虫取
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『B0DH1・5ATTA>かあぁっ! かあぁっ!』
僕の隣でB0DH1・5ATTAが口の中で喉をがなるようにして唾を集めて吐き出した。
彼の名前は仲間になった時点で彼の頭上に表示されていた。友好関係が成立すると表示されるような仕組みなのかもしれない。
B0DH1・5ATTAの唾は蔓草が刈り取られて露出した地面へと吐き出される。
『B0DH1・5ATTA>これが{格好}がつかなかった{原因}だろうね』
格好をつけた感じでB0DH1・5ATTAは自らの唾を弄り、そこにあった黒点を僕へと見せつける。
それは小さな蠅のような魔物だった。
『B0DH1・5ATTA>これがバグなのかね? なんにしろ、これでボクっちゃの{格好}は{付}く』
「だとしたら……」
僕も自分の腕を確認すると黒子のように止まるバグを発見する。
パシンと小気味よい音を奏でて手のひらでバグを叩く。
〘――デバッグが完了しました――〙
『B0DH1・5ATTA>これで{良}いみたいだ』
「でも一時的だろうね」
『B0DH1・5ATTA>それは{同意見}。もしかしてだけどボクっちゃが{蔓草}を{刈}り{取}ったからバグが{発生}したんじゃないの?』
「もしかしたらここで取る行動ひとつひとつがバグを発生される要因になってるとかじゃ……」
『B0DH1・5ATTA>なるほど。それも{一理}ある。なんにせよ、デバッグが{壁}に{五百回}ぶつかる、とかじゃなくて{良}かった』
「壁? 五百? どういうこと?」
『B0DH1・5ATTA>こっちの{話}さ』
まるで感傷に浸るように、けれど格好をつける感じでB0DH1・5ATTAは言い切る。すごく遠い目をしていた。
『B0DH1・5ATTA>なんにせよ、{動作}がおかしくなったら、バグを{探}せばいいのか』
解決策はそうだけれど、でもたぶんそんなに簡単にいく話ではないのだろう。
『B0DH1・5ATTA>というか{先}にバグを{徹底的}につぶせば、この{舞台}のギミックはなくなったことになるのでは?』
格好つけた感じで閃いたB0DH1・5ATTAだが
「そううまくはいかないよ。キングが来る。実を言えばさっき僕は【転移球】でキングから逃げていたんだ」
『B0DH1・5ATTA>{早}く{言}ってよ!』
魔補弓〔忠義なる家臣セヤネン〕から放たれた魔力を帯びた矢が、樹木を縫って僕たちへと迫ってくる。
「追尾してくるから気をつけて!」
〈7th〉のキングは討伐師で魔補弓の矢は魔力を少しだけ帯びさせることで、対象に向けて追尾が可能となる。
B0DH1・5ATTAが取り出したビットマップソードで飛んできた矢を叩き割り、僕も同時に【剛速球】で矢じりに的確に当てて粉砕。
けれどそれは囮だろう。
茂みからキングが飛び出してきた。
「さあ、王たる王の野望のための戦いを始めようっ!」
細剣〔裏切りの忠臣トネイリー〕で勢いのまま鋭い突きが放たれる。
その拍子に蔓草の先端が切れ――
〘――バグが発生しました――〙
B0DH1・5ATTAの回避行動が阻害される。
『B0DH1・5ATTA>{探}してる{暇}なんてない!』
足が思い通りに動かないらしい。直撃は免れない悔しさからか、足を思いっきり叩く様子が見られた。
途端にB0DH1・5ATTAの下半身が燃える。
同時に周囲の蔓草も燃えていく。
『B0DH1・5ATTA>ナイスっ!』
下半身の軽度の延焼がバグを消滅させていた。
僕が【火炎球】をB0DH1・5ATTAへと投げたのだ。そしてその炎がバグを消滅させていた。
紙一重で回避できたB0DH1・5ATTAが今度はキングへと襲い掛かる番だった。
ビットマップソードがキングを捉えた。その高速の一撃は確実にキングへと刺さるはずだった――が、
途端に動きが鈍る。
『B0DH1・5ATTA>バグ――じゃないっ!? デバフ?』
「出し惜しみはなしだ。王たる王の前では当然たる事象だ」
『B0DH1・5ATTA>まるでファンタズマティックライフオンラインの{反祝術師}みたいだ』
「誰かは知らぬが王たる王の特典をそんなものと一緒にするな」
一言。
「【攻勢・皇帝型】」
それは討伐師の態勢技能でありながら、固有技能だった。
速度が上昇する。
「避けてみろっ!」
大剣〔戦略家の家臣ジグゾグ〕があり得ない速度で振り下ろされる。
いつ細剣から大剣へと切り替わったのかも分からないほどの速度。
B0DH1・5ATTAを【転移球】で左側へと転移。
『B0DH1・5ATTA>{援護}が{手厚}い』
大剣がB0DH1・5ATTAの元居た場所へと直撃し、衝撃で左右の低木が倒壊していく。
〘――バグが発生しました――〙
途端に僕の右手が勝手に【転移球】を【造型】。キングに向かって放り投げてしまう。
「くそっ! ごめん。そっちにキングが行くよっ」
『B0DH1・5ATTA>{分}かってるっ!』
格好つけた感じでB0DH1・5ATTAは笑う。分かっているのだ。
【転移球】の転移先――裂け目は見えている。そこで待ち構えればいい。
〘――バグが発生しました――〙
見えていた裂け目。そこからではなく、少しずれた場所からキングが出現する。
【転移球】の転移先すらおかしくなってしまっている。
『B0DH1・5ATTA>お{前}っ!』
同時に何かに感づくB0DH1・5ATTA。僕もいい加減気づいてしまった。
「バグの影響を受けないのかっ!」
「王たる王だからなっ!」
〘――バグが発生しました――〙
B0DH1・5ATTAの傍で理由にならない理由を述べたキングの姿が消える。
そのキングすらもバグが見せた虚像とでも言わんばかりの所業。
殺気を感じて振り返れば僕の後ろにキングがいた。
バグは【転移球】はキングを僕の背後へと連れていき、さらには偽物のキングの姿さえも作り出したというのか。
短剣〔愉悦の重臣サイトロ〕の切っ先が僕を捉える。
不可避の距離。
それでもなんとか避けっ――
本能で動こうとする僕の体中の力が抜ける。ありとあらゆる力が僕の中から消えていくような感覚。
「これが王たる王の特典〔減点にして弔電〕だ。王に看取られて死んでいけ」
短剣が僕の首に突き刺さる。血が勢いよく吹き出て至近距離にいたキングの顔を濡らしていくのが見えた。
意識が消失していく。
〘――重大なバグが発生しました――〙




