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tenth  作者: 大友 鎬
第11章 戻れない過去
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悪戯聖域編-8 出発

「至れり尽くせり、という感じだが……本当にいいのかい?」

 馬車でフィスレさんをつれてきたのは僕たちの基地だった。正確にはディオレスの基地で、僕たちは引き継いだだけと言うだけど。名義はまだディオレスのままになっていた。面倒くさいとかではなく思い出に残しておきたかった。僕にとっては短い期間だけど、アリーとコジロウにとっては第二の我が家というべきところだから、少なくとも思い出として取っておきたいという思いがあった。

「全部、シッタの指示だよ。なんだかんだでいいお父さんやってるって感じ」

「珍しいな」

「何が?」

「キミがシッタを評価しているところが、だ」

「面と向かって言わないだけだよ」

 現に今シッタはいない。なにか忘れ物がないか、自分の家に確認に行っていた。

 フィスレをここまで送ってきたのは僕とアリーだけど、空き部屋を忙しなく動き回っているのはムジカとメレイナ、セリージュだった。 

 ネイレスさんが指示を出しているのも斬新だ。

 僕はきっと余計なことをしないほうがいいと縮こまっている。アリーもなにかしようとしているみたいだけどネイレスに気圧されている。

 そんな様子を眺めているとフィスレさんがにやにやしていた。

 気づかないふりをして、

「ネイレスさん、寝台だけは優先で、いつまでもソファーってわけにはいかないよ」

「待って。位置が重要だから」

 こっちを見ずに手だけで制して位置取りを考えている。

 馬車も飛ばさずかなり慎重に連れてきた。身重のフィスレさんに何かがあってはいけないと最善を尽くしていた。

 この時期での移動はどうかと思ったけれど、シッタが二本指になったことでシッタの家に突撃してくる冒険者などが急増して、定住する家を作っていたシッタにとっては誤算のようだった。

「静かな場所連れてけ」とある意味で脅迫された僕はアリーの許可を得て、この基地に招待していた。

 基地の入口は不規則にできるし、許可した人しか侵入はできない。そういう意味では静かな場所だった。

 とはいえ基地にフィスレさんをひとりというわけにもいかない。

 アリーと僕はシッタとともにディレイソルとウイエアのおかげで目星がついた悪戯の聖域ミスチヴァスサンクチュアリに向かうことになる。

 そうなるとフィスレさんひとりになってしまう。

 コジロウはまだ研究所跡地の処理に追われていて、帰ってこない日が多い。ジェニファー(JEN1-4A)は武器強化で忙しくなったジョバンニが勝手に連れて行っていた。

 というかそもそもそれはシッタの家に居たとしても直面する問題だった。今まではできるだけ早く帰るで対応していたらしい。

 どうするか悩んだ挙げ句、僕はネイレスさんに相談していた。

 シッタの対応を叱責したあとネイレスさんが引き受けると申し出てくれた。遊牧民の村で赤ん坊を取り上げたこともあるらしい。

 そういう経緯でネイレスさんが手伝ってくれることになり、その話を聞いたメレイナたちも興味があって一緒についてきていた。

「なんか私やることないわ」

 アリーはアリーで色々調べていてくれたらしいけれど、ネイレスさんがまるで鍋奉行のように仕切り始めたので、ちょっと残念そうにソファーへと座った。

「こっちはこっちで悪戯の聖域ミスチヴァスサンクチュアリの準備したほうがいいかも」

「それもそうね」

 気落ちする前に援護するとアリーは立ち上がる。

「そっちも微笑ましいね」

 フィスレさんが僕たちの仲をからかいながら、ネイレスさんに支えられて立ち上がる。ようやく寝台の位置が決まったらしい。

「あとでリアンとアルも来る予定だから。男手も必要になるかもだし、リアンは癒術会の経験がある」

 ユリエステさんたちも大変らしいが、何かあった際に癒術会の助けは必要になる。ならリアンを頼ったほうがいい。

 シッタが心配するすべてのことを僕が援護するように提案していた。

 ほぼ解消されたと思う。

 憂いをなくしてからのほうがシッタは悪戯の聖域ミスチヴァスサンクチュアリに挑みやすいだろう。

「ごめん。回復錠剤のストック全部もらったわ」

 倉庫から戻ったアリーさんがメモを渡してくる。

「というか色々なくなったものあるから」

 在庫管理は僕の役目だった。手渡されたメモを見ると結構な量が減っていた。

「いつになく慎重だね」

 【収納】に99個収納できるとはいえ、アリーはいつもはそこまで限界に収納なんてしてなかった。

「そりゃあそうよ。ただ単に挑むわけじゃないんだから」

 シッタの意気込みが伝播したのか、アリーも備えあれば憂いなしの精神をいつも以上に発揮していた。

「そうだね。倉庫はまた補充しておくよ。だとしたら共鳴絶品(ソウルフード)も用意しておくべきかなあ」

「あれは迷信よ。食べた後に【分析】しても能力変化ないんだし」

「でもあの験担ぎ、シッタは大好きなんだよ」

「験担ぎ自体があいつの共鳴絶品(ソウルフード)でしょ」

「何の話だ?」

 寝台からでも話し声が聞こえたのかフィスレさんが話題に入ってくる。

共鳴絶品(ソウルフード)を作るかどうかって話」

「それなら作ったほうがいい。シッタは共鳴絶品(ソウルフード)が、というかそういう類の験担ぎが好きなんだよ」

「だとしたらその材料も必要か。ちょうどいいし、買いに行くよ」

「気が早くない? 出発は三日後よ」

 みんなで笑い合って、三日後はすぐに訪れた。


 ***


「じゃあ、行ってくる。見てろよ。最強のNo.1になってくっからよ」

「それ、最強とNo.1被ってない?」

「バカ言ってないで、さっさと行くわよ」

 テキパキと歩くアリーの後ろで僕とシッタは笑い合って進んでいく。その日の朝食はもちろん、共鳴絶品(ソウルフード)――誰しもが大好物を食べていた。

 いつもと変わらない状態、むしろちょっと調子が良いのではと思うぐらいの状態で、カルデラ湖に到着していた。

 不思議な湖とは聞いていたけど実際に見てみると確かに不思議だ。

 ディレイソルが言っていたように湧き水ではないのに水嵩が減ることなく一定量たまり続けている。

「さっさと潜るわよ」

 【呼吸補助(ブレスコーチ)】の魔巻物(スクロール)を全員が展開する。

 ディレイソルから譲り受けたものだが、ディレイソルもウイエアから大量にもらったらしい。

 飛び込むシッタとアリーを尻目に、まるでお風呂に浸かるようにゆっくり足から入ろうとすると、いきなり引きずり込まれた。

「!!!」

 シッタだった。

「ふざけすぎだって」

「はは、まあいいだろ。こういうときは思い切りが必要だ」

「喧嘩は後。見なさい。あったわよ。入口」

 まるで手招きするように目の前には黒い闇が続いていた。奥は見えない。

「さすがはウイエアだな」

「というか見つけたディレイソルに感謝だね」

 張り合うように言い合ったがすぐに笑ってしまう。

「変なとこで波長合ってるわよね、あんたら」

「で、入ってすぐは安全なんだっけ?」

「手記ではね。でも油断せず行こう」

 ランク7冒険者の前にしか出現しない穴ぐらへと僕たちは進んでいく。

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