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tenth  作者: 大友 鎬
第12章 ほら、呼び声が聞こえる
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放題

「舞台は整えた」

 亀裂の先からキング〈7th〉の声が聞こえる。

「こちらは10人。そちらも10人」

 こちらというのはキングの手勢のことだろう。だとしたらそちらというのはPC10人を指すのだろう。突然そんなことを言い出したキングをPCたちはどんな目で見ているのだろうか。

「そちらが勝てばこの世界はお前たちの物になる!」

 キングの宣言はきっとPCたちには魅力的に聞こえたのだろう。PCたちが沸き立つ声が聞こえてくる。

 僕は逆にキングの目的がわからない以上、負ければどうなってしまうのかがわからず恐怖を覚えた。

 PCたちは負ければデータ消去というデメリットを常に背負っている。それ以上の何かはない、と慣れきってしまっているのかもしれない。

「勝負方式は用意された十個の舞台で1on1。生死は問わぬ。勝者が決めろ。勝った人数の多いほうが勝ちだっ!」

 途中でキングの声が聞き取りにくくなってしまうほどPCたちは湧いていた。それだけじゃない、いつも戦闘において聞こえてる観客のような声も混じっているのかもしれなかった。

「せいぜい野望の糧となれ」

 そんなキングの言葉はPCたちの耳には届いてないようにも覚えた。

 逆に鮮明に僕たちの耳には届いていた。

 集められたキングの手勢10人とPC10人。合わせて20人。

 僕たちはその間に登場する。先頭は最初に入ったジョーカー。まるでタルから危機一髪と黒ひげの海賊が飛び出すかのようにレストアが逃げる際に作った床の扉から飛び出していた。床から出るとは聞いていたけれど、なんて登場の仕方だろう。

「ヒーヒッヒッヒ」

 聞き覚えのある笑い声で清潔なジョーカーが笑う。

 アルルカ曰く良いジョーカー。当然、ここまでつれてきてくれたのはこのジョーカーだ。疑う必要はないのだけれど、僕たちが知っているこちらの次元のジョーカーの印象がどうしても拭えないのも事実だ。

「私がいたのが運の尽きだーねえ、どーこかの次元(サーバ)のキーング! この天ー才にして超天ー才科学者―の私がいれば不可能はないーんだよー」

「〈7th〉のだよ」という続いて僕たちと一緒に出現したロイドの囁きをジョーカーは聞き流して

「まあ、この扉がなけれーれば不可能でーしたけどねー」

 ジョーカーは笑う。

 さらにそこから僕たちが飛び出してくる。

「予定変更だ」

 キングが不思議に笑った。不気味さを警戒しながら状況の把握に努めている間に足早にこう続ける。

「見ればそちらも10人。三つ巴で行こうではないか。勝者が多い側の要望を叶える。終極魔窟(エンドレスコンテンツ)はそういう場所だ」

 宣言し不敵にキングが笑った瞬間だった。


〘――転送を開始します――〙


 不意に電子音で構成された不気味な声が響き渡り、転送が始まっていく。最初に転送されていったのはジョーカーだった。

 次々と転送されていくなか、

「なあ、〈10th〉のレシュリーくん」

 ロイドが話しかけてくる。

「そっちのジョーはまだ生きているのか?」

「いえ。ヤマタノオロチの戦いで――」

「oh、そうか。そっちもやっぱり――でもだったらなんで」

「雅京を守って死にましたけど英雄になりました」

「えっ!?」

 早とちりで答えを導き出そうとしていたのか〈6th〉のロイドは僕の答えを聞いてうっすらと笑って転送されていった。


 ***


 だからそっちの(ぼかぁ)は専業で吟遊詩師になれたのだろう。

 〈6th〉のロイドはジョーの自殺に嘆き、彼の絶望を辿った人生がまるで枷のようになって冒険者を続けている。吟遊詩師のように時折詩歌を歌いはするが、歌を本業にすることはジョーの人生を悪い方向へと変えてしまった自分を罰するように禁止していた。

 羨ましいと思ったのは事実だが、〈10th〉のロイドを恨んだりはしない。〈10th〉のジョーはきっと〈10th〉のロイド以外にもたくさんの交流を経て、そういう運命を辿ったのだ。

 まったく同じ運命でまったく違う結末だったら恨んだりもするだろう。

 けれどジョーの運命が違う〈6th〉と〈10th〉では、大きく交わったロイドの運命が違うのもまた運命なのだろう。

 それでも

(ぼかぁ)、ロイド。よろしく頼むよ。おふたりさん」

 対面するふたりへ挨拶をしてロイドは臨戦態勢へと入る。

 《7th》のセヴテン・ゴーと鑑定士のような虫眼鏡とそういう装いのPCがすでに眼前にいた。

 吟遊詩師として歌っている。そんな異なる運命もあった、というのは羨ましさと同時に希望でもあった。全ての次元(サーバ)のロイドが一律で悪い運命ではないと知れた。

 だからこそ少し嬉しくもあるのだ。

 星黒銀の岩巻樹杖〔自棄の歌い手ロック・ザ・スター〕の弦を弾くと悲しい音色が響く。


 同時だった。


〘――戦闘開始まで3秒前――〙


 戦闘開始のカウントダウンが始まる。


〘――2――〙


〘――1――〙


〘――GO!――〙


 三者がぶつかる直前、さらなる放送が響き、三人の体を優しく、淡い光が包み込む。


〘――お三方の突入と同時に自動的に契約が完了しました。この舞台(ステージ)では魔法が使い放題となります――〙



〘――ようこそ、使用放題神域サブスクリプションへ――〙


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