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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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称賛

 ***


 ――夢が醒める。


「まさか負けを夢見るPCがいるとは――」

 クルシェーダの口から血が零れる。腹には槍で貫かれたような跡があった。

 まるで夢でも見ていたかのように無傷のYEN-GAKUは周囲を見渡す。


 裁判所のように見える舞台(ステージ)は変わらない。

 

 防御禁止

 道具禁止

 5m以上後退禁止


 ただ禁則事項(ロウ)が変わっていた。いや変わっているというより夢と現実の禁則事項(ロウ)が違っていただけだろう。

 傷を負っているクルシェーダの近くにはより重傷の少女が存在していた。もうひとりのNPCか。


『YEN-GAKU>どうして――拙僧さまは――』

 復讐心から台無しにしてやろうと自滅したはずだった。

 そうして思い出す。思い出してしまう。PC界隈で伝わる難攻不落の特典の存在を。

 先程の出来事はその術中だったのだと気づかされる。

 クルシェーダの特典〔夢見心地(トゥルーエンド?)〕はざっくりと言ってしまえば望んだ結末が現実では逆転する。

 ルルルカはクルシェーダを倒した結末を見て、夢の中で与えたクルシェーダの傷を現実ですべて受け取った。

 YEN-GAKUはクルシェーダに倒される結末を見て、夢の中で自分に与えられた傷をクルシェーダに跳ね返したのだ。

『byebye young>すげえ』

『do through>そんな手があったか……。なんで今さら消えたタズマの反祝術師(デバッファー)が参戦したかと思ったけど……』

『( eye )>ああ、難攻不落と言われた特典〔夢見心地(トゥルーエンド?)〕にこんな破り方があったなんて――』

『you G row>どうやって夢だって判断したんだろ? でもすごい!』

『hide44>タズマファンにとって最高の演出だよ』

 特典〔夢見心地(トゥルーエンド?)〕は発動してしまえば一瞬で夢の中。次に使うには一定の期間を置く必要があるとはいえ、いつからが夢の中なのか見ている本人には判断できない。同時にクルシェーダもどんな夢を見るか判定できないが、クルシェーダを倒しに来ている相手に使えば百発百中でクルシェーダを倒す結末を描く――ゆえに必中必勝、難攻不落の特典――はずだったが、それを打ち破ったとなれば称賛されるのも当たり前だった。

 手のひら返しに反吐が出た。

 称賛してきた観戦者は誰も彼もファンタズマティックライフオンラインを辞めたYEN-GAKUへの罵詈雑言を投げた者の名前に当てはまっている。

 素直に感情を爆発させているようには見えない。観戦者はただ都合の良い解釈をして自分の心地良さを優先しているように見えてならない。

『YEN-GAKU>最悪さまの展開だ』

 うんざりするように独り言ちた。

 YEN-GAKUの恨み言はすべて夢の中でのこと。現実ではなかったことになっている。

『YEN-GAKU>圧倒的な敗北さまを求めていたのに夢だったなんて本当についていない』

 ここからわざと負ければより罵詈雑言が強くなるだけだろう。

 観戦者が望むのは、予想だにしない方法で特典〔夢見心地(トゥルーエンド?)〕を打ち破ったYEN-GAKUの逆転劇だ。

 ここで何もできずに圧倒的に敗北してしまえば、

 復讐という憂さ晴らしもできずにまた罵詈雑言を浴びさせられるのだろう。

 そうなれば、おかしな世界で体調不良と精神異常に付き合わされる日々が続く。

「――特典を打ち破られても、ジブンは負けるわけにはいかない」

 腹に深手を負ったクルシェーダがYEN-GAKUへと向かってくる。

『YEN-GAKU>なんなんだよてめぇさまは……なんで、そんなに……』

 降参だって認められているはずなのに、その勝ちのへ執念がどこかYEN-GAKUには鬱陶しい。心がざわつく。

 圧倒的敗北を求めていたのに―ー

『YEN-GAKU>拙僧さまはどうすりゃいい?』

 このまま勝利を目指すか、自滅するか、自問する。

 観戦者のコメントが憎らしくもあるが嬉しくもある。揺り動かされる自分が忌々しいまである。

 禁則事項(ロウ)によって防御もできず、思いっきり後退することもできない。

 クルシェーダが振り下ろす曲刀〔血吐き炎吹きズローリィン〕が目の前まで迫る。

 考える時間は一瞬。

『YEN-GAKU>ああくそ。拙僧さまはスローライフ憧れてんだ』

 机の陰に飛び込んで回避。答えは出た。

『YEN-GAKU>やってやる。やってやるよ。勝利を手土産さまに、まずは運営、てめぇさまを謝らせてスローライフを復活させる』

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