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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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鑑定

 部屋の伝達事項は続く。


〘――癒術も使い放題に設定いたしますか――〙


 声に続いて、三人の視界の隅に〘はい/いいえ〙の選択肢が表示される。


『G.K67>これがあのキングが言ってた舞台ってやつかな?』

『mugen>それぞれに設定があるかんじか』

 

 PCの観客だった。どうやらどの舞台も参加できなかったPCが観覧できるようだった。

 ロイドは〘はい〙を選択。全司師のロイドは癒術も使用できるため、それが使い放題になるのであれば選択しないわけがない。

 星黒銀の岩巻樹杖〔自棄の歌い手ロック・ザ・スター〕の弦が響き、【魔絶壁(シアクリフ)】と【堅牢鎧(ディフェンドプリズン)】が展開。

 どちらも癒術で、そのどちらにも定まった祝詞が必要だが、それすらもロイドは音によって発動できる。

 〈10th〉のジョーの旋律は魔法限定で、しかも出したいものが出せたわけではない。

 けれどここいるロイドは音を解明し、弾くだけで自分が出したい魔法や癒術を発動できた。

「使い放題なら、遠慮はしないよ」

 演奏するだけ、と言えば簡単だがその技術は卓越している。

 ときには魅力させ、ときには恐怖を抱かせる音をロイドは奏でていく。

純風満犯インペトゥス・ヴェンティ】と【命狂止水ヴォジャノイ・ストルブ】、風属性と水属性の攻撃階級10の魔法が対戦相手のふたりへと襲いかかる。

 純粋な風の暴力と荒れ狂い命を奪う水の暴力はまるで台風だった。

 〈7th〉のセヴテンは不敵に笑う。

「詠唱が不要なのは俺さんも同じだよ」

 癒術の使い放題に〘いいえ〙を選択したセヴテンが背中の筒から射出したのは八つの魔法筒――高性能魔力浮遊筒〔偏愛のサガーミル〕だった。

 背中にある本体から魔力を用いて、操縦する方式の魔法筒で、拳銃のような型や大筒のような型と違い、両手が空くうえに自分の意思である程度操縦できた。

 ある意味武器を操って戦う操具師泣かせのではあるが、操具師ではない分、その魔法筒の操作にかかる魔力消費量は大きい。

 その八つ全てから【電磁砲(カノン・ア・ライユ)】がロイドめがけて発射。

 〈7th〉のセヴテンは大砲師だった。

 【命狂止水ヴォジャノイ・ストルブ】をその高火力で蒸発させ、【純風満犯インペトゥス・ヴェンティ】の風を引き裂いていく。

 魔砲も魔法に分類されるため、使用放題神域サブスクリプションの対象だった。

 さらに間髪入れずに再度、【電磁砲(カノン・ア・ライユ)】が発射される。

 八つから放たれるため魔力消費が本来なら大きいが、使い放題のため遠慮はいらない。

 舞台の設定を利用して、本来ならできない連射が可能になっていた。

 もちろん、大砲師の強みはそれだけではない。

 手動装填の【速射銃カンノーネ・ア・ラッフィカ】を空いた手にそれぞれ1丁ずつ握り、連射。

 弾丸が高速で撃ち出され、無防備のロイドとPCへと鉛の豪雨が襲いかかっていく。

『Goto259>地獄に堕ちろぉおおおおおおおお!』

 唐突なテンションで雰囲気ぶち壊しのようにPCは大声で叫ぶ。

『nagakamilonge>よりによってこいつかよ……』

 観客のなかには知っている人が何人か存在し全員が呆れた。

『Goto259>失敬。これ、オレのなんていうか挨拶感覚だから』

 Goto259はグランドトリロジーと呼ばれる三部構成の物語のPCだった。辺境の村が魔物に滅ぼされるという悲劇から物語は始まり、そこで唯一生き残ったラーキスと呼ばれる少年と主人公が旅立つところから物語は始まる。

 実は魔物の襲撃が実は手柄を立てたい勇者の仕業で、その事実を明らかにされたくない勇者から刺客を送られ、実力をつけたことで魔王にも危険視され、どちらからも狙われ始める第二部が現在進行系で進行中だった。

『Goto259>というかこれもうオレの勝ち確定感覚だし』

 その物語の中で主人公は鑑定士という職業に就いている。その鑑定士は道具などの鑑定ではなく、人物の鑑定が可能だった。

 終極迷宮(エンドコンテンツ)では【分析】に類似する技能で各NPCの能力値は見ることができるが、体力と精神力の値というのものは見ることはできなかった。

 傷が多く失血が多ければ、体力は披露して死にかけているというのが判断できるし、精神摩耗は頭痛という形で警告が出る。そうして冒険者は自分の限界を測定していく。

 明確に自分の体力や精神が数値化され、その値が0になれば死ぬというのはどうにも悲しすぎる。

 けれど、だ。

 鑑定士はそれすらも数値化して確認できた。

『Goto259>さてと見た感覚だとHPはほぼフル感覚。けどMPはっと……』

 Goto259はにへらっと笑っていた。

 MPの上限は一定のレベルを超えると鑑定士の表示では10000に固定される。とはいえ、その人にとっての10000で、魔力の高さや熟練度によって消費量が減る仕組みだ。

 つまり正確な数値が出ているわけではない。

 けれど、比較する際に同じ数値というのは比較しやすい。

 ロイド MP:8500

 セヴテン MP:8900

 Goto259 MP:9000

 数値化された精神力――他人が見れない能力値を見れるだけでGoto259は優位を得ていた。

『Goto259>さて感覚的にどう動くか――』

 目薬を指すときのように目を広げて、Goto259が光る。

 【速射銃カンノーネ・ア・ラッフィカ】の鉛の豪雨を全てかき消した。

 いつの間にか手には神剣フォルフェニクス、不死鳥をモデルに作られたという再生の力を持つ炎のような剣を握っていた。

 さらには牙獣装ガーデオニカと呼ばれる白虎をモデルに作られた白く輝く鎧で身を包んでいた。

 鑑定士に似つかわしくないと言えばそう見える。

 第一部のグランドトリロジーの主人公は鑑定はできるが傍観者でメインはラーキスを主軸に物語が進んでいた。

 けれど第二部に突入したことで、主人公は神眼を得ていた。それによって主人公は戦闘中に必殺技が使用可能になっていた。

 ようするに第二部に突入したことでグランドトリロジーは必殺技システムを導入。その必殺技は主人公が神眼を手に入れたことで自身の魔力を使用して仲間の力を借りて行うという設定が追加された。 

 その設定通り、第二部の鑑定士は必殺技が使用できた。

 そしてその必殺技はこの終極魔窟(エンドレスコンテンツ)に突入した時点で、魔法と癒術に分類された。

 ゆえに本来は制限がかかる必殺技も使用放題神域サブスクリプションの中では使い放題だった。

『Goto259>ってかもう勝ち確定感覚なんだよなあ』

 グランドトリロジー第二部において全てのキャラクターをコンプリートしたGoto259は使い放題ゆえに、ほぼ全ての必殺技を使い放題で放つことが可能なのだった。


〘――癒術も使い放題に設定いたしますか――〙


 そういえば問われて放置したままだった。視界の隅にずっと〘はい/いいえ〙の表示が見えていた。


『Goto259>はいはい。〘はい〙、ですよっと』

 自分のMPが9000から8500に変化したのを気にもとめず、おそらくこれで全ての必殺技が使用できると確信してGoto259は魔法飛び交う戦場へと対面していく。

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