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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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指揮

『asura = 02>指定した範囲の踏破を開始』

 迷路のような通路へと転送されたasura = 02はまずはそう告げて、指揮棒を振るう。音楽家のような装いだった。

自動踏破機能(オートマッピング)を開始しました。踏破中に発見された生命体の位置は自動的に把握(マーキング)されます』

 指揮棒の指揮に合わせて、羽虫にも似た極小の翼竜が無数に出現し、四方八方へと飛んでいく。片目をつぶるとasura = 02を中心にして徐々に地図が広がっていく。

 ご丁寧に自動で生成される地図には活動制限障壁ボトルネックとこの舞台(ステージ)の名前まで記載されている。

 極小の翼竜が舞台(ステージ)を踏破していく。複雑な迷路だが、迷路の壁の上を極小の翼竜ならば飛行できるため、踏破はスムーズに進んでいく。

『asura = o2>普通なら踏破終わりそうなものなのに』

『azura = 02>それだけ広いってことだよ』

 似たような名前の観客がぼやく。このふたりは似たような名前にして同じ格好にしていた。しかも同じ部隊で息を合わせて嫌がらせをしているため、意外と嫌われていた。

 さらに自動踏破が進み、極小の翼竜たちは三つの点――生命体を捉える。

『asura = 02>対戦相手にプラス何かって感じかな? とりあえずあっしも向かうか』

 自動踏破を進めながら、その点が示した生命体の正体を探ろうと近づくが壁に阻まれている。

『asura = 02>対戦相手は向かい側か』

 asura = 02は再び指揮棒を振るう。今よりも激しい指揮。その指揮に釣られて目が大きな竜が出現する。

 白黒模様の体毛。尾ひれのような尻尾と胸びれのような翼を羽ばたかせている。大きな目はまるで後ろから叩けば落ちてしまいそうなほどに飛び出ている。

『視覚を共有します』

 白黒模様の竜が壁を越え、地図に表示された生命体の姿をasura = 02へと送る。

 asura = 02のプレイするドラゴニックオーケストラは指揮棒で竜を操り戦う大規模PvPFPSだった。

 その竜の多様さで日夜様々な戦略が生まれている。

 asura = 02が操る白黒模様の竜デメニギは言わば監視カメラ。死角の確認などに使う援護竜だった。

『asura = 02>大きな狼と、女?』

『asura = o2>犬のほうはフェンリルなのかな。しかも喋ってる』

『azura = 02>女のほうは情報があった。ルルルカ。あのルルルカだ』

『asura = 02>最悪じゃねえかよ』

 ルルルカはかつて味方殺しと呼ばれていた。PCにとっては出会ったNPCを殺してくれるありがたい存在であったが、何が起きたのか、今では出会ったら逃げろ、出会ったら負確と言われるほどの強さでPCに襲いかかる存在だった。

 とはいえそんなルルルカがフェンリルに追い詰められているようにも見える。

『asura = 02>不調なのか?』

『asura = o2>だとしたらチャンスだけど……フェンリルがね……』

『asura = 02>ここは様子見と攻撃の両得。罠しかねえだろ』

 asura = 02が指揮棒を振るう。今度はゆっくりとしかし指揮棒の先端は激しく。

 そして指揮棒を指した先にラッゴトと呼ばれる竜が出現。大きな歯を持つラッゴトはガシンガシンと歯を上下させてぶつけ、笑うように地面へと消えていく。ラッゴトの歯だけが地面に浮かんでいる。歯の色が通路の床と同化して、見えなくなった。

『asura = 02>仕掛けは良し』

 罠を仕掛け、フェンリルとルルルカの戦いを覗き見る。

 ルルルカの転がる先に壁。

『asura = 02>こんなところで終わるのか?』

 残念だからこその呟きではなかった。asura = 02は笑っていた。楽して強者が脱落してくれるならこれほど楽なものはない。

 そんなasura = 02の思考をあざ笑うかのように少しだけ地面が揺れた。

『asura = 02>なんだ?』

 自動で踏破していた地図が書き換わる。

『asura = 02>動くのか壁がっ……』

 動いた壁が多すぎて、変化した地図の変化に追いつけていない。分かったのは壁が動いたことで、フェンリルとルルルカが分断されたということだけだ。

 そしてasura = 02は覗き見に集中しすぎていた。

「アラアラ、姉様。オ嬢ノ敵ガコンナトコロニオリマシテヨ」

「ヨクヤッタワ、妹君。アノコバエミタイナ鬱陶シイノモコイツノ仕業ネ」

 東側の自動踏破機能(オートマッピング)が止まっていることにasura = 02はようやく気付いた。東側は終端にまでたどり着いたと思っていたが、よく見れば確かに途切れている通路があった。

 そのせいで東側からやってくる生命体を|自動踏破機能の小型虫竜バエバエが発見できなかったのだ。

 罠もルルルカや対峙する兄弟フェンリルに仕掛けたもの。

 asura = 02は早合点していた。

 敵はルルルカにそれとフェンリル二匹を操るNPC。

 ――だと思いこんでいた。

 フェンリルが三匹以上存在していてもおかしくなんてなんともない。

『asura = 02>くそっ!』

 asura = 02が大きく指揮棒を振るう。しかし不発。

 指揮召者の振り方が間違っていると竜たちは姿すら現してくれない。ドラゴニックオーケストラはドラゴンが気に入る指揮をするかどうかが鍵。

 焦りがasura = 02の指揮を狂わしていた。

 姉様フェンリルと妹君フェンリルの二匹が、asura = 02を睨みつける。

 兄弟フェンリルと比べて小柄。姉様フェンリルの背中に妹君フェンリルが乗っていた。妹君フェンリルの小柄さなら見えない天井と壁の隙間を通って隣の通路へ移動もできるだろう。

『azura = 02>落ち着けよ。お前ならできる』

『asura = o2>そうそう。こんなの毎度のことだ』

 ドラゴニックオーケストラの対戦は基本的に三つ巴だ。敵を倒し無作為に出現する旗(点)を回収しながら一定得点を目指すというものだった。

 asura = 02とazura = 02とasura = o2の戦略は基本的に他の二部隊が争っているときにのみ攻撃をしかける。それ以外は罠を仕掛けて嫌がらせというのものだ。その戦略は他の対戦者に敵視されるほどで、今では三人がいる部隊に他の二部隊が粘着するというぐらいまでの嫌われぶり。

 ドラゴニックオーケストラでの居場所がなくなり、今回に一発逆転をかけていた。

『asura = 02>黙れ!』

 観客のふたりにasura = 02の怒号が飛ぶ。

『asura = 02>見ているお前らは気楽すぎるんだよ!』

 今回が終極迷宮(エンドコンテンツ)に初挑戦のasura = 02にとって終極魔窟(エンドレスコンテンツ)は未知数すぎる。

 ドラゴニックオーケストラ通りにやればいいと思っていたが、対戦相手がルルルカだと知りびびり、そして現れた姉妹フェンリルの、本物の狼を超えた恐怖に震えが止まらない。

『asura = 02>あっしはできる、あっしはできる、あっしはできる』

「何ヲ言ッテイルンデショウ。姉様」

「サア? 何ヲシテクルカ少シ楽シミダッタノデスケレド」

 妹君フェンリルが困惑した表情を見せると、姉様フェンリルも困った様子で、

「モウイイデショウ」

「ネェネェ姉様。ワタシガ食ベテイイ?」

「エエ」


 ――がぶり。


 asura = 02の上半身が妹君フェンリルの口の中に消えた。クシャクシャと咀嚼音が聞こえる。

残された下半身が床へと倒れ、ゆっくりと消滅していく。


『azura = 02>……』

『asura = o2>……』


 ふたりとも無言。ただ机か何かをバンと叩くような音が聞こえた。

 あっさりとasura = 02は退場した。

 同時に遠吠えが聞こえてくる。

「ネェネェ姉様。兄者ガ見ツケタミタイダヨ。ソッチイコウヨ」

 消滅していく下半身に興味を失った妹君フェンリルが早く行こうと姉様フェンリルを促す。

「エエ。アナタハ先ニ行キナサイ。ワタシモスグニ行キマス」

 姉様に言われるがまま、妹君フェンリルは壁に乗っかり、遠吠えのしたほうへと高速で移動していく。

 姉様フェンリルも迷うことなく通路を疾走していた。迷路だから迷うはずだが、その仕組みは単純。兄者の遠吠えが反響し、姉様へと位置を伝えているのだ。

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