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tenth  作者: 大友 鎬
第11章 戻れない過去
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悪戯聖域編-11 離別 (十本指①)

「そんなのは嫌だ」

「駄々を捏ねるなよ。美しくない。何度も言うがオレたちはここで一度バラバラになるべきだ」

「嫌だ」

「わからないやつだな。お前はアテシアとクレインといればいい。ユテロだってお前と一緒にいると言っている。そこでなんでオレとミセスがそこから離れることが許されないんだ?」

「だってそれはせっかく連携もできてきて依頼だってこなせてる。むしろ何が不服なのか……」

 仲間同士で強くなることは悪いことではない、その調和が崩れることをデデビビは恐れていた。

 一方でジョレスの主張は違う。

「改造なんかで近道するのは当然美しくない。けれど回り道が正しいとは限らない。この環境のまま回り道していてもいいのか、とそう思ったんだ」

「なんで?」

「デビが十本指になったからかもしれない」

「それはみんなのお陰で……相対的にみんなの評価だって上がっていたじゃない」

「それに不服はない。けれど、満足してしまいかけたことをオレはオレ自身で美しくないと思った」

「けど……」

 デデビビだけがジョレスと言い争っていた。他の仲間たちはそれを黙って聞いていた。

「頼む。納得してくれ。喧嘩別れは美しくない。オレが言いたくない言葉を言わせないでくれ」

「……」

 デデビビが押し黙ったのはクレインが不安そうに袖を触ったからだった。

 それでも一緒にいたいデデビビは言葉にしてしまった。

「みんなが必要だ」

 今度はジョレスが泣きそうになる。ジョレスとてデデビビたちが必要だ。自分だけでは何もできなかった場面でも、仲間がいたから救われた。それは痛感している。

 それでも、だ。

 ジョレスは決めていたのだ。

「夢を見たんだよ。九人でいる夢」

 言って、今度はグレイを除いた六人全員が絶句していた。

「アンダーソンもマムシもインデジルもオレたちを見ていた。お前たちは何をしている、と訴えているようだった。オレはふと思った。三人は今のオレたちに失望しているんじゃないか、って。オレの横には本当はアンダーソンがいて、ユテロの横にはマムシやインデジルたちがいたかもしれない。グレイさんも含んだ七人の連携だってなかなかのものだと思う。でも本当は九人だった。グレイさんは試練の都合上の人数合わせだった」

「それは失礼じゃ……」

 その言葉を止めたはグレイ自身だった。極端ではあるが事実に違いない。グレイ自身がその縁を良縁と感じて今に至っているだけの話だ。

「今のこの環境に満足しているオレはそんな三人から見たら美しくないんじゃないか」

 ジョレスは三人の夢を見たことで三人の死を再び強く感じ取ってしまったのだ。

「だから出ていく。このぬるま湯から」

「僕たちはゆるま湯なのかよ」

「ああ。いつの間にか温くなってた。心地よさが足かせになってる。停滞して目標に達してないのに満足してしまいそうになる。それはオレにとって美しくない」

 ジョレスにとって今の環境は娯楽小説でいうところの映像化した途端、続きが出なくなった物語の主人公のようなものだ。

 物語の主人公たちの目的が達せられないまま前と一歩も進まない。

 今のジョレスは四刀流という目標を掲げ、三人の死を経験し、なのになんとなく依頼をこなして日々を過ごしている。

 子供の頃は夢を諦めたわけではないのに、依頼をこなすのが忙しくてと言い訳している冒険者に辟易していた。今は自分がそうなっている。

 だからデデビビたちの環境を本当はそんなこと思っていないのにぬるま湯と評して、わざと嫌われようとしていた。

「もういい!」

 わざと嫌われようとしていると察してデデビビは話を切り上げる。

「独立しよう。僕たちは。きっと今がちょうどいい時期なんだ」

 デデビビにとっては苦渋の決断だった。

「僕とまだ一緒にいてくれる人だけ、また一時間後に集合して」

 そう言ってデデビビは部屋に閉じこもってしまっていた。

 与えられた時間は各々の決断の時間だった。


 ***


「そんな……」

 そこにいたのはユテロとクレインだけだった。

「アテシアは?」

「ちょうどいい機会だからって。ムィと一緒に」

「そんな……」

「グレイさんもちょうど捕まえたい魔物がいて、洞窟の奥深くにいるからひとりのほうが都合がいいって。捕まえたら戻ってくるとは言っていたべ」

「ミセスは……うん、なんとなくわかってた」

 一番現状に満足してなかったのはミセスだったろう。元々強い冒険者と戦いたいという欲求を持っていた。いざこざを防ぐために何度か制止したこともある。自由にしていいと言われれば喜んでそうするだろう。

「こんなことなら十本指なんてなりたくなかった……」

 思わず本音が出た。

 環境の変化を望む者もいれば環境の変化を望まぬ者だっている。

 残ったユテロとクレインはそうだったのかもしれない。

 元々前衛ではなく援護を主としている。

 クレインはデデビビとユテロの護衛が多く、デデビビもユテロも遠距離での援護が多い。

 そう考えるとジョレスやミセスの負担が多く、より疲弊も多い。研鑽する時間をそれで奪っていたのかもしれなかった。

 十本指に指名されたという環境が良くも悪くもデデビビたちの環境を激変させていた。

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