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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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根源

 一方のゲシュタルトも手を止めていた。

 タミを見失ったのだ。タミがオアシスの泉に飛び込んでいる姿を見逃してしまったのが手痛い。

 翼の炎が徐々に失われていき、それに合わせて着地。包帯も白く戻り、目も元来の黒へと戻ってしまった。

 こうなるとゲシュタルトにとっても手痛い。

 初回突入特典〔根源(クレイドル・)永遠自在エターニティフィーリー(ロウズ)〕は、ゲシュタルトがかつて思い描いた妄想ーーそれこそが根源を永遠に自在に使える律法だった。

 妄想を自在にできるのは三つまで。

 予てから願い事は三つまでというのはある種の常識だった。

 ゲシュタルトの妄想と言う名の根源は三つ。

 黒弾と炎の翼、氷の瞳。タミはその三種類に他の効果があるかもしれない、あるいは他の種類があるかもしれないと推測していたが、それはありえなかった。

 それ以外に応用が効かないのが、強力すぎるゆえのこの特典の制限とも言える。

 強力すぎるゆえに制限は他にもある。

 この特典〔根源(クレイドル・)永遠自在エターニティフィーリー(ロウズ)〕は一日一回はすぐに発動できるが、二回目以降は、その根源を発動させるためのある意味、祝詞のような言葉が必要になる。

 ゲシュタルトが先程祝詞のように言葉を発したのは黒弾の使用が二回目だったからだ。

 炎の翼と氷の瞳が先程が一回目だったため言葉は不要だった。

 けれど時間が切れた。これも制限のひとつだ。

 個数制限に、使用制限に、時間制限。あらゆる制限が存在しているが、それは設定した根源の強弱によって制限の幅が決まる。

 かつて〈10th〉のキングが使った理不尽な固有技能【迅速時限(QTE'n)出死事(Death)】を再現しようとしたら、それこそ制限が無数につくだろう。

 永遠に自在に使用ができるといっても、法である以上、色々な制限がつくのも当然といえば当然だった。

 とはいえ、かつて思い描いた妄想を具現化する。つまりそこにも年齢制限がつく。幼少のときに思い描いた妄想しか実現できない。

 ゲシュタルトの根源もまた幼少のときに妄想したものだった。

「我は炎天。我は天上。生えたる翼は絶望を与える一手なり。何もかもを燃やし尽くす」

 焼けるオアシスの中、熱さと熱さから逃げるように鴕鳥が走り回っている。

 そのさなか、ゲシュタルトは言葉を紡ぐ。

「見よ、恐れよ。我、極上の翼を得たり。我が望むは燃える世界。業火消滅消炭になり消えろ、万象」

 それは祝詞ではなく、ましてや詠唱でもない。

 強いていうなら使用許可を満たすための条件だ。

「我が禁断を今ここに燃焼せん!! 【世界ヲ(ザ・)燃エ尽ツス(フレイム・)炎ノ(オブ・)邪眼(ウィング)】」

 条件を満たし、背中に炎の翼が生える。炎の羽根が鴕鳥に引火。慌てて走り回り、泉へと突っ込む。

 偶然か幸運か、そこにタミの姿を捉える。

 奇しくも視線が合う。

 それは偶然のはずだが、戦いにおいてままある。

 逃げているタミも、探しているゲシュタルトも、気配のようなものを自然に感じているのだ。

 闘気を発していなくても、魔力を帯びていなくても殺気を向けていなくても、だ。

 タミは鴕鳥が飛び込んできたのを何事とか見て、鴕鳥だと気づいて、腑に落ちたように納得して、ふと上を見上げて、彼方にゲシュタルトがいたことを見つける。

 ゲシュタルトも鴕鳥が飛び込んでいく先を見つめて、その視線の先にタミを見つけた。

 探そうと思っていても見つからないものが、一度どかしたものをもう一度違う場所にどかした途端見つかったり、諦めた瞬間、足元に落ちていたり、そんな感覚でタミとゲシュタルトはお互いを見つける。

「我は極氷。我は冷獄。邪眼たる我が右眼は全てを見通し、全てを冷たく貫き通す」

 今度は逃さないようにゲシュタルトは言葉を紡ぐ。

 全ては貴族だった幼少期に思い描いた妄想の権化だった。

「隠れよ、慄け。我、冷笑の機会を得たり。我が望むのは凍える世界。冷却抹消粉塵と化し砕けろ、真」

 王族としての資格になるランク5に至る前に、ブレイジオン家は没落していた。

 他の貴族に協力してもらったにも関わらず、その他の貴族ですら見殺しにしてしまっていた。

「我が禁断を今ここに解凍せん!!」

 その全ての業を背負ってブレイジオン家は没落し、放逐されたゲシュタルトはかつてしていた妄想をするどころではなくなった。

 【世界ヲ(ジ・)無ニ帰ス(エンド・)終ワリノ(オブ・)忌呪(ワールド)】の言葉を紡いで火薬を仕込んだ包帯でいたずらをするなんて日々は捨て去るしかなかった。

「【世界ヲ(ザ・)冷エ切ル(ブリザード・)氷ノ(オブ・)邪眼(アイズ)】」

 瞳が見るもの全てを凍らす邪眼へと変貌を遂げる。

 ルクスにマイカ、グラウスにマリアン、コーディにマハイア、〈10th〉では馴染みのない名前もあるが、ゲシュタルトは犠牲にしてしまった。後継を失ったそれぞれの家系がどうなったのかを、先に没落したゲシュタルトは知らない。

 それでもしぶとくゲシュタルトは生きていた。

 左手に握る、杖にもなる鎌――虹色真珠の暗黒樹鎌杖〔紅椿のマハイア〕が怪しく輝いた。

 婚約者の名前を関したその鎌杖は鍛冶屋から無理やり奪い去ったものだった。

 鎌杖なのは鍛冶屋の趣味でしかなかったが、死神の鎌のようにもみえる三日月のような鋭い刃は自分に似合っているような気がした。

 【世界ヲ(ザ・)冷エ切ル(ブリザード・)氷ノ(オブ・)邪眼(アイズ)】がタミを捉え、動きを封じる。

 そのままタミのいるオアシスの泉へと飛び込んだゲシュタルトがまるで首を狩るようにタミの後ろ首へと刃を構える。

 あとは引けば断首される、そんな状況で――


〘――空間が圧縮されます。それまでに安全地帯に到達してください――〙


 警告が響き、空間が圧縮される。


 ■▲

 ■□


 喉の乾き:80%



〘――あと四分で空間が圧縮されます。それまでに安全地帯に到達してください――〙


 ふたりに波乗り板(サーフボード)ごと突っ込み、飛び込みついでに泉の水を飲んだのはPre:TAだった。

『Pre:TA>ギリギリすぎるよ、知らんけど』

『Tora;pet>ようやく三つ巴だー』

 観戦者の発言も活性化する。

 今までが退屈すぎて、発言が少なすぎた。

 もうこの舞台(ステージ)も終盤戦というところで、ようやく三つ巴に至ったのだ。

 正直、遅すぎる展開。というよりもこの舞台(ステージ)は少人数でやるべきものでもないのだろう。

 Pre:TAでゲシュタルトの視線が外れ、タミが九死に一生を得る。

 ゲシュタルトがPre:TAへと向かっていく。波乗り板(サーフボード)が速いのか、目で捉えきれず、【世界ヲ(ザ・)冷エ切ル(ブリザード・)氷ノ(オブ・)邪眼(アイズ)】が発揮できていない。

 バタつくように泉から脱出して地図を確認。 

 タミはひっそりと手に入れていた水筒に水を入れていく。

 このオアシスも安全地帯ではなくなってしまっていた。

 三つ巴、舞台(ステージ)の圧縮に、喉の乾き。

 タ終盤戦まで生き残れたからこそ、勝機の蕾が芽吹きつつあるにタミは感じていた。

「ししししし、地味でも生き残るのでしゅ」

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