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tenth  作者: 大友 鎬
第6章 失せし日々
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的狩


「あの方たちが新しい[十本指ザ・ゴールデンフィンガー]の方たちですか。見物ですね」

 案内人ゴーザック・アシモフェが会場に向かっていくレシュリーたちを見つめる。

 受付役の女性もレシュリーの名前に気づいて少し驚いていたが、それでも顔には出さなかった。受付が驚いたと気づいたのはおそらくゴーザックひとりだけだろう。

 さらに受付の女性はアリーとコジロウの名前を見てさらに驚いていた。どうやらレシュリーの仲間がそれぞれ六本指(シックスサム)のアリーと七本指(セブンスインデックス)のコジロウだということも受付の女性は気づいたらしい。

 ますます楽しみが増えた、そう思いながらゴーザックは受付時間を過ぎたのを確認して入口を閉めた。


***


「さて皆さん。的狩の塔(ハンティングタワー)へようこそ。まず最初に言わせていただきます。この試練でランク4になれるのは上位三組九人のみ、それ以外の方々は次回また挑戦ということになります」

 案内人の言葉にざっと見て百人はいるだろうランク3+の冒険者が一斉にざわついた。

「今までの試練では特定の敵を倒せば試練が合格となっていましたが、的狩の塔(ハンティングタワー)では得点が全てです。高得点をたたき出した上位三組がランク4になるのです」

 それは言葉を言い換えれば上位三組に入れば確実にランクアップすると言っているようだった。ルールを初めて聞いた冒険者がざわめく。

「しかしです。例え上位三組に入ったとしてもこちらが指定する得点すら取れない冒険者は不合格とさせていただきます」

 案内人は、つまり全員が不合格になる場合もございます、と前置きして

「気になるルールですが簡単です。この先にあるフロアのどこかに(ターゲット)が出現します。その(ターゲット)には数字が書かれており、(ターゲット)を破壊した際、その数値が得点として加算されます。制限時間は十分。こちらが提示する標準点は八千点。全三十五組が一組ずつ入っていただき、チームごとに点を争います。なお、試練中の映像は試練終了者のみの見学とさせていただきます。受付時に渡しました紙に書かれていますのが各々の開始時刻です。受付順ではないのはご容赦ください」

 僕は渡された紙を見る。今の時刻と照らし合わせ計算してみると五番目だった。

「説明は以上です。早速一番の方どうぞ。外に出られる方は時間厳守でお願いします。遅刻は失格と看做しますのでご容赦を。なお、試練終了後は上位三組以外は解散していただいて結構です。上位三組に関しては待機となりますが、くつろげるよう配慮しておりますのでご安心くださいませ」

「ガハハハハ、行くぞ。エミリー、アリーン。俺さまが一番。ゆえに一位。永遠に一位。ずっと俺さまのターンだ」

 上半身裸で赤鬼外套(レッドマント)を羽織り赤鬼防水着レッドブーメランパンツを履いた男がそこにいた。アエイウ・エオアオだった。

 見なかったことにしよう。うん。それがいい。

 変態性を増したように見えるアエイウ・エオアオが奥の部屋に入っていく。続くのは極少布防水着(マイクロビキニ)姿の従者エミリーとPKのアリーンだった。

 僕はアリーンがここにいることに驚いていた。というかアエイウに付き添っていることに驚いた。いったい、あれから何があったのか、想像もしたくない。熟考停止、思考放棄。

 他の組の男冒険者たちがじろじろとエミリーとアリーンを見て鼻の下を伸ばし、傍らにいた女冒険者に叩かれていた。すでに見るのを止めていた僕はそんなことにはならない。

「順番は何番目だった?」

「五番目かな」

「半端な時間でござるな。町へ繰り出して妙なトラブルに巻き込まれたら遅刻しそうな時間でござる」

「ここで待っていればいいわ。案外時間なんてすぐ経つものよ」

 アリーの提案に僕とコジロウが了承する。

 待機することにした。とはいえ、暇だった。短いようで長い。

「へへっ。なんだかすげぇらしいじゃんよ、落第者!」

 特長的な笑い声に振り向くとそこにいたのは紫髪のジネーゼ。頬に貼ってある星形糊紙(シール)が特徴的だった。ちょこっとだけ存在感をアピールする胸を張って僕へと指を差していた。

「ちょっとジネーゼ、挑発とかはしないでね」

 水色の瞳で僕を見据えてリーネが呟く。

「へへっ、いいじゃんよ。どうせ、ジブンらが一番になるんだし。どんな小細工使って五本指(フィフスリトル)になったか知らないけどさ、ジブンらがここで一番になってお前はやっぱり落第者でしかないって思いしらせてやるじゃんよ!」

「ちょっとジネーゼ、それは少し言い過ぎじゃない?」

「リーネ。人前でだけ良い子ぶるのは少し卑怯じゃんよ! いっつも陰では罵倒の嵐のくせして!」

「そっ、それは関係ないじゃないっ!」

 ふたりが言い争うのを止めるように僕は質問をする。

「ところで、キミらは何番目なの?」

「六番目じゃんよ」

「だとしたらとても残念だ」

「どういうことじゃんよ?」

「僕たちが一位になるからね。キミたちじゃ追い越せない」

「何を根拠に」

「少なくともドールマスターを倒せなかったあんたらには無理でしょ」

 アリーが根拠を提示する。

「何を言ってるじゃんか……ってお前はあの時の!」

「どうやら覚えていたようね。大した因縁ではないけど」

「なるほど、合点が言ったじゃん。思い出してみればお前、島に居たときから落第者に入れ込んでいたじゃん。落第者は所詮落第者で金魚のフンでしかないってことじゃんよ。五本指(フィフスリトル)になったといっても所詮こいつの功績に乗っかった。つまりそういうじゃんよ!」

「まあひとりの功績とは否定できない」

「ヘヘッ、やっぱりそうだったんじゃん。ついでにジブンが化けの皮剥がしてやるじゃんよ!」

 見事言い当てたと得意げに言い放ってジネーゼは去っていく。

 今更過ぎたので落第者やら金魚のフンというフレーズに抵抗はなかった。

「言わせておけばいいのよ。あんたの実力は相当のもんよ」

 なぜだろう、その言葉が無性に嬉しかった。

「分かってる」

 だから自信を持ってそう言えた。ちょっと調子に乗ったかもしれない。

 自重するように深呼吸する。

 いよいよ僕たちの番だ。

 その前に電子黒板で四番目までの成績を確認する。


一位 アエイウ組   19876点

二位 エンバイト組  15765点

三位 イロスエーサ組  8030点

四位 ウイエア組    3002点(脱落)


 四組中一組が標準点に届かず脱落。残り三組がそのまま点数順で並んでいる。アエイウは案外やるようだった。

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