゃあ俺も、私も、とyahksと同じ不良番長をプレイしているPCがキングからの離反を表明する。
『B0DH1・5ATTA>ボクっちゃは{当然}、{引}き{続}き{悪者退治}を{続行}するよ』
B0DH1・5ATTAはレシュリーを一瞥。そのあと当然約束は守ってね、と視線で確認する。
『Tillie Yan Chu>まあジョーカーに勝ちをもらったののら、敵対するものなあ……なんだかなな感じののら』
ジョーカーに恩義でも感じたのか、勝負するならその後で。そう考えたのかTillie Yan Chuは宣言。
『HUMA・Ntte117>ぼぼぼぼぼくはシャアナさんのためならなななな何度だって……』
失恋したHUMA・Ntte117は、やっぱりシャアナを忘れられないでいる。失恋したとしても恋は冷めない。
『Shr@vaka>わしは転生したいけど、まだそれより、何より決着ついてないみたいっぽいな』
レシュリーたちに味方する義理はないShr@vakaだが、転落して失格したShr@vakaはテンテンとの再戦を熱望していた。
「なるほど。これは面白い」
キングは反旗を翻したPCたちをひとりひとり見渡していく。
『Buddhak's etra>あなたはどうするんですワー?』
Buddhak's etraは振り返り、治療していた後ろの男へと問いかける。
その男はPCではない。
「キングさん……」
Buddhak's etraの後ろで治療されていたジョレスが口を開く。
「あなたは今、美しくない。だから俺は美しいほうにつく」
「そうか」
キングは興味なさげに一言。
ジョレスにアリーをぶつけたのはキングの采配だ。見事に殺せたのならジョレスの忠誠心を認めようと思っていたが、アリーの出現で心が揺らいだのならもういらない。という判断だった。
野望のためにキングはどこまでも仲間を切り捨てる非情さがあった。
「だが、そっちについたところでお前たちは勝てるのか?」
PCの数はゆうに二百人を超えていた。まだその数は増え続けている。
戦っていたPCたちがこちらの味方になり、そのPCに賛同した何人かも仲間になってくれているがそれでも数は三十人にも満たない。
「もう裏切る人間はいないか?」
キングは皮肉り、周囲を見渡す。
「では始めようか。戦いになればいいが……なあ?」
戦斧〔従事する親友ケイリー〕を再度握りしめる。
嘲り、
「行け!」と促すとテンテンとタミが先陣を切る。
途端にその場の全員の動きが強制的に止められる。
「なんだ? なんだこれは?」
大地が揺れるが、キングの視線は上を向いていた。
上空には、キングが作った亀裂とは他にもうひとつ亀裂が生まれていた。
その亀裂の先には暗闇ではなく、十個の次元が映っていた。
〘――させません――〙
〘――あなたの好きにはさせません――〙
声が響き渡る。
ここはキングが十個の舞台に転送させるために作ったある意味では待機室だった。
だから何の意志もないはずだった。
だがキングの野望を阻止せんと世界が動いた。
先ほどの揺れは世界改変だった。
それは偶然か、いや王の野望が次元の統一であるならばそれは世界を揺るがす。
となればこれは世界の抵抗なのだろう。
待機室だった部屋に意志が宿る。
言うなれば転送転移世界ダイバーシティ。
その意志は、世界に呼びかけた。
亀裂からその呼び声に応えた戦士たちが転送されてくる。
「なんだなんだ、とりあえず目の前のやつを叩き潰せばいいのか? シュリ?」
現れて早々、偽剣〔狩場師範ソォウル〕を担いで現れたのはディオレス・クライコス・アコンハイム<8th>。緊張感がないのか後ろにいる女性に問いかける。
「前向いてね」
シュリ・リハンネ<8th>という一緒に転送されてきた女性が呆れていた。
「そんなことより吾輩の雄姿を見るのだ、シュリ!」
ユーゴック・ジャスティネス<8th>がシュリに自らの筋肉をアピールするが、シュリは見向きもしない。
「私という天才が助けにきてあげましたよ。感謝してください」
ディオレスの隣には後ろに双子の冒険者を引き連れた冒険者ラッテ・ラッテラ<6th>。
後ろの双子はポポン・ポパム<6th>とパパン・ポパム<6th>。
「こんな面白い情報を秘密にしているなんてひどいね」
続くのは紫装束の男だった。言葉から情報に固執しているようにも見えるのはブラギオ・ザウザス<9th>。
「カッカッカ! 最強の敵はお前か?」
ソレイル・ソレイル<5th>が擬似刃屠竜剣〔竜を穿つバットンギッハ〕の切っ先をキングへと向ける。
「やめて。いきなりは失礼よ」ギネヴィア・シークエリ<5th>がソレイルの頭を小突く。
「よう、バカども。助けにきてやったぞ」
「兄さん口を慎んで。いっつもそう。それが兄さんの悪癖! だから友達いないんですよ」
「いるわ。バカ!」
テアラーゼ・アトス<9th>とアリサージュ・アトス<9th>。アトス兄妹<9th>の名物でもある口喧嘩が始まる。
「女の人がいっぱい。キムナル、それでも私だけを見ていて。見ていないと殺す。すぐ殺す」
「ひぃぃいいい、分かってるよ~。分かっているよ~。ヴィクア」
どこか震えているキムナル・ラディージュ<5th>とそのキムナルに密着するヴィクトーリア・リネス・アズナリ・ゴーウェン・ヴィスカット<5th>が次いで登場する。
キングが呼び出した亀裂のように、転送転移世界ダイバーシティが生み出した亀裂から続々と冒険者たちが召喚されてきていた。
〘――来て。助けに来て――〙
その呼び声は当然、〈10th〉の世界にも聞こえた。




