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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
709/874

欠陥

*** 


 僕は死んでいなかった。

「ふはっ!」

 キングが笑う。

「バグに助けられたな」

 僕は生きていた。

 死に際に発生した重大なバグ、それが僕を救っていた。

「言うなれば、この舞台(ステージ)にいる対戦者が死なないというバグか。随分と幸運だな。それともお前の特典〔最後に残ったものは(パンドーラー)〕が絶望ではなく希望を与えたとでもいうのか」

 幸運なことにその重大なバグの影響で、先ほどの首の傷も癒えていた。

「そのバグは厄介だ」

 面倒くさいと言わんばかりに吐き捨てる。

『B0DH1・5ATTA>{大丈夫}か、{傷}は?』

「死なないバグに助けられた」

『B0DH1・5ATTA>それはまた……{悩}ましいな』

 B0DH1・5ATTAは頭を抱えた。それもそうだ。

 キングにとって死なないバグは自分が影響を受けない以上、厄介かつ必ず取り除かなければならない。

 一方で死なないバグは僕たちにとって有利すぎる。けれどそれがどこにあるか分からないため、その有利さを活かしたままにすればそれ以外のバグも取り除けない。

 死なないが取り除かないで不便のままでいるか、死ぬ可能性があるが正常な動作を手に入れるために取り除くか、天秤にかけて判断しなければならない。いや、それだけじゃない。まだ厄介な問題が残っている。

 だから即断する。

【火炎球】で全身を軽く焼いてバグを取り除いていく。同時に【煙球】も放ち、その煙を鎮火してキングの目を眩ます。


〘――重大なバグが取り除かれました。そのほか、軽微なバグも取り除かれました――〙


「一旦、下がろう」

 B0DH1・5ATTAの手を取って【転移球】を発動。近すぎるキングからまずは距離を取る。

「王たる王は男と手を握る趣味はないぞ!」

 転移後に振り払われる。【転移球】はまだバグっていた。

「そして礼を言おう。もう重大なバグはない」

 また力が抜ける。

 キングの特典〔減点にして弔電(デバフオンパレード)〕が僕の全身の力を奪っているのだ。

「野望の糧となれっ!」

 幅広刃剣〔大音声の臣下ソゾゼブラ〕が僕へと差し迫る。

 僕は動けなかった。

 風を切る音がまるで死神の鎌が迫る音に聞こえた。

 けれどそれは幅広刃剣が振り下ろされた音では決してなかった。

 風を切る音だと勘違いしていたそれは耳を澄ませば、茂みを形作っていた蔓草を刈り取る音だった。

 音が近づいてくる。

 放り投げたピクセルシックルが蔓草を刈り取り、近くの低木へと少しだけ浮かび上がって突き刺さる。

 

〘――バグが発生しました――〙


 途端に体が軽くなった。ごろりと幅広刃剣を避ける。

「またバグを利用したか。運のいい奴だ」

『B0DH1・5ATTA>{大丈夫}だった? {賭}けだったけどやっぱり{発生条件}は{蔓草}を{刈}り{取}ったり{低木}を{切}り{倒}したりした{場合}みたいだね』

 格好をつけた感じで、いや格好良くB0DH1・5ATTAが助太刀に駆けつけてくれる。

「助かったよ」

 冷汗が出た。バグに助けられたのは事実だけどバグのせいで今の危機があった。

『B0DH1・5ATTA>けどこれでまたバグが{増}えた』

「そのバグも厄介だな。特典〔減点にして弔電(デバフオンパレード)〕がバグったというより、その効果の影響を受けたお前がバグったというべきか。デバフがバフになるとは厄介なバグだ」

 キングが恨めしそうに舌を打つ。

「確かに助かったけど……できればバグなしで戦いたいね」

 危険だったけれどもう一度【転移球】を投球。

 今度はバグることなくB0DH1・5ATTAを連れて転移する。

 キングはすぐにでも僕たちを見つけるだろう。

 すぐにバグの打開策を見つけないといけなかった。

『B0DH1・5ATTA>キミっちゃもどうやら{予想}してたか」

「うん。バグは絶対におかしくなるものじゃない。何かの条件があって、あるいは使った回数とかで挙動がおかしくなるんでしょ?」

『B0DH1・5ATTA>そうそう。それがバグの{厄介}なところ。{絶対}に{起}こる{不具合}じゃない』

「僕は本当にただただ運がよかっただけだ」

 死なないバグも、デバフがバフに転じるバグも、運よく正常にバグが起こっただけで、本当に死んでいた場合もデバフがデバフのままの場合もあった。

「バグを一気にやっつけたい」

『B0DH1・5ATTA>さっきの炎で一気に茂みを焼き尽くすか? ってまた格好(括弧)が付かなくなった』

「あれはそんなに火力はないよ」

『B0DH1・5ATTA>でもバグの{発生方法}はわかった。もちろんひとつじゃないだろうけど』

 今度は格好をつけれた感じで、ピクセルシックルで蔓草を刈る。

 バグは発生しなかった。全部の蔓草に存在しているわけではないようだった。

『B0DH1・5ATTA>{蔓草}やら{低木}の破壊で、{確率}でバグが発生し、ボクっちゃたちの{挙動}を狂わしているって感じかな』

 格好がついたりつかなかったりとどっちつかずの感じで何度か蔓草を刈り取ると

〘――バグが発生しました――〙

 告知が流れ、何らかのバグが発生する。

 ブーンという羽音からやっぱり蠅の魔物に近いのかもしれない。

「蠅……?」

『B0DH1・5ATTA>どうしたの?』

「いや……そうか。ずっと前に自分で作ったのにすっかり忘れていた。あるよ、ある。もしバグが小蠅系統の魔物なら一気に倒せる」

『B0DH1・5ATTA>おお。なら……ボクっちゃが{蔓草}を{死}ぬほど{刈}り取って……更地にしたあと、それを使えば……』

「刈り取るのにも時間がかかる。キングがそれを許しはしないよ。デバフをバフに変えるバグが修正されたら一気に叩きにくる。そしてそれが僕の体についているバグが影響なのだとしたら……」

『B0DH1・5ATTA>キングはキミっちゃを{燃}やしてしまえばいいわけだ。バグの{付着}部分を{燃}やせばバグは消滅するとキングも{知}っているから』

 なら{簡単}だ。B0DH1・5ATTAはそこだけはきちんと格好をつけた感じで宣言する。

『B0DH1・5ATTA>ボクっちゃが{囮}になる。そうすればキミっちゃは{自由}に{動}ける』

「でも不安定要素が多すぎる。仮に先に蔓草を刈り取ってバグを大量に発生させたら、とんでもなくおかしな挙動になるかもしれない。それに僕がやろうとしていることが本当に成功するかどうか。まだ試してもいないし、バグのせいで失敗する可能性だってある。賭けになるよ」

『B0DH1・5ATTA>{上等}。そういうのも{全部}ひっくるめて{勝}ってやろうよ』

 茂みがざわつく。キングが余裕を見せつけるつもりなのかゆっくりと蔓草を掻き分けて近づいてくる。

 時間がなかった。

 せめてバグが小蠅系統の魔物かだけでも確認したかったがその時間的猶予さえないようだった。

『B0DH1・5ATTA>{一気}に{刈}り{取}るなら、この{鎌}をあげるよ、だからそれも{含}めて{策}を{考}えて。{信頼}の{証}さ、キミっちゃの{賭}けを{全面的}に信じるっていうね』

 最後の最後に格好はつかない感じだったけれど、その言葉に嘘偽りはないだろう。

 僕がピクセルシックルを受け取ると、B0DH1・5ATTAはビットマップソードを握りしめて、キングの元へと向かっていく。

 B0DH1・5ATTAの信頼を一心に受けて、僕は【超合】を開始する。

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