法則
6
「終わったならさっさとこっちを始末するでござる」
僕とアリーがグールを相手しているさなか、コジロウは【苦無】でナイトゴーントを威嚇しつつ的を破壊していた。けれどナイトゴーントの行動は早く、コジロウの頑張り虚しく減点のほうが多い。それでもコジロウがいなければもっと減点していただろう。
「そういえばあんた、私に何を言おうとしてた?」
アリーが疑問を口に出す。
「たぶん、ナイトゴーントは的が出る位置を分かっている」
「それは私も思ったわ。でもあんたもそう思ったなら、たぶん間違いないんでしょうね。ひとりならともかくふたりも同じ疑問を抱いたんだから」
「だとしたらあいつを利用して的を壊したほうが早い」
「でもあいつが分かる的はおそらくひとつよ」
近場の的を壊しながら話し合う僕たちのもとへコジロウが戻ってくる。
「おそらくでござるが……あやつ、拙者らがいる位置から一番遠い的を狙っているでござるな。しかも、どうやら距離が点数に比例してるようでござる」
「だから上空のは基本的に点が高いんだね」
「だとすれば私たちが壁際に寄れば高得点の的も予測できるわね。向かう瞬間さえ見逃さなければあいつも倒せる」
「でもそれは最後でいいよね? 高得点の的に向かってくれているなら、それを活かさない手はないよ」
「なら残り三十秒を切ったら、全員が壁際に集合。ナイトゴーントをそこで倒すわよ」
僕とコジロウが頷く。
ナイトゴーントの習性を利用して高得点の的を破壊するのは僕の仕事だ。
僕たちは壁際にゆっくりと向かっていく。的が出現すればそれをきちんと処理をする。
いきなり壁際に移動しないのは、一度出現した的は距離を離しても、得点が変化しないため、離れて倒す利点もないからだ。
だからきちんと処理をして、次に的が出現するまでに壁際に近づく、を繰り返した。
基本的に中距離はコジロウが【苦無】で、近距離はアリーが一気に破壊する。近距離に出たものは点が低いものの数が多く、なおかつ的は破壊しなければ次のものが出現しないため、点が低かろうが破壊する必要はあった。僕は遠距離の的を狙いながら、ナイトゴーントが狙う高得点の的を確実に破壊していた。
僕は【速球】と【剛速球】を使い分け、一個も的をナイトゴーントに譲らなかった。それは成長している証になりえるのだろうか、頭に過ぎった疑問を払いのけ、僕は投げ続ける。
集中すればするほど時間というものはあっという間で、気づけば時間は三十五秒を示している。そろそろだ、僕たちは右隅にはりつくように移動するとナイトゴーントは飛翔を始め、高得点の的へと向かう。
位置は反対側の左上。そこにある的に示された数値は100。最長距離だからだろうか。まあそれを毎回狙うにしたら効率の面から言えば悪いだろう。けれど今回出現させたその的はあくまで囮だ。的の下から破壊するようにナイトゴーントを誘導した僕は球を投げる。
速度は【剛速球】に若干劣るも【速球】よりは速い。
その球が的を打ち抜き、そして軌道を下へ変化させる。僕が投げたのは【剛速球】でも【速球】でもなかった。
その正体は【変化球・急落下 】。一定の距離を保ったあと、速度を少し落として軌道を下へと変えるその球は的の下から的へと向かっていたナイトゴーントを見事に打ち抜き、地面へと激突させる。受身を取れなかったナイトゴーントは倒れたままだが死んだわけではないだろう。
僕が球を放った瞬間、いや高得点の的の出現を確認した瞬間だろうか、すでにアリーとコジロウは走り出していた。アリーがレヴェンティに宿していた【加速】が解放され、アリーの移動速度が上昇。
その速さに何の強化もせず追従するコジロウ。ナイトゴーントが地面に激突する頃にはナイトゴーントに辿り着いていた。
コジロウが蝙蝠の翼を【苦無】で打ち抜き、ナイトゴーントが地面に拘束される。
「焼け死ね! レヴェンティ!」
その拘束されたナイトゴーントの胸をアリーのレヴェンティが貫き、咆哮とともに解放された【超火炎弾】が夜鬼の身体を焼き尽くした。
同時にブザーが鳴り響く。制限時間の終わりを告げる合図だった。
近くの壁が音も無く開く。そこが試練終了者の待合室へと繋がっているのだろう。
その通路をゆっくりと歩き、やがて辿り着いたのは酒場のような空間。正面には巨大なモニターがあり、画面が先ほどまで戦っていた部屋を映し出していた。
そのモニターの横に映し出されているのは暫定順位。
一位という順位の横には「レシュリー・ライヴ」という僕の名前、加えて点数は二位に繰り下がったアエイウに大差をつける31022点。
「ナイトゴーントとグールの二匹を倒すものが現れるのは実に4年ぶりですよ」
入口側で冒険者を誘導すべき案内人ゴーザックがなぜかこっちにいて、僕たちに賞賛の拍手を送った。
「飛翔するナイトゴーントを早々と倒し、動きの鈍いグールを放っておく。そんな冒険者はこれまで幾度となくいましたが……どちらも倒す、しかも的狩の塔におけるナイトゴーントの習性をも利用して点を稼いだのは実に4年ぶり。ディオレスが率いた組以来の快挙ですよ」
意外な名前をそこで聞いた。
「その弟子ですから」
僕はそれだけ呟いた。
「なんと! それは驚きです。ディオレスは弟子を育てるのが下手だと思っていましたが、おやおやこれはなかなかまあ、考えを訂正すべきですね。ともかくそれが教育の賜物なのか、あなた方の才覚なのか、それがどちらにせよ、おめでとうございますと言っておくべきでしょう」
僕は気さくな案内人ゴーザックになんとなく不思議な感情を抱いていた。的狩の塔の内容というか主に魔物に関して疑問があるが、それは言及すべきことではないのかもしれない。
それよりも次の組が気になった。ジネーゼとリーネがいるからだ。
僕はモニターを注視する。