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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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夢寐

 かなり広い部屋だった。前後の壁には天秤を象った綴織(タペストリ)が飾られている。

 だが何よりも目を引くのは中央にある円錐の吹き抜けだった。

 アルルカの立つ位置から正面には長机と十五席の椅子が、アルルカの後ろには腰あたりまでの木の柵を挟んで、百六十六にものぼる席がずらりと並んでいた。左右には扉がある。

 アルルカには馴染みのない異色な空間だった。

 十五席の中央には(ガベル)が置かれており、その上部の壁には三つの禁則事項(ロウ)が記載されていた。


 魔法禁止

 道具禁止

 能力上昇禁止


「ここではそれらを使ってはいけないということでしょうか」

 それがこの舞台(ステージ)の特徴なのかもしれない、とアルルカは推測。

 実際に魔法や道具を使ってどうなるか確認したいが、禁止とされているものを使用して即脱落になる懸念がある。

「いよいよキミがもうひとりの対戦相手か……」

 左側の扉が開き、長身の男が現れる。

 男の右手には十文字槍。その穂先には血がついていた。

 もうひとりの、という言葉からすでにNPCとの決着が着いたようにも推測できるが、アルルカと長身の男、NPCが同時にこの舞台(ステージ)へと転送されたのだとしたらそれはあり得ないように思えた。

 ただなぜかその疑念は解決したわけでもないのに霧散した。

「悪いがいよいよ手加減はできない。こちらには勝たなければならない理由もあるからな」

 十文字槍〔婿思いのバンゼ〕をルルルカに向けて、男は律儀にも名乗りを上げる。

「クルシェーダ・ジェード。いよいよ参る!」

 <10th>では一本指になった男は〈7th〉でもまた名の知れた男だった。

 <10th>では影の英雄。大規模な危機的状況をレシュリーが解決していく傍ら、小規模な、あるいは同時期に発生した放置すれば危機となる事態を速やかに収束させた男。

そんな男は〈7th〉では真の英雄で、そして愛妻家。妻のノバジョともうすぐ生まれてくる息子がいる。ノバジョの父バンセはクルシェーダとノバジョに希望を託して亡くなった。そんな男がなぜかこの戦いに参加していた。

 理由は当然あるが、アルルカには告げたりはしない。それで勝ちを譲ってもらおうなどという考えはクルシェーダにはなかった。

 クルシェーダのたくましい剛腕から、当たれば一気に心臓を貫かれそうな、神速の突きが繰り出される。

 一度ではない。

 二度、三度と続く。

 突きを戻す速度が尋常なく早いのだ。それによって三回振るった突きが、まるで一突きしかしていないように見えてしまう。

「いよいよ初見で避けられるとは……。その髪の毛に秘密が?」

 すでにアルルカもカジバの馬鹿力を発動していた。いや発動していなければ、神速の突きが三度突かれていると見抜けなかったであろう。

 クルシェーダが名乗り上げた時点で只者ではないと判断して、その力を発動していた。

 同時に魔充剣タンタタンに【星明煌矢ルス・デ・ラス・エストレリャス】と【地盤沈下(ランドコラプス)】を宿す。

 魔法禁止とあるが、魔充剣に魔法を宿すのは魔法剣のため分類が異なるのだろう。

 禁則事項(ロウ)を破っているとは見なされてないようだった。破っていたらどうしようと内心心配していたアルルカだが一安心。

 そのまま魔充剣タンタタンを床に突き刺す。突き刺した場所から地面にひびができ、そのひびはクルシェーダへと向かっていく。

 クルシェーダが飛びのこうとした途端、床が揺れ、地盤が沈下。

 魔法剣【地盤沈下(ランドコラプス)】が作用した床が崩壊を始めたのだ。

 態勢をやや崩したクルシェーダに襲いかかるのはそのひびからまるであふれんばかりに飛び出してくる【星明煌矢ルス・デ・ラス・エストレリャス】の光の矢だった。

 魔法抗盾〔天下人ノリヤス〕を取り出したクルシェーダがその光の矢を防いでいく。避けきれないと判断して魔法の威力を減退させる盾で咄嗟に防御したのだ。

 どうやら〈7th〉のクルシェーダは討伐師らしかった。

 だがアルルカの攻撃は止まらない。

 ルルルカのように匕首が襲来。十一本の匕首を自在に【操剣】していた。

 当然、特典〔夢の[亦/真]夢(ドリームドリーマー)〕のおかげである。

 手甲鉤〔伸びろギョイホウ〕へと切り替えたクルシェーダは高速で匕首を叩き落とす。

 が匕首は囮。アルルカは距離を詰める。

「なるほど。いよいよ戦いに慣れている」

 【強突風(ゲイルガスト)】と【竜風(トルネード)】を宿した魔充剣タンタタンが起こす風の推進力で速度を上げたのだ。

 そのまま、クルシェーダを切り裂くべく刀身を押し込む。

「【速勢(スピードスタイル)跳躍型(エリアルモード)】!」

 飛び跳ねるようにクルシェーダがその場を離脱。【速勢(スピードスタイル)跳躍型(エリアルモード)】は自身の敏捷性及び跳躍力を上昇させる討伐師の態勢技能のひとつだった。


 その瞬間、

 

〘――警告っ! 警告っ! 警告っ!――〛


 警報が鳴り響き、どこからともなく警告が発せられる。


〘――現在の行動制限境界デッドラインの禁則事項(ロウ):能力上昇禁止に抵触しました――〛


「なっ!」



〘――違反者には罰を与えますっ!――〛


「いよいよ待て。あの子の身体能力は能力上昇によるものじゃないのか」


〘――彼女が遺伝した、通称、カジバの馬鹿力は能力上昇ではなく基礎能力向上に当たります――〛


「同じことだろう」


〘――分類が異なるため禁則事項(ロウ):能力上昇禁止に抵触はしません――〛


 理不尽といえば理不尽。だが禁則事項(ロウ)というものはそういうものなのだろう。

 アルルカは自身のカジバの馬鹿力が本来の分類が基礎能力向上と知っていた節もある。もしかしたら終極迷宮(エンドコンテンツ)で知った可能性すらある。

 一方でクルシェーダはアルルカのカジバの馬鹿力の能力上昇だと判断し、自身の態勢技能も安全だと勘違いしてしまっていた。

 だからこそアルルカの猛攻に耐え切れず態勢技能を発動して能力上昇を試みた。結果、この様だった。


 黄色い札のようなものがクルシェーダの頭上に現れ、その札がクルシェーダへと雷を落とす。

 急激な痺れ――麻痺だった。

「これは……まずっ……」

 罰を与えられたクルシェーダの隙を見逃してくれるようなアルルカではない。

鎌斬嵐(テンペスタ)】と【炎熱波(ドラウト)

 荒れ狂う風の刃を熱波が包む魔充剣タンタタンがクルシェーダへと迫る。

 痺れはまだ体中を駆け巡ったままだ。

「命までは奪いません」

 心臓は狙わなかった。

 クルシェーダの言っていた勝たなければならない理由というのが気になっていた。

 それでも動けないようにする必要はある。クルシェーダの右足にタンタタンを突き刺さす。熱波が右腿を焼き焦がし、火傷を作り、風の刃が右足を起点として体中に切り傷を作っていく。


 ***


「いい夢見れたか?」

 まるで初夢の感想を尋ねるようにクルシェーダがアルルカに告げた。

 目の前のクルシェーダは無傷だった。

 一方でアルルカは右腿に火傷を負い、そこを起点として体中に切り傷を作っていた。


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