闘技
3
翌日、妙な高揚感が原因で僕は早く起きた。何もすることがないので、宿屋の扉の前でコジロウとアリーを待つ。
「早いわね」
宿屋の前で座り込む僕を見てアリーが呟く。適温に保ってくれる適温維持魔法付与外套のおかげで朝の低温でも寒くなかった。
対してアリーは少し肌寒いのだろう。濃緑の袖無軽服から露出する腕には鳥肌がたっていた。
「朝の寒さは誤算だったわ。上着持ってくれば良かった」
そう呟くアリーに僕は外套を譲る。少し躊躇うアリーだったが、寒さに負けて僕の好意を受け取った。
「暑すぎず、寒すぎず、本当にこれ過ごしやすい温度に保ってくれるのね」
アリーが感心したように言う。対して朝の寒さなんてなんのそのだった僕の肌は急激に寒さに中てられ、鳥肌がたった。寒さと暑さを忘れさせるその適温維持魔法付与外套はクセになるほど手放せないアイテムといえた。
それでも僕は寒さを堪える。こういうときに女性に外套を譲るというのは男の甲斐性なのかな。というか見栄かも。ともかく僕はその見栄を疎ましく思ったりもした。
「あんた、これ私に譲ったから寒いんでしょ」
「いや、大丈夫だよ。ちょっと暑かったから」
「適温に保ってくれるのに、その言い訳は苦しいわよ」
どうやら僕の見栄はアリーに見抜かれていた。
「……一緒に入れば、どっちも過ごしやすいわよ」
見かねたアリーが外套の片側を開き、入れと促してくる。
「いいの?」
「良くなかったらこんなことしないわよ。結構、この状態恥ずかしいんだから早く入りなさいよ」
アリーの顔が少しだけ赤いような気がした。
僕が躊躇ったのは照れくささからだった。アリーも同じ気持ちなのだろうか。
少し躊躇しつつ僕はアリーが開けた外套へと入った。
「コジロウが来るまではこれで居ましょ」
アリーの肩が僕に触れる。その柔肌の感触を僕は味わっていたくて僕は払いのけることをしなかった。むしろ肌が触れていることを許されているのが嬉しくて、同時に気恥ずかしくて何もできなかっただけだった。
「………………何をしているでござるか」
宿屋から出てきたコジロウがひとつの外套に包まるふたりの冒険者を見て、呆気に取られていた。つまり僕とアリーを見て、呆気に取られていた。
「あ、あんたが遅いからこいつの外套に入れさせてもらっていたのよ」
「寒いならば宿の中で待っていれば良かったでござるよ」
正論を放つコジロウは昨日と同じく浴衣を着ている。昨日のは紺色だったが、今日はアサガオが一面に咲いていた。
「うっさいわね。あんたが遅いのが悪いのよ」
「何故、拙者の責任になるでござるか……」
その言い分に再度呆気に取られるコジロウ。
「まあ、遅くなったことについては謝るでござる」
「じゃ揃ったことだし行こっか」
コジロウとアリーが頷き、僕たちは試練会場へと歩き出した。
月の闘技場と太陽の闘技場、南の島にあるふたつの闘技場のうち、月側がランク3+から4になるための的狩の塔だった。ちなみに太陽側がランク4から5になるための戦闘の技場だ。
月の闘技場に入ると、
「ようこそお越しくださいました」
試練にしては初めてだろう、案内人がいた。
僕は目を見開き驚いた。
「ふふっ、皆様そんな表情をしますよ。試練に案内人がいるってね」
「すいません」
「ふふっ、その中で七割が今のように謝りますね」
「とっとと行くわよ」
アリーに促され、僕は受付を済ます。




