水筒
海岸少年-シーサイドボーイズ- はただただ海岸で遊ぶというコンセプトで作成されたゲームだった。
顔立ちの整った少年、あるいは青年たちがサーフィンにビーチバレーボール、スイカ割り――海岸でできるあらゆる遊戯を行って、水遊王を目指すという目的があった。ちなみにゲームを終えるときにメインに据え置いているキャラクターが私服に着替え海岸からバイクや自転車に乗ってバイバイと海岸から去っていく演出が好評だったりする。
Pre:TAが選んだ赤髪の少年――赤池巡は波乗り板を持っていることからサーフィンが得意だった。
戦闘なんて一切なし、遊ぶだけでレベルアップしていくのは果たしてRPGなのか、という議論があったが、レベルという概念があり、一応遊びと定義されていながらも、他のプレイヤーとサーフィンで競ったりするなど本格的な対戦が実装されていることで、参戦可能になっていた。
そんな波乗り板に謎の手が迫る。
それはタミから伸びた長い長い魔法の手。特典〔魔法の捕縛〕。
がっつりと波乗り板が後ろから掴まれる感触。
Pre:TAの認識としては充電式。だからタミが魔法かどうかの確認のために掴んだとは知りよしもない。
そして掴めたという事実はタミに、その波乗り板が魔法であると認識させる。
〔魔法の捕縛〕で魔法を投げ返すとどうなるか。
波乗り板はPre:TAの意志によって自在に動いている。
前に進む意志とそれに反発する作用が働き、逆走――ではなく、停止する。
推進力が前と後ろに働き、まるでどうすればいいのかわからなくなってしまう。
ジジジ……ガガガ……
波乗り板が嫌な音を立てて爆発した。
上に乗っていたPre:TAはその爆発でもろに砂漠に体を叩きつける。オアシスから出た直後だったのは茂みはなく砂の大地。意外としっかりと固まって激痛が走る。
『Den.D>嘘じゃん。掴まれただけだろ……』
『Pre:TA>どうなってんだよ、知らんけど』
特典〔魔法の捕縛〕をPre:TAたちは知らない。対してゲシュタルトはレストアからディエゴたちに起こった顛末を聞いているため、ここに来てもなお、魔法を詠唱していないのだ。
波乗り板は収納箱を兼ねていたため、波乗り板の損傷に伴い、そこから収納していた道具が取り出せなくなっていた。
『Pre:TA>水筒が……』
必要分は腰に引っ掛けておいたが、余分に収納していた水筒が取れなくなったのは痛手だ。
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喉の乾き:85%
確認しないほうが良かったかもしれない。あとどれぐらい余裕があるのかを確認するつもりだったのに気持ちとは裏腹に、あと15%しかないと焦りが湧いてきた。15%もあるとは考えられなかった。
『XYZot>ワンチャン戻るものありか?』
『k:u:r:a:>危険じゃない?』
オアシスに戻って安全地帯までいけるか考えると五分五分。波乗り板が壊れたのが痛い。
仕方なく、水筒を飲もうとして――手から水筒が落ちる。
『Den.D>うわっ嘘じゃん』
水筒の口から水が零れ、砂漠の砂がまるで空腹の子供の前で食料を食べ尽くすような悪魔のように水を吸い込んでいく。
『Pre:TA>なんだ、あたしの体が動かない。知らんけど』
どうするか。判断する前にゲシュタルトの氷の瞳が空中からPre:TAを捉えていた。
まずは手。手が動くようになったと思ったら足が動かなくなっていた。
眼前には黒弾。
『purera>避けてっ!』
何が起きているか分からない観戦者は祈るしかできない。
Pre:TAが宿る赤池巡の脇腹が一瞬にしてえぐられる。
ゲシュタルト自身、遠距離からの黒弾になれてないのか狙いが少し外れたが、それでもPre:TAは致命傷。
すぐに止血できれば止血したいところだが、体は依然として動かない。
『Pre:TA>だ、だめだ……知らんけど……』
Pre:TAが意識が薄れ、やがて消滅していく。
「結局、どこに隠れたのだ?」
タミはPre:TAと共闘することもできたが、漁夫の利を狙ってふたりともを倒そうとしていたPre:TAに対してそんな気分にはなれなかった。
ゲシュタルトが戦闘を選択する一方で、タミは逃亡を選択。
そう、タミはPre:TAを利用して逃亡を選択していた。
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喉の乾き:50%
タミは未だにオアシスにいた。
ゲシュタルトが安全地帯へと向かっていくのがわかる。タミがそちらに行ったと勘違いしていたのだ。
「あっちに行くのはぎりぎりまで待つでしゅ」




