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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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動床

 Shr@vakaとテンテンが飛び乗った次なる大地は矢印だらけの床だった。

 さらに時空には大きな隕石が出現していた。それも悪戯な笑みを浮かべて。

 かなり遠くだが、流星のように移動していることがわかる。

『Shr@vaka>この床、この形、この感じ、乗り物っぽくないみたいっぽいな』

 Shr@vakaは矢印だらけの床にそんな感想をこぼす。矢印がついた床はさながら乗った冒険者たちを向いている方向へと促す移動床にそっくりだが、Shr@vakaが零した感想の通り乗り物とは言い難い。もしかしたらこの空間は移動できるもので形作られているかもしれない。

 とはいえ移動床の形を模していても、実際にその床に降り立ったShr@vakaを移動させることはなかった。

 周囲には移動床ならぬ移動壁が重なり塔のような建物がいくつもできていた。

 その塔をShr@vakaが乗るドラドン――上半身がドラゴン、下半身が水かきのついた緑かかった足の半竜半魚人カッパリドンがひとまず破壊する。

 想像に反して意外と脆い。カッパリドンのひと押しで塔は崩壊した。崩壊すると同時に瓦礫になると思われたが移動壁で生成された塔はそのまま瓦礫すら残さずに消えていった。

 壁越えドラドンのドラドンたちは攻城性能と防衛性能のどちらかに主軸が置かれている。カッパリドンは攻城性能が高く、障害物を取り除く力が高かった。

 問題多発時空ヒヤリハットの最初の説明を聞いたとき、何かが飛んでくる可能性が高いと踏んだShr@vakaの推測は的を得ていたことになる。

 相手は残りひとり。少しだけ安心感が生まれていた。それにテンテンも――

『rarara-2by>テンテン・エーカスって情報少ないよな』

『⊿・ω・α>情報少ないというか終極迷宮(エンドコンテンツ)に来たことないんじゃないのか』

『rarara-2by>いやデータベースの出現回数は二桁はあるね。でも上層にしか出てないみたい』

『Deba.K>上層だとデータはどうしてもな。特典の記録はあるのか?』

『rarara-2by>ないみたい』

『Deddomenz>でもそれってデータベースの情報だろ。今、戦ってるのはShr@vakaだぞ』

『m@rk-kenji>だよなあ』

『Deddomenz>あいつ独自のデータベースを舐めちゃいけない。それでのし上がってきた』

 観戦者がテンテンの考察で盛り上がるなか、Shr@vakaを知る観客はしたり顔でそう告げた。

 観戦者の推測通り、Shr@vakaはテンテンの特典を知っていた。

 実はShr@vakaは壁越えドラドンではない別のキャラを操作してたときにテンテンと遭遇していた。その時に特典を見て、なんとなくその効果を理解していたのだ。

 そんなShr@vakaの前にテンテンが現れる。塔の崩壊を目にして、それがShr@vakaの仕業だと気づいたのだろう。Shr@vakaもわざとおびき寄せるように派手に塔を破壊していた。

 テンテン自体、Shr@vakaに不意打ちを仕掛けるでもなく塔を破壊しながら現れたので、不意打ちするつもりなどなかったのだろう。

「次はあなた。わたしのために死んでくだちいねん?」

 目立つように大げさにテンテンは言う。一度遭遇したときもそうだったが、とにかく派手好きの女子でひらひらのドレスはさながらアイドルのようだった。

 狂凶師のテンテンは鉄錘〔傲慢無礼のオジャマーロ〕を軽々と持ち、丸みを帯びた鉄球さながらに鉄錘を移動床に打ちつけた。

「あれれ? 壊れないですねー。面倒くちいなあ」

 床は傷ひとつつかなかった。床を壊したかったのか、それとも破壊力を見せつけたかったのか、意図は不明だが思い通りにならず残念そうにテンテンはぼやく。

 テンテンが今回攻撃したのは移動床だが、それとは別に色の違う床があることをShr@vakaは見逃していない。

 そして矢印床の行き先がそこだということも。

 独自のデータベースを構築しているせいかそういうのは見逃さない性格だった。

 ともあれ、床が傷つかないことを知ったテンテンは同時に移動床がただの飾りであると判断して遠慮なくShr@vakaへと向かっていく。

 Shr@vakaも迎撃態勢。攻城性能が高いカッパリドンに乗ったまま、防衛性能の高いテッコラドンを召喚。 

 テッコラドンは下半身はドラゴンだが上半身は鉄塔のように鉄で作られたカモノハシの様だった。

 その口から吐かれたドロドロとした鈍色の息吹が、テンテンの進路を妨害するように鉄壁を作り出していく。

 それをテンテンは一撃でひしゃげ、ものともせずに疾走。

 同時に移動しない移動床の大地へとまた瓦礫が振り始めていた。

 テンテンは直撃を受けても平気な顔で、避けもせず、カッパリドンで瓦礫を破壊しながら後退するShr@vakaを追いかけている。

『⊿・ω・α>地味』

 観戦者がそう言うもの無理はない。Shr@vakaは無理に攻撃せず舞台(ステージ)仕掛(ギミック)の処理を優先しているように見える。

 一方のテンテンも空から落ちてくる瓦礫などの衝撃にはびくともしていないが、カッパリドンの速度に追いつけていない。

 延々と追いかけっこが続いているような状態なのだ。

 がそうしているうちにも事態は動く。

 知らず知らずのうちに油断してしまったときにこそ、問題多発時空ヒヤリハットに注意しなければならない。

 今まで動かなかった移動床が動き出す。

 突然、唐突に。

 前に進んでいるのに突然、移動床はShr@vakaの身体を無理やり左へと移動させる。

 しかも少しだけ。

 矢印がなくなるまで進めるのではない。突然、その移動床は停止する。移動床に身を任せようとしていた矢先に、だ。

 まるで車体が急停止するかのようにShr@vakaはカッパリドンから転げ落ちる。

 受け身だけは取れたが勢いは止まらず、わずかにカッパリドンと離れてしまう。

 不思議と瓦礫の雨は止まっていた。

 それでも不運は続く。

 また、移動床が動き始める。カッパリドンは左へ。Shr@vakaは右へ。慌てて左へ走り出すが、

『rarara-2by>ランニングマシンみたい』

 言い得て妙。当然、移動床の右への速度のほうが早い。

 懸命に速度を上げて走ってみるが当然、右へ右へと流されていく。むしろ流れに任せたほうが賢明だったのかもしれない。

 その移動床の到着地点は一緒だった。

 けれど不運は続く。

 テッコラドンも急停止についていけず転倒しており、思わず吐き出た鈍色の吐息が移動床の進行方向を阻み、カッパリドンはそこで停止後、なにかの拍子で身体がずれ、違う移動床へと乗ってしまう。

 その移動床の先にはテンテンがいた。テンテンもまた移動床に翻弄されていたが、移動床の向きとカッパリドンの移動先がぶつかると悟ってにんまりと笑う。

『Shr@vaka>その女、その瞬間、その拍子に叩き潰せみたいなっぽい!』

 叫ぶとカッパリドンが雄叫びを上げ、移動床の誘導のまま加速。一方のテンテンも流れに身を任せていた。

 と、唐突に移動床が止まる。お互いに勢いをつけたまま、態勢を崩して衝突。

 けれどテンテンは無傷。カッパリドンが破壊不可能な壁に頭をぶつけたように痛がる。

 痛がる隙を見逃しはしなかった。

「ヤッホホー、残念でちたー! 終わりだよん!」

 狂凶師の超強化技能【筋力最大(ターミネーター)】によって筋肉が肥大。

 粉、砕。

 頭を失ったカッパリドンは絶命。そのまま消滅していく。

 その様子をShr@vakaは遠くで見ているだけだった。

『Shr@vaka>ちくしょう。でも、あの総量、あの蓄積、あの回数、もうすぐ終わるに違いないみたいなっぽい』

 カッパリドンを失ったのは手痛い。それでもテンテンの特典を知るShr@vakaは待ちに待った機会がもうすぐ来ることを理解していた。

 観戦者が退屈しようとShr@vakaは待っていたのだ、その機会を。

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