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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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覚夢

〘――発動負担結界イニシャルコストでは技能発動時の体力消費が増大し、それに伴い初動時間も増大します――〙


 アリーは【三剣刎慄(トリアングラム)】を使用したときに、ジョレスは【八爪流(クリーニング)・一掃の姿(・エイト)】を使用した際の【収納(ポケト)】を使用したときに、その案内を受けていた。

 アリーもジョレスもピンときていなかったがジョレスの疲れ具合を見て、アリーは間接的に、ジョレスは実感としてその意味を理解していた。

 ジョレスは呼吸を整える。

 魔法使用時の精神摩耗と技能使用時の体力消費は意外と似ている。

 魔法、技能の発動の際にまず魔力か体力を消費する。それだけで済むものもあれば、継続するために魔力や体力を消費し続けるものもある。

 この発動時にかかる消費量を初動消費量という。

 発動負担結界イニシャルコストは技能使用時に限り初動消費量が増加する。

 超剣師たるアリーが使用する放剣技能は魔法に分類され、魔力を消費するため、これには該当しない。固有技能である【三剣刎慄(トリアングラム)】のみが体力を消費する技能に分類される。

 一方のジョレスは剣を八本持つために討伐師を選択。使用できる技能は全て体力消費のものに加え、ジョレスの固有技能【八爪流ソードスキルオブエイト】はひとつの技を使用する際に【収納(ポケト)】を実に十六回繰り返す。【収納(ポケト)】が【八爪流ソードスキルオブエイト】の技の流れに組み込まれているわけではないというのが肝だろう。

収納(ポケト)】自体、負担の少ない技能ではあったが、消費の微増が続けば負担が増えるのは当然の摂理だった。

「美しくない……」

 披露する自分を叱咤するようにジョレスはぼやく。初動消費量の増加に伴い、発動までの初動時間も増加していた。

 熟練度によって左右もされるが、例えるなら0.1秒で展開する技能は0.15秒の展開となる。その0.05秒の差は技のキレ、速度に影響してしまう。

「倒しきれるはずだった」

 アリーが【風膨(バルーン)】で対処したのも影響があったのだろう。その誤差さえなければ本来なら致命傷を与えられたのかもしれない。

 それが発動負担結界の影響によって防がれたと思うとジョレスはやりきれない気持ちでいっぱいだった。

 同期の弟子たちはジョレスを残して死んでいった。三人の師匠は見限ったようにジョレスを捨てた。

 決別後にひとりでここまで辿り着いた。

 だから、別次元のアリーには会いたくなかった。何を思って自分を見捨てたのか聞いてしまいそうだったから。

 それでも出会ってしまったから、苛立ちをぶつけるように挑んで、不本意な発動負担結界によって全力を出せずに防がれた。

 全力を出せなかった、と言い訳が用意されたようで気に食わなかった。

収納(ポケト)】で直剣〔見えずのアンダーソン〕と直剣〔魔狂いミセス〕を取り出し二刀流。

 ジョレス〈10th〉の現状と同じだった。四刀流に到ろうとするジョレス〈10th〉と。

「固有技能は捨てる……」

 誰かに言うでもなく、ジョレスは宣言。

 ジョレス自体の身体が一瞬発光したような気がした。

「師匠、行かせてもらいます」

 かつて同じアリーの弟子だったふたりの銘の剣を握ってジョレスは走り出す。

 何も技能を使っていなかった。

 討伐師の態勢技能【速勢(スピードスタイル)】を使用したわけでもないのにまるで魔法の【加速(アクセル)】を使用したかのような速度。その速度から繰り出される直剣の斬撃の剣速さえもまるで魔法がかかったかのように上昇していた。

 アリーはその剣撃を狩猟用刀剣で押し止める。が、その重みさえも先程よりは数倍は重い。

 それでもアリーは受けきってみせる。

「似すぎてんのよっ!」

 ジョレス〈10th〉の動きに、それ以上に自分自身の動きに。

 ジョレス〈10th〉も目の前にいるジョレス〈7th〉もアリーの動きを真似して二刀流を覚えた。

 そこからジョレス〈7th〉は独自に【八爪流ソードスキルオブエイト】の固有技能を編み出し、八刀流に至ったのだろう。

 つまり二刀流はアリー自身と癖は違えどほぼ同じなのだ。

 どんだけ尊敬されてたんだか、と呆れてしまうぐらい死にものぐるいでアリーの動きを真似して二刀流に至ったのだろう。

 その努力は次元が違っても素直に認めてしまう。

 アリーが先程繰り出した【三剣刎慄(トリアングラム)】は本気ではなかった。

 首を刎ねるというあまりにも残酷な固有技能をジョレスに使うのは憚られた。

 ジョレスが【三剣刎慄(トリアングラム)】を防ぎきれたのにはそんな背景も存在していた。

 受けきったアリーに負けじとジョレスは止まらぬ速さで剣を振り続ける。

 動きが似ているというのはジョレスも自覚しているのだろう。

 頑なに技能を使わず、己の技量のみでアリーに立ち向かっていた。

 アリーも捌き切るのに精一杯で放剣技能も宿せず、応酬剣も意思を伝えられずうまく機能していない。

 アリーの攻擊の多くは意外と集中力が必要なものが多い。

 それを補うようにレシュリーが援護していた。その援護がない今、アリーの意外な弱点が露呈していた。

 とはいえアリーも剣の腕前は一流。現にアリーの真似とはいえ、武器の取り扱いに長ける討伐師のジョレスの剣撃を捌き切っているのがその証明だった。

 疲弊分だけアリーに分があったのか、ほんの一瞬の隙をついて、ジョレスの腹に蹴りを入れてわずかに距離を取る。束の間の休憩のような時間。

「それが特典なんだとしたら厄介ね」

 アリーは息切れしていた。捌き切ったという実感が疲労感となって襲いかかっていた。

 ジョレスもアリーの蹴りでは転倒することもなくすぐに態勢を戻して走り出す。

「ええ、美しいでしょう!」

 ジョレスの初回突入特典〔夢からメガ覚めた(ドリームクラッシャー)〕はキングというよりもクロスフェードが特に称賛していた。

 固有技能、才覚、そういう生まれ持って、あるいはあとから特別に授かったものを一時的に使用不能することで、自分の能力を底上げする特典だった。

 ジョレスは自分が生み出した固有技能【八爪流ソードスキルオブエイト】を一時的に使用不能にして、自身の能力をそれこそ技能を使用しなくても戦えるまで強化していた。

 今のジョレスは固有技能を持たないただの凡人になっていた。ただし、”最強の”が接頭語。

 誰もが夢見るような固有技能。それを捨て去り、現実を見て、地に足をつけて、何百年も努力したら手に入るような強さをジョレスは手に入れていた。

 そんな力をくれるのが初回突入特典〔夢からメガ覚めた(ドリームクラッシャー)〕。

 才覚を持ったものは才覚を捨てようとは思わない。固有技能を持ったものは固有技能を捨てようとは思わない。それでも捨てたものにそれと同様の力を与えるのが、この特典だった。

 シュタイナーは持たざるものに力を与える素晴らしい特典だと褒め称えたが、それは勘違い。

 この特典を使用するには、固有技能か才覚を持っている必要がある。つまりこの特典はそもそも持たざる者が使っても意味がない特典なのだ。それこそ何も持たざる冒険者が強さを夢見てこの特典を選んでも意味がないと言わんばかりに。

 才能があるかも、と夢見て、才能がよりあるものに出会って、自分が持たざるものだったと現実を見てしまうような皮肉の効いた特典だった。

 そんな特典で固有技能を封印し、能力を底上げしたジョレスが再びアリーへと衝突していく。


 ***


『JACK unch>Buddhak's etraさん、ぜんっぜん動かねえな。やっぱりあれで終わり?』

『yahks>まだ終わってない』

『neko ne5o>なんでそんなこと言えるのさ?』

『yahks>etraのですワーってどういう意味か知ってる?』

『no na1me>どうした突然wwwただのキャラ設定でしょ』

 Buddhak's etraをはじめ、今回、終極魔窟(エンドレスコンテンツ)に選ばれたPC十人は配信をしている。

 その殆どがいわゆる中の人で、配信の際には何かの人格を演じている。

 Buddhak's etraの口調は、その人格設定だと観客のPCは言い放った。

 何人かが同意するなか、

『yahks>それが違うんだよなあ』

 そんな否定する言葉に罵詈雑言が飛び交うが

『Bullet229>まあまあ、万年二位男の説明をここは聞いてやれよ』

 何かを知っている観客の言葉で、その場は一旦収まる。

『yahks>悪いね。続けさせてもらうがetraのですワーはある言葉の略なんだよ。あいつはオレと趣味が似てやがる。そのせいで大体同じゲームにあいつはいる。そしてあいつはいつもオレを、オレたちを蹂躙し、絶対にトップに君臨する』

『B.B.Baby>えっ、だから万年二位男?』

『Bullet229>そうなんだよwwww』

『yahks>オレのことはいいんだ。とにかく、あいつはオレたちを蹂躙するたびに、あの言葉を言っていた。それが今や略称になり、口癖になった』

 yahksは語る間もBuddhak's etraをずっと見ていた。

『no na1me>だからそれはなんなんだ』

『yahks>見てみろ、氷がようやく溶ける』

 観客がその言葉にBuddhak's etraに注目する。

 女番長八頭が氷漬けから解放され、アリーとジョレスへと猛ダッシュで向かっていく。

『Buddhak's etra>さあさあ、始まるのですワー。わったくしの蹂躙が始まるのですワー。いえ久しぶりに滾ったのですから略さずいうべきかしらね』

 Buddhak's etraは満面の笑みだった。

『Buddhak's etra>始めますわよ、Death warkを! 行くのですワー(Death wark)

『yahks>始まるぞ。オレに絶対一位を取らせてくれない、楽しく蹂躙する彼女の戦いがっ!』

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