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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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奇抜

 クロスフェードに投げた何かの正体はジョーカーが本棚の破片で作りだした木端微刃(こっぱカッター)という新しい道具だった。

「そーろそろ種明かーししましょーうか?」

「不許可だ」

 クロスフェードは言うが特に何かが不許可になったわけではない。

 ただ単に種明かしするな、と言いたかっただけだ。

 もちろん、ジョーカーが勘違いしたら面白いと思ってはいたが、ジョーカーがそんな勘違いをするわけがないとも同時に思っていた。

「もう分かった。いや分かっていたが類似する特典も多い。だが、お前が素材を元に道具を作るのを見て、確信した。お前の特典は〔すてきなどうぐ(クリエイト)作製キット(ツール)〕だな」

 ジョーカーはにやりと笑い、クロスフェードは舌を打つ。

 厄介な特典だった。クロスフェードの初回突入特典〔許可不可(ライセンス)〕は、相手の行動に対して許可、不許可するという単純ゆえに強力で、だからこそ容量制限も存在している。

 一方で、初回突入特典〔すてきなどうぐ(クリエイト)作製キット(ツール)〕はいわゆる「ぼくのかんがえたさいきょうの……」という妄想全開に、素材を元に独自の道具を作成する特典だった。

 自由度は高いが、素材が必要で、さらに作成時に頭の中に箇条書きでもいいので想像を羅列しておく必要がある。もちろん、道具名も命名しなければならない。

 ジョーカーが本棚の木片を素材にして想像して創造した木端微刃(こっぱカッター)は球状でそれが地面と接触することで破裂。四方八方に木片でできた針を飛ばし、接地面には白い花を咲かせるという道具だった。

 役に立つ、立たないは二の次。

 そして何が起こるかはジョーカーしか知る術がない。

 どのぐらいの道具を作り出しているのか――。

 クロスフェードは不愉快な顔を浮かべる。

「不許可だ」

 ジョーカーの手に残っていた木端微刃(こっぱカッター)を不許可にして、【激毒酸(ゾイレギフト)】の魔充剣レルチエでジョーカーに襲い掛かる。

 間髪入れずにジョーカーは【収納】していた道具をいくつも取り出す。道化師(エンターテイナー)が手作りする小道具に似ているものもあるが、どれもこれも奇怪な見た目。見たこともない道具。一目で初回突入特典〔すてきなどうぐ(クリエイト)作製キット(ツール)〕で作成したものだとわかる。

「ヒーッヒッヒッヒ。"特異"でーしたかねえ。次はその解析をしなーいといけませんねえ」

「不許可。不許可。不許可。不許可。不許可。不許可。不許可。不許可」

 ジョーカーの言葉に耳を貸さず、取り出したいくつもの道具の使用を不許可していく。

「不用意に不許可にしーていいのでーすか? 容量が圧迫されれば、わたーしを黙らすことはでーきませんよー」

 言ってジョーカーはさらに道具を出していく。作り物の目玉とばねがついた眼鏡に、舌が二枚になるガム、手の形をした耳当てに、指だけを覆う手袋。

 何の役に立つのか、どんな効果があるのか見当もつかない『すてきなどうぐ』。

「不許可。不許可。不許可。不許可」

 クロスフェードの特典の容量は『すてきなどうぐ』を不許可にしてもあまり圧迫されてはないのは確かだった。道具ひとつひとつの容量を見る限り、大した効果を持っていないように思えた。だが塵も積もれば山となるように少しずつ容量を蝕んでいるのは確かだ。

「よくもこんなくだらないものを発明できる。よほど暇なのか?」

「研究者の風上にもおけませーんね。この世にくだらーないものなんてなーいのでーすよ。思いがけぬ発見はいつだってこういうものから生まれるのでーす」

「言っていろ。研究とは、発明とは、そういうものを排除して生まれるものだ」

「いつだってあなーたとわたーしは相容れない。話し合いをしたーら、普通は妥協と和解が生まれーるものでは?」

「ならばお前が妥協して和解しろ」

「お断ーりでーす」

 とにかくよく喋るジョーカーだが、その言葉に意味があるのかは不明だった。無意味に言葉を羅列しているようにも見える。その間にもジョーカーは『すてきなどうぐ』を【収納】から取り出し、そのたびにクロスフェードが使用に不許可を出した。

 嫌味な上司が有能な部下の提案を棄却しているようにも見えるし、有能な上司が無能な部下の提案を棄却しているようにも見える。

 クロスフェードはジョーカーの策を探りつつ、『すてきなどうぐ』を不許可にして"特異"の使用を窺っていた。

 それでもジョーカーは意味もなく『すてきなどうぐ』を取り出していく。許可してしまえばジョーカーの策にはまってしまうと不許可にしていたクロスフェードだったが、無意味な効果しか持たない『すてきなどうぐ』で初回突入特典〔許可不可(ライセンス)〕で容量の圧迫を狙っているのだと気づく。

 ならば――

 同時にクロスフェードは時間を計算していた。

 次の記録(スキャニング)まであと一分。

 クロスフェードは仕掛けた。

 "特異"を発動させる。まるで視界を不許可にしたと錯覚させるために、この"特異"を選択した。

 "暗転(アウト)"。

 明を暗に、1を0に、ONをOFFに、開を閉に、逆はできない。ある意味で否定する"特異"。

 先ほどは喋ることを不許可にし、視界を暗転させていたが、それもある意味で保険。

 実は口を閉ざし、視界を暗転させることもできる。匂いを封じることもできるし、手足を動かなくすることもできる。

 もちろん、最初にそれをしないのは負担が大きいからだ。

 クロスフェードの鼻から血が垂れる。

 それでも五感を奪い、拘束した。

 もう負けるはずがない。

「なーるほーど。そーれが"特異"でーすかー」

 声が聞こえた。

 思わず足を止める。

 実は床にくっついた唇からその言葉は発せられていたがクロスフェードはその音源を見つけられない。

「小細工を!」

 発せられた言葉に動揺して動きを止めた自分を恥じ、身動きできぬジョーカーへと魔充剣レルチエを振るう。

「ざーんねーん!!」

 ジョーカーはひらりを身をかわす。

「――どういうことだ?」

 困惑するクロスフェードだったが――

「まさか――」

 クロスフェードの"暗転(アウト)"は唯一思考だけは奪えない。

「万操師だったのかっ!」

「ごー名答!」

 また床にくっついた唇が喋る。ジョーカーの作成した『すてきなどうぐ』のひとつ土からでまかせ(ガイアーライアー)によるものだった。

 ジョーカーの手足が自分の意志で動かせないところでジョーカー自体には問題ない。

 ジョーカーは万操師の万操技能【万操】であらゆるものを強制的に操れる。

 ゆえに【万操】で無理やり、手足を動かして回避したのだ。

 が疑問がひとつ。

「どこだ? どこで見ている?」

 視界は暗転させている。見ることができないのであれば、【万操】でもそんなにうまく回避ができるはずがないのだ。

「わたーしの道具を不許可にしーてきたあなーたですが、どうやらあなーたも見たことがないもの、理解ができないもーのは不許可にできなーいようでーすねえ」

「お前の道具の仕業か!」

「ええ、おかーげであなーたの"特異"がわかーりました。あなたの"特異"はいわゆるスイッチのONをOFFにするようなもーの。わたーしの瞼を閉じて視界を奪ったとしてーも、視覚を別のとこーろにうつしておけばなんら問題あーりません」

 『すてきなどうぐ』のひとつ、眼点々鏡(めがてん)は設置した場所に自らの視覚を移す道具だった。

 その道具によってジョーカーは俯瞰するように舞台(ステージ)が見えていた。

 だからこそ【万操】のみで自分の体を動かし、回避が可能になっていた。

 ジョーカーは奇策を用意しながら虎視眈々とクロスフェードが"特異"を使うことを待っていたのだ。

 眼点々鏡(めがてん)土からでまかせ(ガイアーライアー)も極小。

 クロスフェードはジョーカーが取り出した『すてきなどうぐ』を不許可にしていたが、大きめの道具に目を取られ、極小の道具を見逃してしまっていた。

 その一方でジョーカーはあらゆる"特異"に対応するため、『すてきなどうぐ』を仕込んでいた。

 同時に攻撃する策も。

 ジョーカーが避け――クロスフェードが魔充剣レルチエが振るった先には『すてきなどうぐ』おのひとつ起動装置・D4(まーだーだよ)が隠されていた。

 それはジョーカーが扱う万操技能【殺戮機械(マーダーマシン)】を強制的に発動する道具だった。

 技能が強制発動され、ジョーカーが召喚した殺戮機械(マーダーマシン)が起動。3本の大鎌を振り回す四輪駆動の機械だった。

 虚を突かれたクロスフェードだったが辛うじて回避。

 だが無傷とはいかない。

 右腕に深手を負い、魔充剣レルチエを落とす。

 左足にも深くはないが、浅くはない切り傷を残す。


〘――生体情報ヲ記録(スキャニング)シマス――〙


「ちっ」

 生体情報を記録(スキャニング)されたことに思わずクロスフェードは舌打ち。

「不許可だ」

 【殺戮機械(マーダーマシン)】の召喚を不許可にしてごまかすが、

「ほーう」

 ジョーカーは何かを理解していた。

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