許可
〘――生体情報ヲ記録シマス――〙
再びジョーカーに緑色の光が上から下へ照射される。クロスフェードにも同様だ。
「ヒーッヒッヒッヒ。どうせこーれもあなーたに有利な舞台なーのでしょーう? これであなたが負けーたら、大恥も大恥でーすねえ」
またぴくりとだけクロスフェードの表情が動く。
「あなーたは顔に出過ぎなのですよー。耐性がないーというか、まあわたーしもわたーしで人のことーは言えませーんけど」
ジョーカーも別次元のジョーカーの大罪を聞き、凹むあたり同類なのだろう。
気性が荒いというより、実は感情豊かで繊細なのかもしれない。
話だけで記録するまでの時間を消費したふたりだがそれは果たして有意義だったのだろうか、少し疑問にも思えるが、互いに互いが話だけで特典をある程度推測しているのだからそれは有意義と言えるのだろう。
ある程度満足したジョーカーはまたしても【収納】から道具を取り出す。
丸瓶に入った紫色の液体。その中で人造小人が踊っている。溺れていないのも不思議だがずいぶんと楽しげでもある。入り口は木栓で塞がれているが逃げる気配もない。
「そーういえば、【収納】は不許可にしないのでーすねえ」
「そもそも道具は使用禁止だ。お前が使っている道具は正確に言えば特典だろう。意味がない」
「なーるほど。ということは髑髏印の爆弾軍団を不許可にしたのは特典の一部の使用を不許可にしていーるという感じでしょーうか。となれば特典全体を封じーるには、あなーたの特典の容量が足りなーい。いや、PCの不許可が実はわたーしと戦ううーえで容量を圧迫してーいるのでーは?」
クロスフェードはもう少しジョーカーの話に付き合ってやるつもりだった。
「……」
とはいえ問いには答えない。表情さえもこらえた。けれども時には無言が雄弁に肯定を語るときもある。
ジョーカーは納得したように話題を転換。
「とこーろで、この小人住丸瓶は不許可にしなーいでよいのでーすか?」
「ふん。不許可だ」
気に食わないが挑発に乗るように不許可にするクロスフェードだが直後に嫌な顔。小人住丸瓶が消失する。
「やっぱーり、容量が少なめでーしたか? だってそーれ、悪戯で作ったもーのでーすからねえ。その特典はどうやら容量で不許可にしたものの強力さを数値化して計測しているのでーすねえ。それでもその効果は不許可にしたところでもわからなーい感じでしょーうか」
「ちっ、許可だ」
途端に手に持っていた小人住丸瓶がジョーカーの手に戻ってくる。
「でーは差し上げまーす!」
小人住丸瓶の木栓を外してクロスフェードへと投げつけると、紫色の液体かと思われたものが一気に気体化。中にいた小人も足元から気体になっていくが出るのを嫌がる素振り。
ぎりぎりで追い出されるというところで丸瓶の内側から思いっきり外へとバアと手を広げた。
受け取るつもりでいたクロスフェードは完全に驚くがすぐに表情を取り繕う。
「ちっ、やはり貴様は極悪人だ」
「ヒーッヒッヒッヒ。善人もときにはふざけーたりするものでーす。そもそもそーういうことから発明が生まれーるのですよ。もしかーして、あなーたはおふざけする暇があったら発明してしまうタイープですかあ?」
喋り方もだろうが、ジョーカーの言葉はいちいちちくりとクロスフェードの鼻につく。
きっと善人だとしても性格は悪いのだろう。そう考えると性質が悪い。
「不許可だ」
再度出していた小人住丸瓶を不許可にする。
「そーもそも、あなーたは道具禁止だかーら【収納】は不許可にしなーいと言っていましーたが、結局そーれも容量が足りないのでーしょう。例えば【収納】している道具に比例しているから、不許可にした場合、容量超越になってしまうのでーしょう」
「やってみるか?」
「ええ、是非」
挑発に乗ったジョーカーだが、クロスフェードは不許可にできない。図星だったのだ。気に食わなさに顔を歪めて睨みつける。
ジョーカーはクロスフェードをおちょくりながらクロスフェードの特典を解析していた。
名前こそジョーカーは知らないがクロスフェードの初回突入特典〔許可不可〕はクロスフェードが相手の行動に許可と不許可を出せるが、容量が決まっており、不許可にしたものの強さによってそのどのぐらいの容量かが設定される。その容量が定められた容量を超えてはならないという制限があり、その制限を破った場合は当然罰則があるのだ。
「だーいたい、分かりました。でーは次は舞台の分ー析でーすねえ」
「不許可だ。鬱陶しい、喋るな――」
言うとジョーカーはもごもごと口を動かしたが発声ができない。
「いや、許可する」
「ヒーッヒッヒッヒ。わたーしの喋りを不許可にしたーら容量がぎりぎーりになったのでーすねえ」
クロスフェードがすぐに許可した理由を指摘してジョーカーは笑う。
とはいえクロスフェードも一時の感情で不許可にした発声をすぐに解除したのは冷静な判断とも言える。
不許可にできなくするのがおそらくジョーカーの狙いだとクロスフェードは推測していた。
〘――生体情報ヲ記録シマス――〙
三度、緑色の光が上から下へ照射。
ジョーカーとクロスフェードのふたりに照射が終わってからクロスフェードが言う。
舌戦ばかりだが、この二人にとっては妙に似合う。
「ご自慢の推測もいいが、そろそろ場を動かすぞ」
クロスフェードは魔充剣レルチエに【激毒酸】を宿す。
「何を――」
「発声は不許可だ」
クロスフェードが宣言。ジョーカーが口をもごもごしていると突然暗闇に襲われる。
ジョーカーは視界を不許可にされたと推測した。
だからこその暗闇。
だが、クロスフェードの動揺が演技でなければ、クロスフェードの特典は発声を不許可にしたことで容量がぎりぎりになっているはずだった。
よもーや演技? ――それとーも何ーか別の――そーういえばクロスフェードがしていーた研究は何――
スパンっ、ジョーカーの首が切れて落ちる。
同時に思考停止。
【激毒酸】によって首の腐敗と酸化を進ませ、強靭な刃でなくとも切断できるようにした魔充剣レルチエがジョーカーの首を切断したのだ。




