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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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魔狼

 転送されてきたルルルカは自分の身長の二倍以上はある壁の上に立ち、周囲を眺めていた。

 迷路だった。ところどころに大きな広間のようなものが見えるが、大抵はひとが1.5人ぐらい通れる程度の大きさの通路が無尽に広がっている。

ルルルカが転送されてきたのは通路の端で入り口というわけではない。そして、壁に登って見渡す限りでは出口もあるように見えない。

「とりあえず広間を目指すの」

 方針を決めて、壁から壁へと跳躍を試みる。迷路の通路を歩いていくより、壁を跳んでいったほうが、当たり前だが早い。 

 ガンっ!

 勢いよく飛んで、空中の見えない天井に頭をぶつける。

「痛ーっいの!」

 思わず悶える。

 壁に登り、背を十分に伸ばして見渡せたのだからそれなりの高さが存在しているのだろうと思い込んでいた。

 頭をさすりながらもう一度壁に登り、手を高く伸ばしてみると、手を伸ばしきることはできず、頭の少し上、こぶし三個分ぐらいのところで見えない天井があることに気づく。

「はあ、確かめるべきだったの……」

 ルルルカは落胆するが、そういう注意をいつもアルルカがしてくれていたことに気づく。

 <3rd>のアルルカもそうだったし、<10th>のアルルカもそうだ。

 だからいつもより慎重にする必要がある。

 改めて周囲を見渡す。

 壁から壁に飛ぶことによる近道は不可能だ。

 壁に登って、飛び降りて隣の通路に移動は可能だが、それが近道にならない可能性もある。

 そういう手段もあると心に書き留めて通路を歩いていく。

 T字路を左に曲がるとすぐに壺が置いてあった。

 よくある質素な灰色の壺ではなく、螺旋のような紋様が書かれた壺。

 意味深な紋様にも見えるが、意味がないようにも見える。

 ただ、それだけでルルルカには対戦相手が誰だか分かったような気がした。

 ディエゴたちを家具で封印したという説明をレストアからは受けている。

「……」

 嫌な予感とともに気味の悪さを感じて、思わず叩き割る。 

 同時にうおおおおおん、うおおおおおおん、と遠吠えが聞こえてきた。

 その遠吠えに警戒しながらT字路の右手を進んでいるとこちらへと突進する青白い狼の姿が見えた。

「標的ヲ確認シタ」

「守ルゾ、オ嬢ヲ」

 一匹は地面を、もう一匹は並走するように、見えない天井を走ってルルルカを見つけていた。

 フェンリル(魔飢餓狼)だった。

 青白い狼には首輪と手枷。それぞれが鎖で拘束されていたのか、千切れた痕跡が見受けられる。

 どちらとも人を乗せて走れるぐらいの巨体。

「罪ハナイガオ嬢ノ勝利ノタメニ死ンデクレ。行クゾ、弟者」

「モチロンダ、兄者」

 阿吽の呼吸だった。弟者と呼ばれた兄者に比べればやや小さいフェンリルが速度を上げ透明な天井伝いにルルルカの背後に回る。

 同時にルルルカの行く手を阻む。

「クイーンのペットって思ってよいなの?」

「質問ハ受ケ付ケナイ」

 ルルルカの問いかけに答えず弟者フェンリルが爪を振るう。それに合わせて兄者フェンリルも爪を振るっていた。

 弟が右なら、兄は左から。阿吽で揃える。

 右から左へ払われた爪と、左から右から払われた爪が、ルルルカを強襲。

 弟者フェンリルの攻撃を避けた場合、兄者フェンリルの攻撃が当たる絶妙な位置。

 ルルルカは直感で上空に飛んで、兄者フェンリルも攻撃していたことに気づく。

 爪が払われた音がひとつだったので、全然気づけなかった。

 だからこその絶妙。

 さらに間髪なく、弟者フェンリルが嚙みつくために口を大きく開き、兄者フェンリルも横滑りするようにして尻尾をしならせ、ルルルカへと向ける。

 ルルルカは【収納】から50本の匕首を躊躇いなく弟者フェンリルの口へと放つ。

 髪の色はすでに水色に輝き、全力の全力。カジバの馬鹿力はすでに発動していた。

 稚魚の逆襲のような匕首の襲撃に、弟者フェンリルは口を閉じて方向転換。尻尾での強撃に切り替える。

 縦回転の叩きつけで匕首を地面へと払いのける。

 その対応力に驚きつつも、そんな暇はない。後ろからはまだ兄者フェンリルの尻尾による薙ぎ払いが襲いつつある。

 ルルルカは開きっぱなしの【収納】から50本の匕首をまるで盾のように展開。

 匕首の盾と兄者フェンリルの尻尾が激突。

 ルルルカと匕首の盾の間にできた隙間が埋まるほどの衝撃。衝撃がルルルカまで到達し、地面へとルルルカが激突。辛うじて受け身。

 それでも吐血する程度にルルルカの全身に衝撃が走っていた。

 連携が良すぎる。二匹ではなく、まるで二匹で一匹と考えたほうがいいような、そのぐらいの卓越した連携。

「こういうときにアルルカがいてほしいの……」

 立ち上がって素直に心情を吐露。僅かな接敵で弱気の虫がルルルカに芽生えてくる。

 地面へと叩きつけられたルルルカへの追撃は当然止まらない。

 フェンリル兄弟の尻尾が、ルルルカの視界に映る。

 立ち上がっていては間に合わない。

 転がるようにしてその勢いで飛び起きる。目の前には壁。勢いが止まらない。

 ぶつかる、と思った瞬間――フェンリルの兄者、弟者、そしてルルルカを分断するように壁ができていた。

「まるで壁が移動したみたいなの」

 元々壁があった場所が通路に、そして壁ではなかった場所が通路になっていた。

 とはいえ先ほどまで壁だった場所が壁のままという場所も存在するので時間経過で通路と壁が入れ替わるというわけではないようだった。

 法則性があるのか無作為なのか、分からないがそれでも九死に一生を得ていた。

 さらに言えばフェンリルの兄弟はその巨体からか、壁はぎりぎり乗り越えることはできないようだった。

 出現した壁に困惑しながらも何らかの意思疎通を図ったのか、壁越しにどこかへと消え去るのがルルルカにも分かった。

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