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tenth  作者: 大友 鎬
第11章 戻れない過去
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悪戯聖域編-6 湖岸 (八本指①)

『そういうのはさっき言ってほしかったっぺ』

 【電波(レパシー)】だった。集配社専用の技能だが、ウイエアは職権乱用がごとくシッタも使用可能にしていた。

 ウイエアが少しげんなりしているのも無理もない。二本指を告げたときに一緒に伝えてほしかった。そこからこのまま現場に向かうのと、一度帰社してから現場に向かうのではどちらか効率的か考えなくてもわかる。

『嬉しさのあまり忘れていた』

 とはいえ、現場に向かわないわけにはいかない。

 言い訳するシッタからもたらされたのはランク8の試練、悪戯の聖域ミスチヴァスサンクチュアリの情報だったのだ。


***


「それで(?)自分に白羽の矢が立った(?)ということですか(?)」

 経緯を聞いてディレイソルが納得する。八本指になって初めての大きな依頼だった。

 しかもそれを制定した集配社からの。

「そうっぺ。どうやらカルデラ湖の中にあるっぽい。それを確定させたいねんっぺ」

「うーん」

「なんっぺ。依頼を受けてくれた割には乗り気じゃないっぺね」

「あそこ(?)は不思議な場所すぎるんですよ。まあ逆に不思議だからこそ、その試練があるのかもしれないですけど」

「というとどういうことっぺ」

 カルデラ湖へと進む道すがらウイエアとディレイソルの足取りは軽い。

 魔物が存在するはずだが、先ほどサイコ狩場で魔物が沸き終え、殲滅し終えた後のため周囲の魔物の絶対数が少なかった。

「そもそもカルデラ湖はガーデット旧火山の噴火口に雨が溜まってできたとされてるんです」

「せやんっぺ」

「そこからマグマの流れた痕跡(?)たるアデス川を辿って海へと流れますが、カルデラ湖は枯れたことがないんです(?)」

「んんっ? そういや考えたことなかったっぺ」

 情報収集を主としている割にはウイエアの興味の幅は少し狭い。イロスエーサあたりならもっと在る種の考察を提示してくれたかもしれない。

「雨が溜まってでき(?)、川から海へと流れる(?)。そうすれば湖の水量(?)は絶対的に減っていくはず(?)です」

「確蟹!」

 ウイエアは手で鋏を表現してちょっとふざけた。

 ディレイソルは完全にスルーして

「なのに水量(?)は減っていないんです」

「んん」

 突っ込まれなかったのを咳でごまかして

「それこそ、雨が定期的に振り続けてるんでねっぺ?」

「減った分(?)、振るのであれば今もここは大雨(?)ぐらいの勢いじゃないといけません」

 見事なまでの快晴だった。

 だからこそ岩ぐらいしか隠れるところのないこの休火山は見通しがよく、だからこそあまり警戒せずにこうして話しながらでも向かうことができているのだ。

「とはいえ、もしかしたら大草原に張られているという結界のようなもの(?)が、作用している可能性だってあります」

「たぶんそっちのほうが高そうッペ」

「だから下手に触れて何か影響が出るかも知れないという懸念(?)がひとつ」

「もうひとつあるのっぺか?」

「あそこは魚や魚のような魔物(?)にとっては餌が大量にある湖なんです。昔は湖貝も有名でした」

「だから魚が豊富って話だろ?」

「ええ(?)。だから結構、重宝(?)したんです。数年前までは」

「それは事件の匂いがするっぺ」

「数年前に強化動物になった肉食の魚が放流されました。貴族から依頼で冒険者がいらなくなった魚を放流したんです」

「あーわかったぞ。肉食の魚にとっても大好物の魚たちが大量にいるってわけか」

「はい。結果、魚の魔物すら取り込んで主とも言うべき強化動物(?)が誕生したんです」

 ちょうどカルデラ湖が見えてくる。

ソードテール(擬態竜)メタドラゴン(剣尾魚)(?)。それがその魚の名前です」

 ちょうど、その湖から大きく跳ねる魚がいた。剣のような尻尾を持ち、龍の胴体に鮫の頭がついたような巨大な魚がいた。

「あれで魔物じゃなくて強化動物っぺか」

 強化動物はもともと温厚な生物を人の手で改良を加えたものだった。改造とは異なり、姿形は変えずに、生産量や収穫量を高めるために作られたものだった。もともとソードテールとだけ呼ばれていたこの魚は、貴族の、本来とは異なる改良の仕方によって強化動物となった。

 命名したのもその貴族だ。

 想い人への贈り物のためだけに、推奨されていない改良を加えた。悪ふざけにも見えるその改良はソードテールの名前の所以となった、鋭くも美しい剣のような尾をより美しくより鋭く進化させたのだ。

 だから悲劇は起きる。

 想い人へとソードテールメタドラゴンの水槽を渡そうとしたとき、その魚は飛び跳ね、想い人の顔を傷つけた。

 そうなれば受け取ってくれるわけもない。そしてその改良を頼んだ貴族も立場が危うくなった。

 お金をつぎ込んで行った改良した魚を、その貴族が冒険者に大金を叩いてカルデラ湖に捨てた。

「何だっぺ、その話?」

「嘘か本当か(?)、そういう経緯があるらしいです」

「迷惑な話やっぺ」

「前にディエゴ(?)さんに頂いた【呼吸補助(ブレスコーチ)】の魔巻物(スクロール)(?)はふたつ。それがなくなれば水中戦はできません」

「ところがどっこい」

「なんです(?)」

「調査のために死ぬほど魔巻物(スクロール)を作らせた」

「すごい(?)」

「ただし――」

 ウイエアははっきりと宣言する。

「その代わり、ひとりで戦って、そして調査もひとりでしてほしいっぺ。どんだけ魔巻物(スクロール)は使ってもこちらの経費で報酬から引くなんてことはしないっぺ」

「別にいいですけど(?)理由は聞いても(?)」

「泳げないっ!」

 どんっ! とウイエアは誰かに自慢するかのように勢いよく、そして堂々と宣言した。

 これはディレイソルも苦笑するしかない。


 ***


「それとだ、見つからない可能性もあるっぺ。だから違和感でいい、怪しい場所があったら報告してほしいっぺ」

 【呼吸補助(ブレスコーチ)】の魔巻物(スクロール)を使用したディレイソルにウイエアはそう告げる。

 つまり倒したらそのまま、調査をしてほしいということだろう。

「それは情報がデマ(?)ということですか?」

「その試練に挑める冒険者でしか確認できない可能性があるってことっぺ。それでも、わいやディレイソルはんのような冒険者であれば、違和感は覚える可能性がある。それで目星をつける」

「なるほど(?)。了解しました。それでは行ってきます」

 そう言ってディレイソルに潜っていく。

 澄み切った湖だった。黒い影がソードテールメタドラゴンだろう。観賞用に改良された肉食魚が、肥沃な湖を食い尽くして食物連鎖の頂点に立った姿。

 捨てられたときよりも何十倍も大きいのだろう。魔物と遜色ない。

 ディレイソルの位置も湖の上からなんとなくだがわかる。

「うへえ。おっかねえっぺ」

 湖を覗き込み、もし落ちたらと想像してウイエアは顔を引っ込める。

「ここはディレイソルに任せるしかないっぺなあ」

 ウイエアはおっかねえ、おっかねえと物陰に潜んで見学に徹することにした。

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