本能
『Buddhak's etra>ですワー ですワー でっすワー』
だまれの類義語を三連発で歌詞に乗せたように、楽しげにBuddhak's etraはアリーとジョレスが今まさに激突せし、というところに割り込んだ。
女番長・八頭の踏み込みが、闘技場のような床を割る。
不意打ちなら見つからないようにすべきだった。いや、そんなことができないぐらい力強く俊敏にBuddhak's etraは強化されていた。
左拳がジョレスの脇腹めがけてのめり込む。
「がっ!」
吸っていた息を全て吐き出すほどの衝撃で、ジョレスが吹き飛ぶ。
『yahks>フッ……』
万年二位男を含め、観客も思わず笑ってしまうほどの強さだった。
『no na1me>なんか強すぎね?』
『Buddhak's etra>わったくしの選択した女番長・八頭の異能は、生存本能と言うのですワー』
警戒するアリーにBuddhak's etraはそう説明する。
『yahks>説明好きなんだよなあ、etra』
それでもyahksが万年二位であることを鑑みるにBuddhak's etraは自分の能力の種を明かしてもなお強いということだ。
強さに定評があるからこそ、Buddhak's etraは饒舌だった。
『Buddhak's etra>生存本能は発動後、ものすごーく強くなるのですワー。 そしてそれは最初に消費する体力に比例するのですワー』
『no na1me>でもだとしたら、すぐ発動してあのふたり倒して終わりじゃん? なんで主人公は遅れてやってくるみたいなことしてんのさ?』
『Bullet229>それはあれだ。この舞台の特徴だよ』
技能発動時の体力消費が増大し、それに伴い発動の初動時間も増大。それが発動負担結界イニシャルコストの特徴だ。
Buddhak's etraはそんなことつゆ知らず、実に最大体力の半分を生存本能発動に費やした。
それゆえに注ぎ込んだ分、発動の初動時間――つまり発動までの時間が遅延し、Buddhak's etraに想定外のことが起きた。
『Buddhak's etra>さすがに発動しなかったときはびびりましたのですワー。ですがもうひとつ、想定外のことが起きたのですワー』
Buddhak's etraは愉快げに話す。隙だらけだが、それすらも罠に映るほどBuddhak's etraの先の一撃は重かった。警戒してアリーも攻擊を仕掛けられずにいる。
『Buddhak's etra>あっなたが、わったくしに氷属性の攻擊をしかけたことですワー』
『yahks>そういうことか……』
『B.B.Baby>一位と二位だけで通じ合ってるみたいなことやめてくれる、万年二位男?』
『yahks>まあ待て。どうせ説明する』
『Buddhak's etra>わったくしは雪国の育ちでして、だから雪国生まれの女番長・八頭を選んだのですワー』
『JACK unch>あれ、プロフィール的に女番長・八頭は雪国育ちではないはずだけどー』
『B.B.Baby>それ野暮でしょ』
『Buddhak's etra>雪国生まれですから女番長・八頭は氷属性に強い! なのになぜかすぐに凍りついてしまう可愛らしさも持ち合わせていますの。ですがっ! その間は無敵で、氷さえも熱いハートが溶かし尽くすのですワー』
観客は絶句していた。気づいたyahksだけ苦笑。Buddhak's etraは自信満々の笑み。
氷属性に強いのに凍りつく、という一見矛盾したような説明だが、氷属性を扱うからこそ、冬眠状態になれて、その間は無敵と考えると妙にしっくりくる……のかもしれない。
何にせよ、アリーが動きを封じるために使った【暴虎氷河】は想定外の作用を起こしていた。
冬眠状態になったBuddhak's etraは生存本能が発動するまで、熱々トーストの上に乗っかったバターのようにその氷を溶かしていったのだ。
『yahks>あるぞ、これは。想定外に生存本能が発動してる。生存本能は消費体力に比例して強化ではなく、消費体力に比例して発動時間が設定され、その発動時間に応じて強化されるんだ』
Buddhak's etraは勘違いしていたがyahksの言う通りだった。Buddhak's etraにとってこれも想定外。
発動負担結界イニシャルコストにより、負担が増大した分の発動時間が増加している。その増加した分だけ、さらに強化がなされていたのだ。
『Buddhak's etra>では、ヤるのですワー!』
超強化された女番長・八頭はもはや正面から拳でぶつかるだけでいい。
「自分で弱点ばらしてるんじゃないわよ!」
対してアリーは魔充剣レヴェンティから【暴虎氷河】を解放。
「凍りつけっ! レヴェンティ!」
『Buddhak's etra>当たらなければ意味ないのですワー!』
氷属性が無効といっても凍りついてしまう矛盾を抱えた女番長・八頭はアリーに飛びつくように【暴虎氷河】を回避。
そのまま殴りかかる。
その瞬間――Buddhak's etraが今度は吹き飛んだ。




