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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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欲望

 移動床の大地に移動したときに遠くにあった隕石は近づきつつあった。

 テンテンは残るひとりの対戦相手、Shr@vakaが逃げ回るのにげんなりしていた。

 特典をShr@vakaは知らないはず。推測はされているかも。なんてテンテンは考える。

 意外とお気楽だ。

 真っ向勝負で叩き潰す。というよりとにかくテンテンは目立ちたかった。

 〈7th〉のテンテンも戦闘の技場(バトルコロシアム)で進行を務めていたが、戦闘の技場(バトルコロシアム)で対戦する冒険者たちよりも目立ちたかった。彼らの戦いがどうでも良くなるほど目立ちたかった。

 当然、反感を買った。

 戦闘の技場(バトルコロシアム)での主役は冒険者で進行役ではない。

 確かにときには胸元を強調し、お尻を強調し、自分を魅せていくが。あくまでも戦いの主役はランク5を目指す冒険者たちだった。

 それがテンテンには我慢できなかった。

 もっと目立ちたい、もっと目立ちたい。どんな方法でも。

 それが悪目立ちでも良かった。

 だからだ、戦闘の技場(バトルコロシアム)で、冒険者たちが戦っている間に割り込んで、そのどちらともを惨殺した。

 見るも無惨というのはおそらくそういうことをいうのかもしれない。

 格好いいと呼ばれていた冒険者もかわいいと人気があった冒険者も関係なく、その形状が分からぬほどに叩き潰し、その舞台は血の海になっていた。

 そんななか、テンテンはまるで握手に来たファンに見せるかのような笑顔を見せて、「ヤッホホー」と笑った。

 静寂ののち、賭けを台無しにされた観客の罵声が飛び、脱落していた冒険者たちが怒号を上げ、襲いかかった。

 目立っている、その一点だけで興奮したテンテンは冷め止まぬまま、冒険者たちを返り討ちにしていく。

 次々と冒険者たちがテンテンに、向かってくる。

 目立っている。目立っている。目立っている。

 それは悪目立ちだったが、テンテンを満たす愉悦の前には、善し悪しなど関係なかった。

 目立ちたいという承認欲求が満たされるのが一番だった。罵詈雑言でさえもテンテンにとっては目立てない人間の負け惜しみ、嫉妬でしかなかった。

 当然、すぐに指名手配されて、逃げて逃げて逃げて、それでも見つかった。

 顔を隠すこともなければ反省もない、目立つためにやったのが全てだ。

 指名手配もテンテンの愉悦をくすぐるひとつだった。

 すぐにみんなが集まり、注目してくれる。これ以上の愉悦があるだろうか。

 テンテンはそれを間違っている、とは思っていない。

 育ての親であるオジャマーロが何よりも目立ち、集客することで喜んでくれたから、こうして人を集められることは何も悪いことでない、と分かっていた。

 そうやって注目を浴びながら強くなって、終極迷宮(エンドコンテンツ)に到達したテンテンは特典を得て、さらに悪目立ちした。

 終極迷宮(エンドコンテンツ)での記録が少ないのは、終極迷宮(エンドコンテンツ)という存在がランク7以下には認知できないからだ。そこにテンテンは魅力を感じなかった。

 その外で特典を存分に使い、注目させることに拍車がかかった。

 不死身のテンテン。〈7th〉でいつしかそう呼ばれるようになっていた。

 そんな目立つことを何よりも重視するテンテンが終極魔窟(エンドレスコンテンツ)に来た理由はこうだった。

「お前を見る観客が数百万はいる」

「行くよん!」

 即答だった。思考したのだろうかと疑うほどの速さ。きっと言葉の意味を本能で感じ取って反応したに違いなかった。

 だからこそ王は感心して勧誘したのだ。

 逃げ回るShr@vakaをようやく見つける。

 移動しない移動床の大地での戦闘は随分と長い。

 瓦礫によって移動床をそもそも踏まなくてもよいためヒヤリとすることもなくなっていた。

 空間の持ち味が損なわれたままで、そもそも空間自体がそれを許すのかわからないが、もしかしたら迫ってきている隕石が時間制限なのかもしれない。

 Shr@vakaのように持久戦をさせないために。

 テッコラドンがShr@vakaの指示で瓦礫を飛ばす。

 瓦礫を二度、そして三度、避けずに当たって、その次の攻擊をテンテンは避けた。

 途端、Shr@vakaが間を詰める。

『Shr@vaka>この時、あの時、その時をワシは待っていたらしいっぽいな』

 テンテンがようやく避けた。

 それはすなわち、テンテンの特典〔痛いの痛いの飛んでけ(ペインシェア)〕の効果切れを示していた。

 テンテンはこの特典によって不死身のテンテンと呼ばれるまでになっていたが、完全なる不死身ではなかった。

 この特典で一定量の傷まで無効化していたのだ。

 Shr@vakaはテンテンが瓦礫を避けたことで、その効果が切れたと判断した。

 だからこその攻勢。失ったカッパリドンを再び召喚。

 その背中に跨ってShr@vakaは攻擊を仕掛ける。

「もしかして、私の特典を知ってる? それは面倒くちい」

 言って、テンテンはわざと攻擊を受けたように見えた。

「けど、それならそれで好都合! こっちを試してみたかったんだよん」

『Shr@vaka>あっち? そっち? こっち? 何か企みがあるみたいっぽいな』

 唐突にShr@vakaは空中にいた。

『Shr@vaka>なっ!?』

「うーん、その視線。ぞくぞくするよん!」

 Shr@vakaは下を見る。

『Shr@vaka>そのミス、その失敗、その効果、どうやら無意味らしいっぽい』

 下には地面があった。移動床のない地面。そこに着地すれば何も問題ない。

「でも、そこが移動床の終着点だよ? キミも不自然に避けて、私も怪しいから踏まないようにしていたのよん。じゃあそこに何があるのか、踏んでみよう!」

 言われて気づく。なぜ忘れていたのか不思議なぐらいだった。

 そしてテンテンもまた目の前にいた。

「ドッガーン!!」

 鉄錘〔傲慢無礼のオジャマーロ〕がカッパリドンを叩き落とす。

 テンテンの特異、"欲望(ディザイア)"は一定以上の傷を負うと、自分が叶えたい欲望が成就する。

 もちろん、相手を即死させる、なんて欲望は無理だ。何事にも限度がある。

 それでも簡単な欲望なら、3つぐらい同時に叶えることができる。

 例えば、Shr@vakaを移動床の終着点の真上にワープさせたい。

 例えば、Shr@vakaを移動床の終着点が安全地帯だと思いませたい。

 例えば、Shr@vakaの近くに自身がワープしたい。

 そうやって欲望を叶えて、テンテンはShr@vakaを操って、カッパリドンを叩き落としていた。

 勢いのまま移動床の終着点、移動床のない地面を踏む。

 そのまま床が崩れた。落とし穴。

 気絶したカッパリドンが崩壊してない地面をつかんでくれるはずもない。Shr@vakaが慌てて掴むが届かない。

 そのままShr@vakaも時空へと落ちていく。

「ヤッホホー! テンテンちゃんの大勝……」

 そこまで言ってテンテンもまた突然出現した輪っかから突撃してきた車に押されて、時空の彼方へと消えていく。

 "欲望(ディザイア)"は自在に願いが叶うわけではない。

 傷を負ったとき、そのときに強く思っていた欲望を叶えるのだ。

 だから思い通りにするにはわざと攻擊を受ける必要があった。

 ハッとさせるような不意打ちを受けてしまえば、その時の欲望が叶う。

 勝利したテンテンは当然、こう思っていた。目立ちたい。

 だから突撃されて消えていくテンテンは観客の目を人一倍惹いていた。


〘ヒヤリとする体験とハッとする恐怖はいかがでしたか? 参加者が全て脱落したため、勝者はなしといたします〙


『dadada>結局、あの隕石はなんだったの?』

『naida777>ブラフとか? 見えているものが向かってきてもヒヤリもハッともせずに警戒するからこの舞台(ステージ)の意にそぐわないのかもね』

『miso_Know>何にせよ、脱落したら勝者なしとかクソ舞台(ステージ)じゃねーか』

 勝者がいないその舞台(ステージ)への議論は終了後も長々と続いた。



 舞台(ステージ):問題多発時空ヒヤリハット

 勝者:なし

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