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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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手直

「やはり、お前が来るか」

 キングが想定していたとばかりに姿を見せたB0DH1・5ATTAへと茂みから強襲する。

『B0DH1・5ATTA>{不意打}ちだなんて{悪者}だなあ』

 決めつけは良くないが挑発でもあるのだろう。

「誰だってするときはする」

 キングは言い返しはするが、決してむきにはなっていない。挑発は失敗だったが、その挑発も安物。乗るわけがないだろうとB0DH1・5ATTAも想定していた。

「鎌が見当たらないが、どこかに預けてきたのか?」

『B0DH1・5ATTA>{託}してきた』

「見ず知らずの男に、か? 信用に足るのか、大丈夫なのか? 裏切らないとも限らない」

 キングは言いながら幅広刃剣〔大音声の臣下ソゾゼブラ〕を振るい、それをビットマップソードで受ける。

『B0DH1・5ATTA>{裏切}られたらそこまで。でも、{裏切}らないよ。{話}してみればわかる。{人}ってのはそういうものだろ?』

 鍔迫り合いから距離を取り、再び間を詰める。何度かの剣戟。

 キングが特典〔減点にして弔電(デバフオンパレード)〕を使わないのはB0DH1・5ATTAにもデバフをバフに変えるバグがついていると判断しているのかもしれない。

「どうだろうな。この世界ではお前たちは(プレイアブル)(クリーチャー)。言ってみれば化け物だ。お前が信用したとて、あっちが信用しているとなぜ言える?」

 キングは【収納】から火炎瓶を投げつける。バグを【火炎球】で消滅させたレシュリーの真似だろう。

 B0DH1・5ATTAの後方で火炎瓶が割れ、密林に生い茂る草々を燃やしていく。

「うまく投げれないものだな」

 討伐師は投球技能を使用可能だが、道具の投擲には技能は影響しない。本人の腕前次第だ。

 もちろん、投球技能の経験が高まれば、感覚で投げるこつ、当たるこつが分かるものだが、キングにはその経験が乏しい証左だった。

「まあ、問題ない」

 刀身だけが赤く、それ以外が真っ黒の、炎上魔刀〔従僕ビビンゾベ〕を取り出して一振り。

 振った先に炎が宿りそれがじわじわと広がっていく。

「火種があればそれは広がり続け、一度ついた炎は死ぬまで消えない」

『B0DH1・5ATTA>{厄介}だけど……{分}かってる? {今}の{今}までバグは{起}こってない。もうボクっちゃたちの{目論見}はほぼ{成功}してるってことだ』

 キングも耳を澄ましてようやく気づく。

 蔓草を刈り取る音と吸い込む音を。

 その音が近づいてきて、キングは円盤型の球を視認する。それもふたつ。

 円盤型の球は周囲を青い光で照らしていた。

 その光にはどういう効果があるのかキングは分からなかったが、それでもキングは笑ってしまう。

 その笑いの意味をキング以外は分かっていない。

「ごめん。遅かった?」

 【転移球】でB0DH1・5ATTAの傍に現れたレシュリーが問いかける。


 ***


『B0DH1・5ATTA>いや、ちょうどいいぐらい』

 その返事を聞いて僕は安心する。

 もちろん、作成に戸惑ったということはない。方針としてはピクセルシックルと【照明球(ケミカルライター)(タイプ:ブルー)】と【誘引黒球(ブラックホーラー)】を【超合】と決めていた。

 そこは揺るがない。

 けれど完成した【蠅取捕獲球(バグキャッチャー)】が本当にバグに通用するか心配でこっそりと試していた。

 成功したからこそ、その場に自信作として展開している。

 論理としては、円盤型の【蠅取捕獲球(バグキャッチャー)】の先端についたピクセルシックルの鎌が球の回転とともに蔓草を刈り取るのが一段階。

 その刈り取った蔓草を【蠅取捕獲球(バグキャッチャー)】の真ん中の穴が吸い取り、それをエネルギーに変換。そのエネルギーを使って【蠅取捕獲球(バグキャッチャ)】は青い光を発生させる。

 青い光はインスタフライを機能的細胞死(アポトーシス)させたように蠅系の魔物に機能的細胞死(アポトーシス)を発生させる。

 バグも機能的細胞死(アポトーシス)したことから逆算的に蠅系の魔物だった。

 今考えれば、【照明球(ケミカルライター)(タイプ:ブルー)】でバグを倒せるか試してから【蠅取捕獲球(バグキャッチャー)】を作成すべきだったのだけれど、それを試すことなく【蠅取捕獲球(バグキャッチャー)】を作ってしまっていた。

 ピクセルシックルがひとつしかないことを考えるとあまりにも危険な賭けだった。

 元から危険な賭けだったけれどさらに賭けの危うさを増してしまっていたことに気づいて冷汗が出る。

 B0DH1・5ATTAには黙っておこう。

 僕の両手から投擲されたふたつの【蠅取捕獲球(バグキャッチャー)】が効力を発揮していくなか、その球を黙ってキングは見つめる。

「PCの道具が【超合】に使えるなんてありえない話だ」

 キングは素直に感心していた。

「バグってるならあり得るでしょ」

 この舞台(ステージ)の特徴を皮肉って言ってやる。

「それもそうか。それにしても……」

 キングは何が面白いのかにやついていた。

「これほどまで……これほどまでうまくいくとは……」

『B0DH1・5ATTA>これを{狙}っていたとでも{言}うつもり?』

 格好をつけた感じでB0DH1・5ATTAが問いかける。僕も分かりかけてきた。

「ああ、この舞台(ステージ)だけ特別でね。他の舞台(ステージ)で起こりえる異常事態を最小限にするために、この舞台(ステージ)のみバグを蔓延させた。王たる王の野望には異常事態は少ないほうがいい。けれど、けれどだ、この誤作誤動生域バグのバグも取り除く必要がある」

『B0DH1・5ATTA>ピクセルシックルを{持}っているボクっちゃが{選}ばれたのは{蔓草}を{刈}り{取}ってバグを{発生}させるため?』

「その通りだ。本当はお前がバグに手間取っている間に王たる王が炎上魔刀でバグを燃やす算段だったが……そこにお前たちが現れたため計画を変更したのだ」

 僕の投げた【蠅取捕獲球(バグキャッチャー)】は停止することなくバグを取り続けていた。

「お前たちを追い詰めお前たちが打開策を見出すのを待っていた。褒めてやる。よくやった!」

「これ以上思い通りにはさせない!」

 強制的に【蠅取捕獲球(バグキャッチャー)】を停止させる。

〘――全てのバグが取り除かれました――〙

 時すでに遅し。バグの除去が告知させる。

〘――デバッグ率が一番多い者が誤作誤動生域バグの勝者となります。よって、勝者レシュリー・ライヴ――〙

 僕たちはキングを倒しての勝利を目指していたが、そもそもキングは野望のために動いていた。この舞台(ステージ)でのそもそも目的が違ったのだ。

〘――勝者には敗者の生死与奪権が与えられます――〙

「どうする?」

 僕よりも早く敗者であるはずのキングが問いかける。

「その権利を使えば、王たる王でも殺せるぞ」

 確かにそうだ、と納得しかけるが――

「だが、その場合当然、B0DH1・5ATTAも死ぬ。生か死か、どちらかを生かしてどちらかを殺すなどという都合の良い展開はないぞ!」

 次の言葉で躊躇ってしまう。

 思わず、B0DH1・5ATTAを見る。B0DH1・5ATTAも悟っていた。

『B0DH1・5ATTA>{躊躇}うな』

 格好をつけた感じで、B0DH1・5ATTAが断言する。覚悟した表情だった。

「さあ、殺せ。殺すを選んでみろ。レシュリィイイイイイイ・ラァアアィイイイヴ!!」

 キングが愉悦の笑みで僕を見つめる。

『B0DH1・5ATTA>{躊躇}うな!! ボクっちゃのことは{敵}だと{思}え!』

 そう思えたらどんなに楽なことか。

 バグを掃討するため協力し合った。たったそれだけ、とは割り切れない。

「生存。生存でいい」

 言い捨てる。

「ハハハハハ! やはりそうだよなあ。お前は敵に非情で味方に優しすぎる。それがお前だ、レシュリー・ライヴ。だから王たる王の野望に利用しやすい」

「次は、次は絶対に倒してやる!」

「やってみろ! 王たる王の野望は止められない!」

 キングが高笑いする。

 そうして僕はどこかへと転送されていく。

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