長橋
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僕は欠伸をする。アメリアと一発逆転の島を繋げる長すぎる橋の上には何もなく、景色は単調でつまらなかった。途中ですれ違う冒険者もつまらなそうな表情を浮かべている。ここは喧騒とは無縁の世界だった。
「暑いわね」
アリーが朱色の髪をかきあげる。その凛とした顔が遠くを見据える。泣きぼくろが特徴的だった。今まで仮面で視野が狭かったぶん、今はアリーの顔がまじまじと見れて嬉しい。
「もうすぐかしら」
艶やかな唇が言葉を紡ぎ目的地が近くだと教えてくれる。遠くには南の島を覆う壁が見えた。
そんなアリーを僕は見つめる。いつもの服装と比べてアリーは身軽だった。一発逆転の島は南に位置するということもあり、他よりも常温が高く、さらに壁に囲まれているため、蒸しているらしい。
海水浴場などはなく水着を着ている人はいないが全員が軽装で露出が多かった。
だからなのか、アリーもそれに合わせるようにアメリアで軽装に着替えていた。
胸を強調させるような黒い袖無軽服を着こなして下には白い短裾丈。膝上まである白い長靴下と短裾丈の間の柔肌がなんともセクシーだった。しかし一番魅力的なのは袖無軽服と短裾丈の間から見える小さなおへそだろう。僕はアリーのおへそを初めて見た気がした。なぜだか感慨深い。
「何よ」
おへそを凝視する僕をアリーが睨みつける。
「なんでもない」
少し気恥ずかしくなった僕は今度はコジロウのほうを向いた。
コジロウもいつもと服装が違い、今は空中庭園では普段着として着られている浴衣を着ていた。それも男物だ。コジロウの特性〈中性〉は性別を変えることが可能だが、衣服まで一緒に変わらないのでコジロウは男物の服を着ることが多い。確かに性別を女から男にかえて、女物の服を着ていたらアエイウとは別種類の変態になってしまう。
はだけた胸元から見えるのは包帯。肌着代わりに巻いたさらしだった。肌着はどうしているのだろうと不埒にも思っていたが、さらしならばどちらでも対応可能だった。
「あんたはよく暑くないわね」
外套姿の僕を見てアリーが呟く。瞼近くまで伸びた髪を照れ隠しに弄りながら
「一応これ、適温維持魔法付与外套なんだけど」
「そんな高いものよく買えたでござるな……数十万どころではなかったはずでござるが……」
「まあ一応特許料みたいなのがもらえたから……」
「あー、ルーンの樹に技を定着されたらもらえるってやつか。あれ、都市伝説だと思っていたわ」
「しかも自動振込みだったよ。アメリアで準備している最中にリンゼットさんから【念波】で連絡があってさ。ルーンに技を定着させた人の口座に自動的にお金が入る仕組みらしいけど、そういう仕組みなんだとしか教えてくれなかった」
ちなみにリンゼットさんは元冒険者で、それまでに覚えた技能の一部は使用できるらしかった。
「たぶん今日と明日また振込みがあると思う」
「今日の振込みは【滅毒球】だと想像がつくけど、明日のは何よ?」
「アリーたちがアメリアで服を選んでいる間に、すごくくだらないけど応用が効きそうな新しい球を作ってみたんだ」
「経験の無駄遣いね」
「アリーたちが待たせるからだよ」
「時間がかかるのよ、私たちは」
アリーやコジロウだけでなく一般的に女性冒険者は防具選びに時間がかかるという統計が出ていると何かの本に載っていた気がする。
アメリアから一発逆転の島を結ぶ橋は、歩いて半日もかかる。僕は馬を使うことを提案したのだけれど、この橋は乗り物での通行を禁止しているらしく、冒険者のみならず、商人なども大きな荷物を担いで渡っていた。
嘆息しつつも僕たちは一発逆転の島へと続く橋を渡り切り、ようやく辿り着いたのだった。
その後、すぐに宿が確保できた僕たちは情報収集へとでかけることにした。
宿屋の亭主が僕たちの顔を見ても何も言わないことから、ここではまだ顔を知られてないようで、比較的からまれることなく情報を集めることができた。
結果、分かったのは次に受ける的狩の塔が明日開催されることだった。
必然のように試練間近の時期に目的地へ辿り着く僕たちは、毎度のことながら運がいい。
試練に関する情報、とはいえ開催日だけだけど、それを入手するついでに、オススメの料亭の情報も手に入れていた。お腹が空いていた僕たちはその料亭で各々が食べたいものを味わった。
確かにその料亭は美味かったけれど、メニューにココアがないのが減点対象だろう。
その日は別段することもなく、僕たちはすぐに眠りについた。




