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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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空域

 気づけば飛行機にいた。

 PCのTenjyo Amanoにとっては珍しくもない、よくある旅客機。

〘――皆様、今日も終極航空5便、速度上昇空域アジャイル行をご利用下さいまして有難うございます。この便の機長は――〙

 機内案内が流れる。客室乗務員の声だろうか、

 Tenjyo Amanoは飛行機に乗ったときのように椅子に備え付けのシートベルトをつける。

〘――まもなく出発致します。シートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締め下さい――〙

 案内の前にシートベルトをつけてしまったのはTenjyo Amanoの性格の表れだろうか。敵はどこかにいるはずなのに、この飛行機の中にはいなかった。

 どころかこの機内案内をしている客室乗務員の姿も見えない。飛行機に乗れば出迎えてくれる客室乗務員はどんな姿だっただろうか。

 いや、そもそもどうやってこの飛行機に乗ったんだ? 

 思い出そうとする間にも機内案内は続く。

〘――速度上昇空域アジャイルまでの飛行時間は3秒を予定しております。それでは、空の旅をお楽しみください――〙

 はっ? えっ? 3秒?

 Tenjyo Amanoの聞き間違えでなければ機内案内は確かにそう告げていた。

 そしてそんな思考をしている間に、とっくに3秒経過していて、


 ――空にいた。

 シートベルトをつけていたのに、椅子に座っていたのに、空に投げ出されていた。

 いや椅子ごとシートベルトごと、飛行機ごと消えていた。


 速度上昇空域アジャイル――そこにたどり着いて、目的地に到着した飛行機はまるで魔法のように消えてたのだ。

『Tenjyo Amano>ははっ! ははははははははははっ! 』

 Tenjyo Amanoは面白くて笑う。転生のための試練、終極迷宮(エンドコンテンツ)――いや今は終極魔窟(エンドレスコンテンツ)か。Tenjyo Amanoは初挑戦だった。初挑戦で終極魔窟(エンドレスコンテンツ)の申請戦争に勝利し、ここにいる。

 魔法のように消える現象が、いや魔法が今、目の前で起きてそれが面白くてたまらない。

 現実離れ、非日常が到来して、面白くて笑っていた。

『Tenjyo Amano>これ、サイコーなんで!』

 アジャイルと呼ばれる空域には、小さな足場、瓦礫や土塊、それも足がようやく乗るくらいの足場がいくつも点在していた。

 空中大陸からこぼれ落ちた土や道の瓦礫などが浮いているのかもしれない。

 真下は永遠と空。大地は見えない。見えるのは渦のようなものだろうか。いや竜巻と呼ぶべきだろう。

 落下し続け、そこに飛び込むと、まるで跳躍器具を踏み込んで飛び上がったように、再び空へと上昇する。

 不安定ながらなんとか瓦礫へと着地する。

『Tenjyo Amano>おとと……。この舞台(ステージ)、どうやって戦えばいいんで?』

 足場が小さすぎて、態勢を崩して再び落下。

 途中、空中に向きが違う竜巻を見つけて飛び込む。まるで大砲で撃たれたように放物線を描いて、飛翔。今度は滑空かのように加速する。

『Tenjyo Amano>もしかして足場はおまけ程度なんで――』

 落下する先には竜巻が絶えず発生し、落下死はないようだった。

 とかくこの舞台(ステージ)に慣れよう、そう考えた矢先だった。

 高速でTenjyo Amanoへと向かってくる黒い影があった。

 コジロウだった。コジロウの姿を見て、ようやくこの舞台(ステージ)の移動方法を理解した。

 コジロウは浮かぶ瓦礫をまるで踏切板のようにして、跳躍していた。

 ようするに浮遊する瓦礫は地を蹴って加速するためのものでしかない。その小さく不安定な場所に立ち止まって戦おうとしていたTenjyo Amanoが間違いなのだろう。

『Tenjyo Amano>あー、そういえば……忘れてた。困るね。まだ慣れないんで』

 思い出して、空中で背中に黒い天使の翼を生やす。

 Tenjyo Amanoはワールド of スペースと呼ばれるMMOPRGのPCだった。ただし-先行体験版-の。

 本来先行体験版などの試用版では終極魔窟エンドレスコンテンツの申込みは申請されないはずだが、なぜか通った。

 ワールド of スペース-先行体験版-の操作をうろ覚えのまま終極魔窟(エンドレスコンテンツ)にやってきたため、翼を生やせることを忘れていた。

 何にせよ、翼を生やしたことで舞台(ステージ)の仕掛けは緩和されたことになる。

 だが、コジロウがこちらに迫ってきている事実を忘れてはならない。

「おい、とっとと逃げたほうがいい」

 そう告げた男はTenjyo Amanoが立つことのできなかった小さな瓦礫に、足一本で直立していた。超平衡感覚でも持っているのだろうか。

『Tenjyo Amano>あんたは?』

「デトロア・デリザリン。DDでもいい。本来はあんたの敵だったが、キングさんも気まぐれがすぎる。三つ巴になって、この舞台(ステージ)で相手はコジロウ。これはやばい」

『Tenjyo Amano>こっちに向かってきている冒険者を知ってるのか? いったいなんで?』

「一度、終極迷宮(エンドコンテンツ)で見たところがある。あいつの複合職とこの舞台(ステージ)の相性は良すぎる」

『Tenjyo Amano>あー、待って。コジロウ? わかるかも。データベースで見たんで。SPD重視の影師だっけ?』

「そう。んでもってこの空域の竜巻に入ると速度が上昇する。わかるだろ、この意味?」

『Tenjyo Amano>んー、なるほどね。それにDDが自分になんで提案してきたか理由もわかったんで』

「ほう」

『Tenjyo Amano>だから自分のほうから提案させてもらうよ。手を組もう』

 デトロア・デリザリンが頷く。三つ巴になったことで本来あり得ない者同士の同盟が誕生した。

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