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tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
71/849

法則

 6


「終わったならさっさとこっちを始末するでござる」

 僕とアリーがグールを相手しているさなか、コジロウは【苦無(スピアエッジ)】でナイトゴーントを威嚇しつつ(ターゲット)を破壊していた。けれどナイトゴーントの行動は早く、コジロウの頑張り虚しく減点のほうが多い。それでもコジロウがいなければもっと減点していただろう。

「そういえばあんた、私に何を言おうとしてた?」

 アリーが疑問を口に出す。

「たぶん、ナイトゴーントは(ターゲット)が出る位置を分かっている」

「それは私も思ったわ。でもあんたもそう思ったなら、たぶん間違いないんでしょうね。ひとりならともかくふたりも同じ疑問を抱いたんだから」

「だとしたらあいつを利用して(ターゲット)を壊したほうが早い」

「でもあいつが分かる(ターゲット)はおそらくひとつよ」

 近場の(ターゲット)を壊しながら話し合う僕たちのもとへコジロウが戻ってくる。

「おそらくでござるが……あやつ、拙者らがいる位置から一番遠い(ターゲット)を狙っているでござるな。しかも、どうやら距離が点数に比例してるようでござる」

「だから上空のは基本的に点が高いんだね」

「だとすれば私たちが壁際に寄れば高得点の(ターゲット)も予測できるわね。向かう瞬間さえ見逃さなければあいつも倒せる」

「でもそれは最後でいいよね? 高得点の(ターゲット)に向かってくれているなら、それを活かさない手はないよ」

「なら残り三十秒を切ったら、全員が壁際に集合。ナイトゴーントをそこで倒すわよ」

 僕とコジロウが頷く。

 ナイトゴーントの習性を利用して高得点の(ターゲット)を破壊するのは僕の仕事だ。

 僕たちは壁際にゆっくりと向かっていく。(ターゲット)が出現すればそれをきちんと処理をする。

 いきなり壁際に移動しないのは、一度出現した(ターゲット)は距離を離しても、得点が変化しないため、離れて倒す利点もないからだ。

 だからきちんと処理をして、次に(ターゲット)が出現するまでに壁際に近づく、を繰り返した。

 基本的に中距離はコジロウが【苦無(スピアエッジ)】で、近距離はアリーが一気に破壊する。近距離に出たものは点が低いものの数が多く、なおかつ(ターゲット)は破壊しなければ次のものが出現しないため、点が低かろうが破壊する必要はあった。僕は遠距離の(ターゲット)を狙いながら、ナイトゴーントが狙う高得点の(ターゲット)を確実に破壊していた。

 僕は【速球(ブレイカー)】と【剛速球(ファストブレイカー)】を使い分け、一個も(ターゲット)をナイトゴーントに譲らなかった。それは成長している証になりえるのだろうか、頭に過ぎった疑問を払いのけ、僕は投げ続ける。

 集中すればするほど時間というものはあっという間で、気づけば時間は三十五秒を示している。そろそろだ、僕たちは右隅にはりつくように移動するとナイトゴーントは飛翔を始め、高得点の(ターゲット)へと向かう。

 位置は反対側の左上。そこにある(ターゲット)に示された数値は100。最長距離だからだろうか。まあそれを毎回狙うにしたら効率の面から言えば悪いだろう。けれど今回出現させたその(ターゲット)はあくまで囮だ。(ターゲット)の下から破壊するようにナイトゴーントを誘導した僕は球を投げる。

 速度は【剛速球(ファストブレイカー)】に若干劣るも【速球(ブレイカー)】よりは速い。

 その球が(ターゲット)を打ち抜き、そして軌道を下へ変化させる。僕が投げたのは【剛速球(ファストブレイカー)】でも【速球(ブレイカー)】でもなかった。

 その正体は【変化球(ムーバー)急落下(スプリット) 】。一定の距離を保ったあと、速度を少し落として軌道を下へと変えるその球は(ターゲット)の下から(ターゲット)へと向かっていたナイトゴーントを見事に打ち抜き、地面へと激突させる。受身を取れなかったナイトゴーントは倒れたままだが死んだわけではないだろう。

 僕が球を放った瞬間、いや高得点の(ターゲット)の出現を確認した瞬間だろうか、すでにアリーとコジロウは走り出していた。アリーがレヴェンティに宿していた【加速(アクセル)】が解放され、アリーの移動速度が上昇。

 その速さに何の強化もせず追従するコジロウ。ナイトゴーントが地面に激突する頃にはナイトゴーントに辿り着いていた。

 コジロウが蝙蝠の翼を【苦無(スピアエッジ)】で打ち抜き、ナイトゴーントが地面に拘束される。

「焼け死ね! レヴェンティ!」

 その拘束されたナイトゴーントの胸をアリーのレヴェンティが貫き、咆哮とともに解放された【超火炎弾(アグヤネストラ)】が夜鬼の身体を焼き尽くした。

 同時にブザーが鳴り響く。制限時間の終わりを告げる合図だった。

 近くの壁が音も無く開く。そこが試練終了者の待合室へと繋がっているのだろう。

 その通路をゆっくりと歩き、やがて辿り着いたのは酒場のような空間。正面には巨大なモニターがあり、画面が先ほどまで戦っていた部屋を映し出していた。

 そのモニターの横に映し出されているのは暫定順位。

 一位という順位の横には「レシュリー・ライヴ」という僕の名前、加えて点数は二位に繰り下がったアエイウに大差をつける31022点。

「ナイトゴーントとグールの二匹を倒すものが現れるのは実に4年ぶりですよ」

 入口側で冒険者を誘導すべき案内人ゴーザックがなぜかこっちにいて、僕たちに賞賛の拍手を送った。

「飛翔するナイトゴーントを早々と倒し、動きの鈍いグールを放っておく。そんな冒険者はこれまで幾度となくいましたが……どちらも倒す、しかも的狩の塔(ハンティングタワー)におけるナイトゴーントの習性をも利用して点を稼いだのは実に4年ぶり。ディオレスが率いた組以来の快挙ですよ」

 意外な名前をそこで聞いた。

「その弟子ですから」

 僕はそれだけ呟いた。

「なんと! それは驚きです。ディオレスは弟子を育てるのが下手だと思っていましたが、おやおやこれはなかなかまあ、考えを訂正すべきですね。ともかくそれが教育の賜物なのか、あなた方の才覚なのか、それがどちらにせよ、おめでとうございますと言っておくべきでしょう」

 僕は気さくな案内人ゴーザックになんとなく不思議な感情を抱いていた。的狩の塔(ハンティングタワー)の内容というか主に魔物(モンスター)に関して疑問があるが、それは言及すべきことではないのかもしれない。

 それよりも次の組が気になった。ジネーゼとリーネがいるからだ。

 僕はモニターを注視する。

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