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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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氷解

「さあ、始めようか」

 キングの声に何人かのPCが応っ! と応える。

 その声だけで怖気づきそうになるなか、負けじとキングへと睨み返す。

 けれど数の差で見れば圧倒的に不利だった。

 瀕死のアリーが必死に立とうとするが傷は完全には癒えていない。アルルカも瀕死で、ルルルカも封印されてしまっている。

 ジョーカーたちが十分に戦力になりえるのは理解できている。コジロウだっている。

 でもそれでもなお、やっぱりアリーが隣に立ってくれてないだけで僕は恐怖に負けそうになっていた。

「いよいよ待て」

 一触即発の雰囲気を制止したのは、<7th>のクルシェーダだった。

 頭痛がするのか時折頭を擦りながら

「キングよ。いよいよ約束を守ってくれ。舞台(ステージ)での戦いには勝利した。だから妻子を返してくれ」

「何を言っている?」

「いよいよとぼけるな。そういう約束だったはずだ。いよいよ勝てば妻子は返すというそういう約束だった」

「はあ……」

 キングはため息を吐く。

「そうか。そういえばそうだった」

 面倒くさそうに、「そういう設定だったか」とぼやく。

「なーるほど。キーング。あなーたはあれを使ったのでーすねー」

 仲間割れの様子を聞き耳を立てながら窺っていたジョーカーがふたりへと割って入る。

「【掌握の八得(エゴシエイト)】。人が弱っていーるときを利用して人を意のまーまに操ーる王家に伝わる秘術中の秘術。かーつての歴史でも暴君しか使ったこーとがない代物でーすよ。こちらの次元(サーバ)でーもジャックとクルシェーダに使わーれて困ったもーのでしーたが……考えてみればクルシェーダがそちらにいるのなら使われていーて然るべきでーしたねー」

「【掌握の八得(エゴシエイト)】……?」

 その言葉が合図となっていたのかクルシェーダは頭を抱えて蹲っていく。

 まるで何かを思い出しそうなように。

「ジョーカー。その……【掌握の八得(エゴシエイト)】ってその誰かを操ったりするってことだよね、人操士みたいに」

「イエース。人操士の【誘惑召集(テンプテーション)】の強化版とでーも思えばよいでーす。けれど強力ゆえに使用制限もありまーす。使えば疲労感で倒れーるらしいですから、今この場で使われることはないでしょう」

「なるほど。きっと僕たちの次元のジャックもそれに操られていたんだ。途中でこっちの味方になってくれたけど」

「効果が切れーたか、切れーるきっかけがあったのでーしょう。わたーくしの次元ではわたーくしが治しましたが」

 ジャックの秘密が紐解けていく。かつての疑問が氷解していく。


 ***


一方で

「あああああああああああああああああああああああああああっ!」

 絶叫が木霊し、クルシェーダがキングへと向かっていく。

「いよいよどうしてっ! どうしてあのまま殺してくれなかったっ!!」

「命を救った恩人に対してそれはないだろう。お前はお前が妻と呼ぶ女を死なせた絶望から自殺しようとしていたではないか。それを救ってやったのだぞ。そのせいで三日も寝込んだ。その代わり、お前は美しく献身的な妻と子どもを作るという夢を見れた。そして王たる王に人質にとられたという理由で今まで生きる理由があったではないか」

「だったらどうして目覚めさせた。あのまま死ねなかったのなら、操られたまま死んだほうがましだった!」

 クルシェーダの慟哭が周囲に響いていく。

 キングはあくまでも冷淡に、「お前の強さは都合が良かった」とだけ言った。

「ああああああああああああああああああああああ! いよいよ殺してっ! いよいよ殺してやるぅううう!!」

 死に場所を選べなかったクルシェーダがキングへと斬りかかる。

 クルシェーダの目には涙。操られる前の直後の光景が脳裏に映る。

 〈7th〉のクルシェーダの旅路は〈10th〉のクルシェーダと似ている。

 ノバジョの父親がハングリードマンの犠牲になったのはクルシェーダのせいで、そんなクルシェーダをノバジョは恨んでいた。

 しかし事実はノバジョの父親がハングリードマンを倒すために犠牲になり、クルシェーダは悪者でも自分を恨んで生きてくれればいいと思っていた。

 それから数年後、ハングリードマンが再襲来しそれをクルシェーダが撃破したあと偶然ノバジョと再会。

 罵詈雑言を吐かれ別れたはずだったが、同時に倒したバイホーンの肉をノバジョは盗んでいく。

 その肉は下処理をしなければ毒性を持っており、ノバジョはそれを食べていた。

 〈10th〉の場合はそこにジネーゼがやってきてノバジョを救ったが、〈7th〉の結末は違っていた。

 そこにジネーゼはやってこない。

 やってきたのはキングだった。

 嘆き自殺しようとするクルシェーダの心の隙をついて【掌握の八得(エゴシエイト)】をクルシェーダを自分に従えたのだ。

 斬りかかるクルシェーダにキングは問いかける。

「もう特典を使用しているのだろう?」

 特典〔夢見心地(トゥルーエンド?)〕の発動はキングには分からないはずだった。

 クルシェーダはその言葉を受けて一瞬動揺。

「それがどうした」

 すぐに一蹴。

 分かったところでキングには対処はできない。

 YEN-GAKUのような対処方法をキングが使うとは到底思えないのだ。

「その反応が分かればいい」

 キングは戦斧〔従事する親友ケイリー〕が躊躇いなくクルシェーダの肩へと叩きつけられる。

 そのまま肩の肉に斜めへと食い込み、胸へと到達。脇腹を抜けてクルシェーダを切り裂いた。

「いよいよざまあみろ」

 倒れ様にクルシェーダは言う。

 夢から目覚める。

 そこには地面に倒れ、夢通りに肩から脇腹までを切り裂かれたクルシェーダが倒れていた。

 キングはそのクルシェーダを見下している。

「な……んで……」

 見上げて問う。見下して答える。

「亀裂を入れたまでだ。余計なことをしてくれる……」

 息絶えたクルシェーダに吐き捨て「最後以外はいい駒だった」そう告げる。

 クルシェーダは知らない。

 ノバジョを失った直後にキングがなぜそんなにも都合よく現れたのか。

 簡単だった。ノバジョは復讐心に満ちていた。そんな人間ならキングは【掌握の八得(エゴシエイト)】がなくとも言葉巧みに操れた。そしてバイホーンの肉を盗ませ食べさせた。

 クルシェーダの心を壊して駒として使うために。

 もっとも最後のこの反抗は想定外だった。

「さて余計な時間を食った。始めようか」

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