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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
701/874

自明


 ***


 その四匹のフェンリルは今や、ルルルカを包囲していた。

 asura = 02はすでに退場し、活動制限障壁ボトルネックの特徴である壁の移動で難を逃れたルルルカだったが、すぐに追い詰められた。

 迷路の行く先が広場だったのもルルルカにとっては不運だったのかもしれない。

 巨躯のフェンリルが四匹暴れてもまだ十分の広さがある。

「ドウシテ死ナナイ」

「何故防ゲルッ!」

 兄者と弟者フェンリルが吠える。

「――ッ!」

「イイ加減、食ベサセテヨッ!」

 姉様フェンリルは無言で、妹君フェンリルは声を荒げて苛立っていた。

 もう四匹が包囲してから十分以上が経過していた。

 なのに、ルルルカが殺せない。

 兄者と弟者、二匹で追い詰めることはできていた。

 だとすれば四匹、倍に増えた時点で完全に詰みのはずだった。

 四匹がそう思ってしまうのも無理はない。

 けれど兄者と弟者フェンリルとの初遭遇の際、ルルルカはカジバの馬鹿力しか発動していなかった。

 つまりその時はまだ特典を発動してはいなかったのだ。

 変質特典〔最悪な死を招く因子(インシデント)〕は強すぎるがゆえに発動中は延々と疲労していく。

 当然カジバの馬鹿力も疲労の蓄積はあるがそちらは遺伝が強く条件を満たせば比較的安全に使用できる。

 現状は〔最悪な死を招く因子(インシデント)〕とカジバの馬鹿力を併用していた。

 併用によって能力の上昇が重ねがけされ、異様な強さを手に入れている。

 だから四匹 VS 一人という数的不利でも未だ殺されずに生存していた。

 とはいえ、実際は四匹 VS 百本という構図が正しい。

 ルルルカは自在に百本の匕首を操り、時には魚のように、時には竜の顎のように四匹のフェンリルに襲いかかり、二十五本ずつに分担して盾を形作って防御したりとまさに変幻自在。さらにフェンリルの予想外、奇想天外な動きで翻弄していく。

 戦いの天才というのかもしれない。

 〔最悪な死を招く因子(インシデント)〕を手に入れたルルルカはまさに度を超えた強さを持っていた。

「オ嬢ノ期待ニ応エルノダッ!」

 もしかしたら気負いすぎなのかもしれない。

 あの時の肉がなければ、四匹のフェンリルは生存していない。

 クイーンが天召師で、クイーンがフェンリルと同等の強さを持っており、さらに天召陣で無作為に選ばれなければ、この舞台(ステージ)にはいない。 

 恩返しできる機会は今しかない。

 そんな気持ちがフェンリルにはある。

「さすがというべきですこと。四匹を相手に倒されないとは凄まじい力。ワテクシ感心しますわ」

「オ嬢……」

 突如クイーンが現れたため、フェンリルは自分たちに失望してしまったのだと勝手に勘違いしてしまう。

「あらあら、悲しそうな目をしないでくださいまし。言ったでしょう、ふたりの相手をお願い、って。時間を稼いでくれるだけで感謝、感謝ですことよ」

 クイーンは告げる。「準備はできましたのよ?」

 クイーンが現れたときからルルルカは嫌な予感がしていた。

「ワテクシたちは予想外すらも対処する。アナタたちが現れたそのときから、アナタの対戦相手はワテクシだって決まっていた。なぜって? わかりますわよね?」

 ルルルカは既にその脅威について話に聞いていた。

 匕首の幾許かが周囲の迷路に置かれた家具を破壊していく。

「無駄ですこと。なぜこの活動制限障壁ボトルネックにワテクシが宛がわれたか誰しもが予想できたはずですわ」

 クイーンは余裕の笑み。フェンリルたちが召喚されたのも幸運に拍車をかけた。

 匕首の何本かが家具の破壊に回ったということは必然的にフェンリルたちに対応する本数が減少。

「今ガ好機ッ! 畳ミカケルゾ、弟者」

「応ッ! 続ケ、姉様ッ、妹君ッ!」

「言ワレナクトモッ!」

「食ベチャウヨッ!」

 四方からフェンリルの爪が牙が尻尾が襲来。

「――ッ!」

 ルルルカが匕首を一気に集結させる。どんなに距離が離れていても【収納】によって収納し、再び取り出せば手元に戻る。

 自分の周囲に匕首を展開。

 魚群と化した匕首が高速で回転し、フェンリルたちの爪に牙を弾き、尻尾を傷つける。

 四匹のフェンリルが全員苦い顔。

 それでもクイーンは余裕。

「もうアナタは終わっているのですよ。ワテクシの"救済(セイヴ)"は家具を媒体にするというのは既にご存じのはず。けれど壊れた家具も使い方次第では媒体にできる。何せ家具は再使用(リユース)再生利用(リサイクル)は当たり前ですもの。それこそ"救済(セイヴ)"というものではなくて?」

 つまりルルルカが封印されないために家具を壊したのは無意味。そこに設置された時点で詰み。

 そういう意味では迷路のようであり、さらに壁の移動によって動きを制限される活動制限障壁ボトルネックはまさにクイーンが有利の舞台(ステージ)

 クイーンは対戦相手から逃げながら家具を設置すれば勝ち。一方で対戦相手はクイーンに家具を一定数設置される前に倒さねばならない。

 クソゲーと言われても仕方がない状況だった。

「反則級のワテクシだからこそ、強すぎるアナタに宛がわれた。もうアナタに逃げ場はないのですことよ」

 そして発動する。

「【永休牢獄(セイヴポイント)】!」

 サスガ、ディエゴ、トワイライト、一線級の冒険者たちを一瞬にして封印した水晶体の牢獄が、最強の女傑ルルルカを目覚めることのない眠りへと誘っていく。

「恩返シニナラナカッタ……」

 フェンリルたちは自分たちが倒せなかったことを嘆いたが、クイーンは四匹へと近寄り、それぞれの頭を撫でた。

「アナタたちが来てくれなければこれほど順調に封印はできなかったのですことよ」

 クイーンは素直に謝意を述べる。フェンリルたちは少なからず嬉しげだった。戦闘が終わり、天召陣の効果が切れる。

 その陣によって呼ばれた兄者フェンリルが消え、兄者フェンリルに呼ばれた他の三匹も消えていった。

「さて、封印したルルルカの力もキングの礎に致しますことよ」

 不穏な一言を残して、クイーンはその舞台(ステージ)を去った。

 

舞台(ステージ):活動制限障壁ボトルネック

勝者:クイーン・オブ・カグヤ

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