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tenth  作者: 大友 鎬
第11章 戻れない過去
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悪戯聖域編-13 一縷 (九本指②)

 まるで鬼ごっこみたいだ。

 暗闇の洞窟でセヴテンたちは逃げていた。

 けれど鬼ごっこにしてはあの頃と違って全然楽しくない。

 長男ツウテンと六男ハッテンが鬼で、次男のサンテンと、四男のフォテン、そしてセヴテン自身とロクテンが逃げ回っていた。いつもロクテンだけが捕まらなかった。

「アニキはすごい」そんな言葉がいつも自然と口から出た。

 いつからこうなった?

 もうそんなことすら思わないぐらいの時間が経過していた。

 兄だと思いたくない。血がつながっていると思いたくない。そのぐらい、毛嫌いしてしまっている。

「どこかに追い込まれていないっすか?」

「たぶん。どこかのタイミングであいつらが来た方角に向かわないといけない。あいつらが来た方角こそ出口がある」

 とはいえ暗闇の中を松明の灯りだけで探り探り進んでいる。とっくに方向感覚は奪われている。

「コーバス、ゼダン、シリヴ、ケネン、キーバス!」

 全員の名前を呼ぶが、帰ってきたのはコーバス、ゼダン、ケネンの声だけ。

「いつからはぐれた?」

「わからんっす。でもキーバスの治療をしてたシリヴが一緒にいる可能性は高いっす」

「戻ろう」

「セヴテン、さすがにこんな状況じゃ探せない」

 ゼダンの声に疲れが見えた。

 逃げるように走り続けたことをセヴテンは今更ながら思い出す。

 むしろ過去の楽しかったことを思い出してしまったのはまるで現実から目を背けているようで嫌だった。

 松明の灯りを消さないのは追跡者が【猫眼(ビ・ジョン)】を使っている可能性が高かったからだ。

 じゃなければセヴテンたちと同様、松明をつけているはずだった。

「たぶん冒険者の数はそれほど多くない。全員が狩士のはずがないから。けどそれ以外の気配もひしひしと感じる。あいつは魔物も放っているのかもしれない」

「ここで迎え撃つっていいたいのか、セヴテン」

「ああ、シリヴとキーバスを見つけないといけないなら逃げてばかりはいられない」


 ***


「もう戦わない」

 ロクテンがそんなことを言い出したのはハッテンが死んだ日だった。

「何があった、ロクテン?」

「何もない。何もなかった」

 問い詰めるフォテンの言葉にロクテンは虚ろな目で答えた。

「ぼくさんは空っぽだった。何もなかった」

 実家に戻ってきたロクテンの服装は血まみれだった。

 ロクテンとハッテンの間に何かがあった、とフォテンは感じていた。

 ツウテンとサンテンはすでに死んでいて、フォテンは弟たちを支えなければと感じていた。

「何があった?」

 まるで咎めるように問いかけると

「うるさい」

 それだけ言ってロクテンは自分の部屋から出てこなくなった。

 それから二度とロクテンは外の世界に出ることはなかった。

 セヴテンへの復讐を始めるまでは。


 ***


「ああ……」

 自分の判断を呪いたかった。

 迎え撃つ判断を下したセヴテンに待っていたのはコーバスの死だった。

 体躯の黒く、かなりの跳躍力を持つバウンドドッグ(跳ね飛び猟犬)の群れはこの暗闇の洞窟のなかでは強敵だった。

「ししし……」

 暗闇のなかで、謎の笑い声が聞こえてくる。ロクテンの笑い声ではない、何者かの声。けれどこの笑い声には覚えがあった。

「しししし……ししししし……」

「エゴリーズか」

 魔物使士のエゴリーズはDLCを使う冒険者を忌み嫌っていた。

 ランク3のまま、特に成果も上げれずくすぶっていた彼は今もなおランク3。

 セヴテンのようにDLCでレベルを上げてランクを上げるのが許せない人種だった。

 エゴリーズはそんな理由でセヴテンに挑み返り討ちにあっていた。

 そしてセヴテンは情けをかけて見逃した。それがエゴリーズのプライドを余計に傷つけていた。

 情けをかけてもらった恩を仇で返すようにエゴリーズは今この場所にいた。

「ししししし、暗闇のなかで死んでいけ」

 エゴリーズの使役するバウンドドッグが身体を丸めて突撃してくる。

 暗闇からの強襲。しかも避けたら壁を利用して跳弾として飛んでくるという二段構え。

 跳弾を盾によって弾き、身体の丸まりが緩んだ瞬間に追撃するのが定石だが、その定石を暗闇が邪魔をしていた。光源から離れることができないのも不利に拍車をかけていた。

 結果がコーバスの死だ。DLCで強くなったとはいえ、まだ暗所での戦いは経験が足りているとは言い切れない。


 ***


「フォテン(あに)さんは死んだよ。いつもロクテン(あに)さんのことを気にかけていた」

 ロクテンの部屋の前で、セヴテンは語りかける。ロクテンからの返事はなかった。

(はは)さんも(ちち)さんもロクテン兄さんを気にかけてる。いい加減、ここから出たらどうだよ?」

 うるさいと言わんばかりにロクテンとセヴテンを隔てる扉に何かが当たる音がした。

 ロクテンはハッテンが死んだ日から数年間、まったく部屋を出てこなかった。

 セヴテンはまだこの頃は(あに)さんとロクテンを呼んでいた。

「ぼくさんがハッテンを殺した」

 ロクテンが、しつこくも優しく声をかけるセヴテンを地獄に落とすように数年越しに口を開いた。

 悪魔の囁きというのはこういうことを言うのかも知れない。

「どういう……」

「言ったままの意味だ。ぼくさんがハッテンを殺したんだ」

「ロクテン(あに)さんを庇ってとか?」

「……」

 ロクテンはそれ以上は言わなかった。

 ロクテンとハッテンの間に何があったのか、セヴテンにはわからない。けれど振り返ってみると嫌いになったのはそれがきっかけなのだろう。

 それから(はは)さんと(ちち)さんが死んでもなおロクテンは自分の部屋から出てくることはなかった。


 

 ***


「危ない!」

 コーバスの死と行方不明になっていたシリヴとキーバスの存在が焦りを生んでいた。

 だから気づけなかった。横っ腹へとバウンドドッグ(跳ね飛び猟犬)がぶつかろうとしていたことに。

 庇ってくれたのはケネンだった。

 そのまま壁にぶつかったケネンの姿は見えない。

「ケネンっ! すまない、大丈夫か?」

 何者かが移動した気配を察して、地面に刺していた松明を手に持って移動する。

 途端にセヴテンに蹴りが入る。

「よぉ!」

 と挨拶したのは元第ⅶ世代のゴロジェンドだった。暗視眼帯(ゴーグル)をつけていた。かなりの高級品だがロクテンが買い与えたとすれば納得が行く。

「嫌なやつらばっかりだ」

 思わず悪態をつく。

「相手してる暇なんかない」

「いいや、相手してもらうぜ」

 ゴロジェンドの右手から放たれた義腕鉤爪〔怒り上戸のヒックル〕がセヴテンの腕に絡みつく。

「覚えてるか。お前に斬られた右手だ」

「散々、第ⅶ世代の名を利用した結果だろう」

 右手を切り落としたセヴテンへの意趣返しだった。

 ゴロジェンドへと引き寄せられていくセヴテン。もう一度蹴ろうとしているのだろう。

「ふんっ!」

 逆に股間を蹴り飛ばす。

「ぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 暗闇に悲鳴にならない悲鳴が響く。

「ざまあみろ!」

 笑ってやろうとして、飛びかかられた。痛みをこらえて馬乗りにされている。

「このまま、仲間が死ぬのを待ってろっ!」

「セヴテン、どこだ。助けてくれ」

 庇ったゼダンが混乱して叫んでいた。松明もなく暗闇のなか孤独に押しつぶされていた。

「うわーーー、あああああ!!」

 唸り、噛み付くような音とゼダンの悲鳴が重なる。聞こえなくなったのは絶命したからだろう。

「はは! どうだ、セヴテン。お前が手に入れた名誉には代償がつきまとう。お前たちが名前を利用させ続けてくれればよかったのに、あいつらは違う。一緒にするなと拒んだ。定義なんて曖昧で良かった。清濁飲み込んで仲良くさせてくれればよかったのだよ!」

「お前らに付き合えば損するだけだ」

「損切りした結果が、これだよセヴテンく~~ん」

 不快な声だった。

 流行りに乗るように利用して、毛色が悪くなったら全部セヴテンに押し付けた。ゴロジェンド自身の悪事すらも。

 それを乗り越えてセヴテンは今ここにいる。それが気に食わないからゴロジェンドはロクテンに加担しているのだろう。

 あのときうまく利用できていれば、今も利用できていた、なんて考えているのかもしれない。

「結局、自分勝手なんだよ」

 暗闇の中で殴られ続けて悪態が勝手に出た。

 セヴテンが右手を奪ったのも、押しつけられた悪事を精算するためのものだった。ゴロジェンドも納得していた。

 命の代わりにほとんどの冒険者の利き手、右腕を奪ったのだ。

 身から出た錆すら、全部セヴテンのせいにしてゴロジェンドは復讐しているのだ。

 大きく身を捩って馬乗りのゴロジェンドからセブテンは逃げ出す。

「させねえよ」

 右腕を引っ張るだけで、セヴテンは引き寄せられる。

「おらあ!」

 左拳がセヴテンへとぶつかろうとした瞬間、「な……んで?」

 唐突にゴロジェンドが倒れる。

「無事かい?」

 松明を持って現れたのは行方不明になっていたシリヴだった。ケガをしているのかキーバスはシリヴに支えられていた。

「正直、助かった……」

「エゴリーズも不意打ちで倒したけどケネンが……」

 いつの間にかバウンドドッグ(跳ね飛び猟犬)の気配が消えていた。

「そうか……ケネンは庇ってくれたんだ。そうだ! セダンはどこに?」

 探すまでもなかった。松明のわずかな灯りにゼダンの死体が映り、泣きそうになるがセヴテンはこらえる。

「ふたりとも生きててくれてありがとう」

 暗闇の中にも希望はあった。

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