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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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脱落

 転送直後、レストアの視界に入ってきたのは歪んだ丸時計が無数に浮かぶ空だった。歪んだ丸時計ひとつひとつが雲なのかもしれない。

 レストアが足をつけている場所はそんな空へ浮かんだ二畳の畳。畳の上には木製の机。その机には電灯照明台が置いてあった。

 その机には細い木の板も置かれており、レストアが初めて見る乗り物の屋根へと繋がっていた。レストアたちには馴染みのない、車という乗り物だった。

 その車の後部はレストアにも見覚えがある飛空艇へと繋がっていた。その次は見たこともない長方形の箱に車輪がついたような長い乗り物――二両の電車へと道が続く。

 それらは全て歪んだ時計の空に浮かんでいる。

 レストアが知らない乗り物も存在しているということはレストアたちNPCの世界に限らずPCの世界のものもこの空間は取り込んでいた。むしろ対戦相手や観戦者たちの記憶から反映しているのかもしれない。

 何にせよ、それがこの空間の有様だった。

 レストアは恐る恐る車の屋根へと足を伸ばす。

 この舞台へと到着した際に言葉が脳裏を掠め、かなり慎重だった。

 乗り物の中へ入ることもできそうだが、できたところで屋根の上にしか道はない。ところどころ、乗り物と乗り物は途切れていて、そこは跳躍しなければならない。

「落ちたらどうなるんだろう……」

 レストアは不安を素直に口にする。乗り物の屋上は揺れたりはしないが、乗り物の上に乗り物が乗っていたり、屋根の上の道幅が狭いところも存在していた。

 敵となるふたりの姿は見えない。いきなり対峙、そして対決ではなく、索敵から始まるのが、この空間の特徴なのかもしれない。

 車の屋根から飛空艇の甲板の上に飛び乗る。そこから二両編成の電車の屋根へと続いていた。

 電車へ飛び乗ろうとしたとき、


 ――ブゥウゥウウウン


 空を切るような音とともに高速で何かが通り過ぎた。

 一気に飛び乗ろうとせず慎重を期したのが幸いだった。

 すぐに飛び乗っていればその何かに激突しただろう。屋根から落ちるどころか致命傷を受けていた。

 ヒヤリと冷や汗。深呼吸して歩いていく。しばらく先に乗り物が密集した場所が何箇所か見えた。

 そこでもしかしたら敵と遭遇する可能性がある。考えごとをした矢先に頭上から白い塊が落ちてきた。

 慌てて次の長方形の大型車――バスに飛び乗る。飛び乗った直後、後ろの乗り物が――落下していく。

 遅かったら危なかった。レストアは強くない。その分、考えることによって戦闘力を補っている。

 戦闘中もすでに思考を繰り返しているが、没頭しているわけではない。

 出遭わぬ敵を警戒して索敵を繰り返していたが、それでも同じような風景と歪な地形に集中力を奪われていたらしい。瞬間的な危機への反応が鈍っているのは確かだった。

「これはきっついな……」

 とはいえ障害物もない場所で殴り合いよりは良かったというのは本音だ。


〘問題多発時空ヒヤリハットへようこそ――。あなたにヒヤリとする体験とハッとする恐怖を提供いたします――〙


 レストアは最初の伝言を思い出してその意味を噛みしめる。

 先程から突然何かが横切ったり、上から白い塊が突然落ちてくるのが、問題多発時空ヒヤリハットなのだろう。

 もちろん問題多発という時点で何か大変なことが起こりそうという想像はあったが、ものの数分で味わってしまっていた。

 やがて乗り物が幾重にも連結し、円形の大地を作り出している場所へと辿り着く。

 その円形大地はあらゆる乗り物が山積みになり、高層の建物のようになっていた。

 その陰から何かが飛び出してくる可能性も鑑みて、より慎重に歩いていく。

 途端にその折り重なった乗り物が破壊された。

 それもレストアの左右から。

 逃げるように飛び退き、左右の人物を確認する。

「ヤッホホー! わたしはアイドル、にこやかすこやかテンテンちゃんだよん! もしかしなくても、ふたりがわたしの対戦相手だよんねー!」

 〈10th〉では戦闘の技場(バトルコロシアム)にて試合の進行をしていた雀斑が特徴の少女でオジャマーロとの一戦のあと、消息不明になっていた。どうやら〈7th〉ではキングの仲間になっているようだった。その手には大きな鉄錘。それで山積みになっていた乗り物を破壊したのだ。

『Shr@vaka>その少年とその少女がどうやらわしの敵みたいっぽいな』

 もう一方のPCは竜を可愛らしく変形(デフォルメ)したぬいぐるみのような姿をしている。

『viiv>壁ドンだ』

『MILLИNIUM>壁ドンキター』

 通称、壁ドンーー正式名称、壁越えドラドン。 

 中央の塔を対戦相手よりも多く崩壊させ、塔の崩壊率がより多いほうが勝ちという対戦型塔防衛攻略RPGの名前だった。中央の塔を破壊するための魔物と、相手から中央の塔やその周囲を囲う壁を守る魔物を召喚し、守りながらも攻めていくというのが特徴だ。

 ドラドンは竜と何かを融合させた魔物のことで、壁ドンの召喚者たちが扱う魔物だった。

 そのドラドンの召喚者こそがShr@vakaだった。竜を可愛らしく変形(デフォルメ)したぬいぐるみのような姿は着ぐるみを着ていたからだった。着ぐるみの召喚者とでもいうべき愛らしさがある。

 一方で連れている魔物――ドラドンの姿は凶悪だった。

 一瞬レストアはそのドラドンをリザードマンと勘違いする。

 よく見れば上半身はリザード(蜥蜴)というよりもドラゴンで、下半身は人間の足に似ているが指の間に水かきがある。膝から下は緑がかっているから、河童か何かが混ざっているのかもしれない。

 テンテンが大きな鉄垂で乗り物を破壊したようにそのドラドンも山積みの乗り物を破壊したのだろう。

 レストアも急ぎ戦闘態勢。

「【天魔召集】!」

 天魔士の技能【天魔召喚】は天使か悪魔を一定時間呼び出す技能だが、その上位職混沌師の【天魔召集】は一定時間ではなく戦闘不能になるまで戦ってくれるようになる。

 レストアに応じたのはマティ(第五天)の天使だった。

 頭髪が炎のように燃え盛り、背中には炎の翼。手には罰を律するかのような強靭な鞭を持っている。

 マティの天使が住む第五天には四隅に燃え盛る巨大な柱が存在していた。そこは楽園ではなく天使たちの監獄。そこに済むマティの天使たちは見張りでもあった。

 そんな逃亡者たちを容赦なく追い詰める炎の天使がレストアの呼びかけに応じたのだった。

「まずはあなた。ねえ、わたしに殺されてもいいよねん?」

 鉄錘〔傲慢無礼のオジャマーロ〕をおおきく振りかぶって、レストアへと向かう。

 守るべくマティの天使が前進。鞭に炎を移して、進行を阻む。


 ドンっ! 


 途端、頭上から巨大な白い煉瓦が落ちてくる。マティの天使に誘導されるまま逃げるレストアに対し、テンテンはそのまま白い煉瓦を気にせずにレストアを追っていく。

 テンテンの頭に巨大な白い煉瓦が落ちるが直撃した煉瓦が割れるだけで、テンテンは無傷。

 不可解さが不気味だが、テンテンの特典なのだろう、レストアはそうアタリをつけていた。


 ドンっ! ドンっ! ドンっ! ドンっ!


 一定のリズムだが、落ちてくる場所は無差別だった。山積みの乗り物の上ならば瓦礫が落ちてくる程度だが、その山積みの乗り物に当たらず落ちてきた場合は避けたとしても障害物をなって行く手を阻む。

 けれど、ガンガンと叩き割るような音がレストアの視界の外から聞こえてくる。テンテンが鉄錘〔傲慢無礼のオジャマーロ〕で破壊しているのだろう。

『Shr@vaka>その行為とその行動とその移動がわしから逃げてるみたいっぽいな』

 ドラドンの背中に乗ったShr@vakaがレストアを追ってきていた。

「このままだと挟まれる」

 そう伝えると意志を察して、マティの天使は逃げ場になるような道を選択してくれる。

 頭上からは白い煉瓦が落ち続けてきていた。

 

 ガンっ! 

 

 途端、壁となっていた乗り物が真横から急にレストアへと突進してきた。 

 完全なる油断。

「えっ?」

 マティの天使に誘導を任せて次の一手を考えていた。それが悪手。

 マティの天使が差し出す手にも届かず、レストアは歪んだ時計の空――時空へと投げ出される。

「ああああああああああああっ!」

 叫んで、どうにもならなかった。

 レストアはそのまま時空へと消えていく。

 それが死なのかは判断はつかなかった。

『Shr@vaka>なるほど。この舞台、この空間、この時空、落下したら負けみたいっぽいな』

 レストアの消えゆく様を見ながらそう判断していると、白い煉瓦が落ち続けていたこの乗り物の大地も亀裂が走っていた。

「あー面倒くちい。わたし、もっと破壊しつくしたいのよん」

 この場には留まれないと判断したテンテンが次の足場へと飛び乗った。

 当然のように、未確認飛行物体のようなものが高速でテンテンへと衝突したが、衝突された当の本人は何も感じていなかった。

 Shr@vakaも慎重に次の足場へと飛び乗ると、先程の亀裂の走った大地が崩壊して時空へと消えていった。

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