野望
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十つの舞台の戦いが終わった。
体験版のPCだったTenjyo Amanoが申請できたような不具合がPC側の対応によって排除され、誤作誤動生域バグのデバッグ完了によって終極魔窟に存在したであろう不具合が排除された。
前者はキングにとっては予想外の幸運。後者はキングにとっては当然の結果。
両者が合わさってキングの野望は到達に一歩近づいていた。
十つの舞台の生存者が転送前にいた部屋――待機室へと転送されてくる。
***
「アリー!」
僕は傷だらけのアリーの元へと駆け寄っていく。
【回復球】では回復細胞の活性化が少なすぎるが、それでも展開し、傷を癒していく。「ありがと」と小さく声が聞こえた。
「これは驚いた」
声が響いたほうを振り向くとそこにはキングがいた。
キングは周囲を見渡して拍手をしていた。
「まさか引き分けとは」
空中に表示された勝利数は 3vs3vs3。
「他次元の来訪者たちがこれほど健闘しているとは想定外だった。いや何より想定外だったのは、敗北者たちが想像以上に生き残っているというところだ」
そう言われて周囲を確認する。
キング側の生存者は6人。
キングにクイーン、こちらの次元の一本指クルシェーダに似た冒険者と前に司会をしていたテンテンに似た冒険者。それぞれ<7th>のクルシェーダとテンテンなのだろう。それと少し離れた場所にPCといるのは瀕死の……ジョレス!? それにもうひとり。名前は知らないが目線が合うと「ししし」と笑った。
PC側の生存者は僕とともに戦ってくれたB0DH1・5ATTAのほかに四人。それぞれ名前を確認していく。
王子様のような格好しているTillie Yan Chu。シャアナに話しかけようとしているのはHUMA・Ntte117で、唖然としているように見える変形したドラゴンのような姿のPCがShr@vaka。ジョレスの傍にいるのはBuddhak's etraだ。
一方で僕たちの生存者は――
「あれ……落ちたのになんで?」
レストアが生きていることに驚愕し、
「やはり死んで正解でーしたねえ」
とジョーカーが意味深に喋り、
「我も生きているとはな」
とゲシュタルトは格好をつけていた。
各々死んだと思わせる機会があったのかもしれない。
アリーとルルルカは瀕死の状態で、コジロウとロイド、シャアナは傷や疲れはあれど余裕があった。
まさかの全員が生存。
いや――違う。
「姉さんがいません。そんな……まさか……」
アルルカが絶句。青ざめた表情で何度も何度も周囲を探っていた。
けれどルルルカはいない。
「彼女は王たる王の野望のために封印させてもらった」
「解放してくださいっ!」
ルルルカが激高してキングではなくクイーンへと向かっていく。
クイーンが封印したというのは前もってルルルカも知っている。
「落ち着くでござる」
満身創痍のルルルカをコジロウが止める。満身創痍のままでは勝ち目がない。
「落ち着け。殺しはしてない。<3rd>のルルルカ・エウレカの力は危険すぎる。だが、その危険すぎる力にこそ利用価値はある。お前たちは、自分たちが来たからこそ王たる王の野望を止めれる。止めてやると思ったのではないか?」
キングは語る。
「それは違う。お前たちが来たから、いや来てくれからこそ、王たる王の野望は上方修正された。レシュリー・ライヴ、お前の知恵と勇気を利用してデバッグを完了させた。そしてルルルカ・エウレカの力を封印して利用することで王たる王の野望は革新的に前へと進む」
「結局、お前の野望はなんなんだ?」
「そうか。言ってなかったか」
***
「×××、あなたは王になるのです」
ビビンゾベは言った。そばかすが特徴の男だった。幼少から×××に仕える兵士のひとりだった。
「×××どのぉ! 剣はこうやって扱うのですぞぉ!」
声が大きいソゾゼブラを幼少の××はあまり好きではなかったけれど、それでも剣の扱いは兵士一だった。
「ジグゾグ、例の計画だが……」
王は寡黙な兵士によく意見を求めた。ジグゾグは気恥ずかしいのか王へと手紙を渡すがそこには緻密な戦略が描かれていた。×××はそれをこっそり見て密かに憧れた。
「王には秘密ですよ」
トネイリーはいつも優しく笑顔を絶やさない人だった。王には内緒でよくおやつをくれるので幼少の×××は臣下のなかで一番好きだった。
キングはこのまま平和が続けばいいと思っていたがそうはならなかった。
王が倒れ、次の王を決める継承戦が始まった。
「フォクシーネには勝たねばなりません」
母がキングに言い聞かせた。
「××、あなたは王になるのです」
ビビンゾベは声高らかにいつも以上に主張した。
「××どのぉ! 先方はお任せあれっ!」
ドワハッハッハ! ソゾゼブラが大笑いするが成長した×××は前ほどこの男が嫌いではなかった。むしろ頼もしくもある。
「あなたに仕えましょう」
それまでもそれからもジグゾグの声を聞いたことはない。それでも昔から憧れていた×××はその忠誠心に信頼を寄せた。
他にも兵士のケイリーやグンデリン、忍んででかけた先で意気投合し兵士となってくれた鍛冶屋のバンジョー、×××に力を貸してくれる人はたくさんいた。
フォクシーネ家との継承戦は勝てるはずだった。ドゥラグーン家が王となり、そのなかでも×××の家系が頂点となり、レッサー・ドゥラグーンと名前を改めた他の親族がドゥラグーン本家を支えるはずだった。
なのにたったひとりの裏切りで、×××は王にはなれなかった。
「×××。諦めてはなりません……。あなたは必ず……必ず王になるのです……」
死に際にビビンゾベは言った。呪いの言葉だった。
×××は自らをキングと改め、そして王になるための道を歩み始めた。
***
「王たる王は王となるのだ! ただし他の次元のキングとは違う。王たる王は全ての次元を統一する王となるのだ」
キングの野望がキングの口から告げられた。
キングにも秘めたる思いがあるのだろうが、全ての次元を統一するということは今、十個ある次元がひとつになるというのは想像がつく。
それがどういう事態を招くのか分からない、分からないが、最悪も考える。
もし、統一に伴って人格がひとつしか生存できなかったら……最悪の場合、僕が消える。いや僕の大好きなアリーが消えて違うアリーになってしまう可能すらあった。
冷汗が止まらない。
「そんなこと、させてたまるかっ!」
思わず叫ぶ。
「だったら止めてみろ。お前の先ほどの言葉 次は絶対に倒してやる? だったか? やってみろ。やれるものならな」
「ワテクシの準備はできていますことよ」
クイーンの傍らにはいつの間にか水晶体が出現していた。
「姉さんっ!」
気づいてアルルカが走りだそうとするのをコジロウが止める。傷は回復錠剤で治りつつあるが、戦えるまでになるのは時間が必要だった。
クイーンが取り出したのはルルルカが封印された水晶体だった。
「やるぞ」
キングの言葉で水晶体が光り輝き、待機室の空中に歪みが生まれ、やがて亀裂が生まれる。その亀裂の先には何も見えない。
「傍観者たちよ」
キングは言う。「機会をやろう。お前たちが望むなら、申請を許可してやる。従えっ! 王たる王の野望のために従え!」
何を言っているのか分からなかった。
けれど、亀裂の先から無数の光が現れ、その光が人型を模って、姿を顕現させる。
そうしてキングの言葉の意味がようやく分かった。
姿を顕現させた者たちの頭上に名前が表示される。
G.K67、mugen、jiHibiki、yurumon、Genius667、Mr.CHILEPepper、R.O.D、R.I.PPN、hinat@、f0ll0w、enjoy-ji、G-5 robot、JACK unch
傍観者とはつまり十つの舞台を見ていたPCの観戦者たちだった。
キングは彼らが申請する権利を与えていた。
亀裂の先から現れる光の数は止まらない。
neko ne5o、yahks、no na1me、B.B.Baby、Bullet229、JACK unch、rarara-2by、⊿・ω・α、Deba.K、Deddomenz、m@rk-kenji、miso_Know、naida777、JUMO、fan.taro
名前の奔流。まるで洪水のように顕現する様々な姿をしたPCに思わず圧倒される。
数はどんどん増え続けている。
what'sUP、065pro
PCたちは顔見知りもいるのか手を叩いて喜んだりする者もいれば、僕たちを睨みつけている者もいる。
gara.ges、day-Knights、Labbit、hirayuki、CROW-CLOW、source:de:re:、Demon・Ogure、moji=sya、JIJIRIN、rama、roheo、purera、Tora;pet、Den.D、XYZot、k:u:r:a:、asura = o2、azura = 02
「勝てるのか……」
思わず、弱音が出た。
byebye young、do through、( eye )、you G row、hide44、Deadheat……
PCの数は限りなく増え続けていく。




