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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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師弟

「クロスフェードさんのあれがなければ死んでいた」

 血だらけで瀕死には違いないが、それでもジョレスは立ち上がった。

 ジョレスもまたクロスフェードより"特異"なものを授かっている。

 そのおかげで致命傷を受ける前よりも速く力強さも増していた。

『Buddhak's etra>オホホ! 楽しくなってきたのですワー』

 腕を交差させてジョレスの直剣の二連撃を防御したBuddhak's etraが愉快げに笑う。

 女番長・八頭の拳から肘にかけて巻く包帯は斬撃などを軽減する役割があった。

 標的をジョレスと決めたのか、Buddhak's etraは一瞬でジョレスに近づくと拳を振り上げた。

『Buddhak's etra>ドーーーーン、ですワー!』

 ただの拳だった。

 ジョレスが避けると、着弾した床が大きく割れる。割れた床の破片を的確に超速でBuddhak's etraは連打。

 まるで流星のごとく勢いで破片がジョレスへと飛んでいく。

 ジョレスも二刀流の直剣で弾く。神業だった。常人が真似しようとしたら、何万回も失敗しそうな妙技。こちらも技能ではなく、身体能力と剣さばきのみで行われていた。

 ジョレスの"特異"である"保険(インシュアランス)"は、自分が致命傷を負った際に、身体能力を向上させる効果を持つ。しかも他の才覚や特典と重ねがけが可能だった。

 ジョレスは特典〔夢からメガ覚めた(ドリームクラッシャー)〕にこの"保険(インシュアランス)"の能力を重ねがけて超強化されていた。

 それでもBuddhak's etraを圧倒するのではなく、互角というところにBuddhak's etraの強さが窺えた。もっとも、それは想定外に想定外が重なった上でのことではあったが。

 拮抗。あるいは均衡。膠着。

 ジョレスもBuddhak's etraも、アリーを狙えば事態が動くと理解はしている。

 けれどそれがどう転ぶか分かっていない。アリーを狙う隙を突かれる可能性もあった。

 もちろんアリーがどちらも牽制するように動き回って、ふたりの隙を狙っているせいでジョレスもBuddhak's etraもアリーを狙うことが難しくなっている。

『Buddhak's etra>なかなかどうして、歴戦の強者、ですワー』

 今までの情報によってアリーの強さは認識していたが、対面して改めてその強さを再認識する。

『yahks>やばいな』

『B.B.Baby>膠着してるってのはわかるけど、そんなやばいか?』

『JACK unch>制限時間だ。生存本能は時間制限がある』

『yahks>とはいえ、etraも分かっているだろうな』

『B.B.Baby>ジョレスにあと一撃当たればってことか……』

 時間制限がある分、生存本能が不利のように見えるが、ジョレスもまた致命傷を負っている。"保険(インシュアランス)"というPCには正体の分からない"特異"の力は解析されてないとしても、傍から見ればジョレスもまた追い詰められていた。

 そして均衡は意外な形で崩れる。

 ジョレスの態勢がいきなり崩れた。

 自らが流した血が血溜まりを作り、そこで足を滑らせてしまったのだ。

『Buddhak's etra>もらいましたのですワー!』

 勝負は時の運とでも言うのだろうか、好機を逃すBuddhak's etraではなかった。

 真剣勝負である以上、不運によって生まれた隙を狙うのは卑怯だとは誰も思わない。

 そもそも不運や運を味方につける冒険者も存在するのだ。それを卑怯とは呼べない。

 運さえも味方につけて不運をはねのけてこその真剣勝負。

 決着の時を誰しもが固唾を飲んで見守っていた


 ――わけではない。

 ジョレスとBuddhak's etraの間にアリーが割って入っていた。

 超強化されたBuddhak's etraの拳を狩猟用刀剣〔自死する最強ディオレス〕を防ごうと試みる。

 ミシミシっ――

 ――嫌な音が響き渡った。

「お願い耐えて」

 アリーは祈るように狩猟用刀剣に願い込める。

「強化して、レヴェンティ」

 呼応して【硬化(プロテクション)】が狩猟用刀剣を硬化させていく。

 それでも、ひびが入り、その亀裂は広がっていった。

「どうして?」

 血溜まりで転んだジョレスがかばうアリーに問いかける。

「師匠だから」

 アリーはそうとだけ答えた。

「美しくない……」

 あれは裏切りではなかったのか。

 今、目の前にいるアリー〈10th〉は、ジョレス〈7th〉の師匠ではない。

 ジョレスは自分の師匠が自分の目の前から去っていったのを裏切りだと思っていた。

 けれど、もしかしたら裏切りではなかったのかもしれない、何か別の理由があったのかもしれない、尋ねることもなく「美しくない」と頑固になっていたのは自分のほうだったのではないか。

 今更ながらの後悔が押し寄せるなか、アリーの狩猟用刀剣が折れ、アリーは吹き飛ばされる。

 それどころか、Buddhak's etraの拳はアリーの左腕を粉砕し、狩猟用刀剣の折れた刃がアリーの心臓のやや上に突き刺さっていた。

 アリーは辛うじて生きていたが、ヒューヒューとおかしな息遣いが続いていた。

 ジョレスを見て何かを喋っているようだったが、何を言っているかすらジョレスには聞き取れないほどか細い声だった。

 それでもジョレスはアリーを守るようにBuddhak's etraに立ちはだかった。

「負けでいい」ジョレスは泣いていた。「オレたちの負けでいい。だから師匠を助けてくれ」

 ジョレスは命乞いしていた。 

 Buddhak's etraはジョレスの前で笑うと拳を振り上げ、

『neko ne5o>やってやれ』

『garara>やれ!』

『Buddhak's etra>今日の観客は下品な方が多いのですワー』

 その拳を止めた。

『Buddhak's etra>わったくし、そういう行為には弱いのですワー。わったくしが勝ちなら命は奪いませんのですワー』

 ジョレスは自分の命に関しては問わなかった。どうなってもいいからアリーを助けてほしいと訴えていた。その心意気にBuddhak's etraは感動して笑みを零していた。

 勝者が敗者の生死与奪を選択できる。Buddhak's etraはふたりの命を生かすことを選択したのだ。

『Buddhak's etra>勝った、ということはわったくし、転生できますのですワー!』

 思わず喜ぶBuddhak's etraだったが

『yahks>いや、これ団体戦だから! ……勝ち越せなきゃ意味ないぞ。とはいえ貴重な一勝GJ!』

 yahksが冷静に突っ込みながら勝利を称えた。


 舞台(ステージ):発動負担結界イニシャルコスト

 勝者:Buddhak's etra

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