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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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八爪

「美しくない。こんな運命の悪戯は美しくないぞっ!」

 ローブで身を隠していた〈7th〉の剣士は顔を覆っていたフードごとローブを捨て去り、その姿を見せる。

 その表情は悲しそうに、けれど忌々しくアリーを睨みつけていた。

「ジョレス……」

 その顔を見て、アリーは呟いた。

 どんな偶然だろうか、はたまた運命なのかもしれない。

「こんなところで別次元の師匠に会いたくなんてなかった」

 〈7th〉のジョレスも奇しくも〈10th〉同様にアリーが師匠だったようだ。

『Buddhak's etra>あっなた方が対戦相手ですの? わったくしはBuddhak's etraですワー!」

 困惑しているふたりに元気よく挨拶するのはPCの少女。セーラー服にリーゼント、手には包帯を巻き、頭には鉢巻。口調と風貌がまったく合っていなかった。

『54ki ryou5>不良番長の女番長八頭か……』

 Buddhak's etraの姿を見て観客のPCひとりが即反応する。

 小型端末向け位置情報ゲーム"不良番長"は全高校制覇を目標に掲げるリーゼントの高校生・身延山が全高校制覇を目指すものだった。登場する番長は異能を持ち、発見できる番長の名前は全て実在する学校名で位置情報を読み込んでいるため、同名学校が近くにあればあるほど、同名の番長が発見しやすいという特徴があった。

 その不良番長のひとり、女番長・八頭は"不良番長"内では、もっと硬派な喋り方をしているが、Buddhak's etraはそれを真似て喋ったりはしない。むしろBuddhak's etraという人格の口調で喋っているようにも見える。

 

〘――発動負担結界イニシャルコストへようこそ――〙


 参加者が一堂に会したのを判断したのか、部屋の案内が響き渡る。サブスクリプションが女性っぽい声だとしたらイニシャルコストは艶のある男の声だった。


〘――カウントダウン終了後に、イニシャルコストの効果が発動します。それまでの攻擊は無効化されますのでご注意ください。なお、この結界内での道具の使用は禁止されております。【収納(ポケト)】自体は使用可能ですが、取り出した"分類:道具"は消滅しますのでご了承ください――〙

 案内が終わると

〘――3――〙

 カウントダウンが始まる。

〘――2――〙

『Buddhak's etra>ゴクッ……ですワー』

 わざとらしく唾を飲んで開戦を待つ瞬間、

〘――1――〙

 アリーがBuddhak's etraへと向きを変える。

〘――0――〙

 地面を蹴り疾走したアリーは、

「まずはあんたから!」

 速攻だった。

「凍りつけっ! レヴェンティ!!」

 Buddhak's etraも油断していたわけではない。

 壁が決壊して飛び出し、暴力的なまでに膨れ上がった水が一瞬で凍りつき、まるで虎になって襲いかかってきたようだった。

『Buddhak's etra>発動で……』

 最後まで言い切る前に、アリーの魔充剣レヴェンティから解放された【暴虎氷河(ラヴィーナチーグル)】がBuddhak's etraを捉える。

 一瞬だった。

 暴力的なまでに膨れ上がった氷河がBuddhak's etraを氷漬けにする。

『B.B.Baby>何もできず?』

『JACK unch>そんな決着ある?』

 観客のPCですら呆気に取られていた。

 Buddhak's etraを果たしてこれで倒せたのかどうかも分からないが、

「これで邪魔はされないわよ」

 とりあえず、一対一に持ち込めた。

 ジョレス〈7th〉はアリー〈10th〉の弟子ではない。

 けれどジョレスはジョレスだ。放っておけることなんてできない。

「何があったの? なんでキングに加担なんかしてるの?」

「美しくない世界を美しく彩るためですよ」

「どういうこと? もうちょっと詳しく――」

「あんたなんかにわかるわけないっ!」

 ジョレスが【収納(ポケト)】を展開。

「四刀流を目指して、八刀流に至るまでの苦労をあんたなんかにわかるわけがない」

 〈10th〉のジョレスは左右に二本ずつ持つ四刀流を目指して四苦八苦していた。

 今目の前にいる〈7th〉のジョレスはランク7となり、そして八刀流にまで至っていた。

 師匠ぶって素直に偉いと褒めるべきだろうか、アリーは一瞬考える。

 【収納(ポケト)】を開きっぱなしにしてジョレスがまずは一本目を取り出す。

 直剣〔密告のインデジル〕を右手で逆手に持ち突撃。

「【八爪流(クリーニング)・一掃の姿(・エイト)】ッ!」

 狩猟用刀剣〔自死する最強ディオレス〕で防ぐと、瞬く間に【収納(ポケト)】の穴が左手側に移動。直剣〔逃走のマムシ〕を取り出して、手早く切りかかってくる。

 次は右手の直剣〔見えずのアンダーソン〕。その次は左手の直剣〔慧眼のユテロ〕。

 次々と現れる剣の銘柄に絶句してアリーは褒めることもできず、何も言えなくなった。

 恐るべきことにジョレスは【収納(ポケト)】の位置を巧みに変えて剣を手放す位置と取り出す位置を決めているようだった。

 怒涛の連撃にアリーの態勢が崩れる。

 直剣〔魔狂いミセス〕と直剣〔天狗のアテシア〕の交差した一撃は応酬剣〔呼応するフラガラッハ〕が防ぐ。

 アリーが呼吸するように、アリーの意思を読み取り自在に飛び回るその剣がなければ、致命傷だったかもしれない。

 けれどジョレスの連撃は止まらない。

 応酬剣を弾き飛ばすと今度は直剣〔役立たずのクレイン〕に切り替えてアリーの狩猟用刀剣を押さえつける。

 直剣〔投球士のデデビビ〕の一撃がアリーを突き刺す直前、レヴェンティに宿っていた魔法が解放される。

「膨れ上がれ、レヴェンティ」

風膨(バルーン)】の膨張する風がアリーとジョレスの間に展開。

 自傷してしまうが、アリーはジョレスから受けるはずだった突きを避けることに成功していた。

 八本の剣による、華麗なる八連撃を防ぎきったアリーだったが、どっと疲れが押し寄せてくる。

 ジョレスが持っていた武器は全て、アリーとコジロウ、そしてレシュリーの弟子たちの名前が刻まれていた。

 それが何より衝撃的で、魔法を使いすぎたときのように精神が摩耗されていた。

「オレはヤマタノオロチとの戦いの場にいたくなかった。鮮血の三角陣(レッドトライアングル)にだって行くのは絶対に早すぎた。あそこで六人も死んで、その後、あんたたちはオレたちを見捨てた。美しくない」

 ジョレスは絶叫していた。

「【八爪流(ランディング)・疾走の姿(・エイト)】!」

 瞬きする時間もなかった。防げたのは応酬剣〔呼応するフラガラッハ〕があったからだろう。

 超反応した応酬剣がアリーの眼前で初撃を防ぐ。

 そこから超高速の七連突き。

 【加速(アクセル)】を即座に解放して、そこからの連撃をなんとか回避。【八爪流(クリーニング)・一掃の姿(・エイト)】よりも一発の威力は低いが、速さは段違い。完全には回避できずに掠ってしまったのがその速さを物語っていた。

 連撃の影響か、ジョレスの息が乱れていた。整える隙を与えず、雷撃がほとばしる。

 【雷疾(ジン)】を宿したレヴェンティがジョレスの頬を掠める。

 そのまま、交差するように首を挟むのは狩猟用刀剣。それに呼応するように首の後ろには応酬剣〔呼応するフラガラッハ〕。

 【三剣刎慄(トリアングラム)】。

 アリーの必殺の固有技能。

 さらに特典の〔全ての難門を(モントリ)通り抜ける(オール)〕があらゆる障害を突破する。

 まさに超必殺だが、アリーの特典にある障害、という定義が難しい。

「【八爪流(ガーディアン)・護送の姿(・エイト)】」

 ジョレスは静かに呟く。それは剣舞だった。華麗に踊るように【収納(ポケト)】によって八本の剣を出し入れして自身の首筋に届く手前のアリーの剣の間へ直剣を入れて弾き飛ばす。後ろから狙っていた応酬剣すら防ぎきった。

 アリーの【三剣刎慄(トリアングラム)】を邪魔する障害ではなく、あくまでジョレスは自らの剣技で対応して見せた。

 八爪流ソードスキルオブエイトはβ時代にとある冒険者が編み出した左右に四本ずつの剣を爪のように持ち使用する剣技だった。

 その剣術書を発見したジョレスはその書物を参考に自己流の【八爪流ソードスキルオブエイト】を作り出した。

 爪のようには扱えなかったゆえにジョレスは【収納(ポケト)】を繰り返すことで、八通りの八連撃を完成させていた。

 アリーの必殺の一撃を捌き切って、後退。大きく深呼吸をする。

「随分と息が切れてるわね」

 ジョレスの息切れは異常に見えた。それほどまでに負荷が大きい技能なのだろうか。


 ***


 数分前、氷漬けのBuddhak's etraに部屋からの案内が届く。

 それは初めて特定の技能を使った際に使用者のみに教えられる案内だった。

〘――発動負担結界イニシャルコストでは技能発動時の体力消費が増大し、それに伴い発動までの時間も増大します――〙

『Buddhak's etra>そういうことでしたのですワー』

 Buddhak's etraは女番長・八頭の異能とこの結界の特徴を示し合わせて、ようやく合点がいったと納得していた。

『Buddhak's etra>でしたら急がば回れですワー』

 彼女を覆う氷は内側から徐々に溶け始めていた。

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