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tenth  作者: 大友 鎬
第11章 戻れない過去
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悪戯聖域編-3 新生

「そんなもの使うなんて」

 彼は嫌悪感とともに嫌な顔をされたのを覚えていた。

 彼の言い分としてが使って何が悪い、だった。

 なにせ使うことは合法で副作用もない。

 改造(チート)と同じ嫌悪感だったのが無性に腹が立った。

 彼が使っていたそれはお金さえあればそれは割とすぐに手に入るし何より効率的だと思った。

「努力に勝るものはない」

 そんなことを言った自称・熟練の冒険者は、依頼の途中で襲いかかってきた魔物に力量が合わずに死んでいった。

 大量のお金を残して。

 そうやって死ぬぐらいなら、そのお金を使って、買えば良かったのだ。

 なのに邪道だの、努力が大事だと言って買うのを拒んでいた。

 彼としては生き抜くために早急に強くなる必要があって、そのためにお金でもなんでも使って少しでも早くレベルを上げる必要があった。

 お金でもレベルが上がるなら、経験を積む意味での魔物退治と並行して、レベルを上げて強くなるのが手っ取り早い。

 彼は自分で自分たちが幸運だと思った。今はある程度満たされている。

 だから昔の冒険者たちは少しでも楽にできる自分たちが許せないのだと思った。

 今は中等冒険者用の学校だってできてランク5の冒険者が少数だった昔とは違う。

 昔とは違って情報を共有して、経験は知識で吸収できる。

 今ではきちんと足りない部分は補って努力をしている。文句は言わせない。

「たっいへんだよ、リーダー!」

「そーいやー、お前さんには言ってなかったな。おれさんは朝に連絡があった」

「リーダー! これは革命だねっ!」

「おれさんたち、第ⅶ世代がようやく評価される時代がきた。これで流行っただけとは言わせない」

 DLCを使っているか、使っていないかで旧世代、新世代あるいは第ⅶ世代という区分がされている。

 その第ⅶ世代はかつてはレベルだけ高くて経験が浅い歪な冒険者のせいで批判があり、それが悪目立ちしていた。

 けれど、だ。

「ようやく選ばれた。おれさんが選ばれたということはこれからもっと評価される」

 普段の彼もおしゃべりだったが、熱く語るのは初めてだった。

 表情はいつもよりも明るく楽しげだった。

「リーダーはすげえ! すげえっす!」

「おれさんだけの成果じゃーねー。おれさんたちはDLCをみんなで買ってみんなで分けた。そーやって強くなった。これは全員の成果だ」

「けどそれでも第ⅶ世代の代表にリーダーがなったのはぼくたちよりもやっぱり実力があるからだよ」

「まー、選ばれたからには恥じない戦いをするしかない。おれさんの評価がDLCを使っている者たちの評価にも直結する」

「リーダーさすがっすね、そこまで考えてるんだあ」

「まー、そういうこった。胸張っていくぞ」

 [十本指ザ・ゴールデンフィンガー]の発表があるのに合わせて、これから集会があった。

 無事に選出されたことで、これから躍進していくに違いない。

 彼と、そして仲間たちは大きく希望を見出していた。


 ***


「やはり喜んでいたであるよ、彼は」

「だろうなあ。効率よく経験値を稼げる手段が現れたと思ったら、それを使った途端批難があったからなあ」

「合法なら良いも悪いもない。悪いような風潮が確かにあったからこれで風向きが変わるといいぺ」

「何より生存率。DLCの使用で少しでも冒険者が生き残れるように工夫するのもあるんだなあ」

「コーエンハイムはん。同時にDLCの高額取引の取締も進んでいるような記事も作成しているっぺ」

「うむ。あまりしたくない手ではあるんだけどなあ。それでもやっぱり高すぎて手が出せないようでは賊に成り下がってしまう者も増え続ける。その抑止策も誘導していく必要があるんだなあ」

「足がかりになればよいであるな」

 

 良き時代になるようにという願いと新しい技術によって成長していった冒険者を祝福するように後押しとして彼は選出された。


 九本指 第Ⅶの使徒 セヴテン・ゴー


「八本指の彼はセヴテンと対極。セヴテンが効率的な努力家だとすれば彼は地道な努力家だなあ」

「だとしたら批判はでないっぺか。セヴテンを上に据え置いたほうが安全なのではないっぺか?」

 ウイエアはあえてそう尋ねる。セヴテンが九本指で彼が八本指なのにはある程度納得した上でだった。

「――彼はディエゴとつながりがある」

 一言ジェリオが言う。「それは大きい」

「だっぺなあ」

「彼の努力は途方もない。彼の地道さに比べればセヴテンの効率さは比較にならないかなあ」

「永遠の新人だったネイレスさんの代わり、というのもあるのであるな」

「そうだなあ。彼女もランクを上げているため、そのまま継続しているが低ランクの人が[十本指ザ・ゴールデンフィンガー]入りするのも希望になり得るだろう。もちろん、彼は才覚を持っていて尋常じゃないレベルではあるけどなあ。けれどそのレベル上げももはや一筋縄ではいかない。だからこそ地道な努力家として評価したのだなあ」

「経験は初見こそ多く得るものがあるというやつであるな。初めて遭遇した魔物を倒したときが一番経験を得るものが多く、倒していくたびに効率や慣れによって経験を削ぎ落とされていくのである」

「だっぺな。同じ魔物を倒し続ければ得る経験なんて一に等しいっぺ。彼は治安を守るために周囲の魔物を倒し続けてその域に達している。これは評価できることだっぺ」



 ***


「見てますか(?)ディエゴ(?)さん」

 ディレイソルは空を見上げてディエゴの名前を呼んだ。

 ディエゴが今どういう状況にあるかをディレイソルは知らなかった。

 どこかで戦っている。そしてどこかで自分の成長を喜んでくれている、素直にそう思っていた。

 廃村同然まで崩壊した村だったが、それでも色々な伝を使って村を再建していた。

 今では村長にまでなっていた。最初は当然のように辞退したけれど、それでもあなたが作った村だからとまで言われたら辞退などできなかった。

(まあその結果(?)、試練もできずじまいですけど)

 それはそれでいい(?)とディレイソルは思っていた。

「ディレイソルさん、魔物が」

「任せておいて」

 一報を受けてディレイソルは旧火山の大地を走る。

 愛剣である長剣〔揺蕩うエーゲ〕を手に持って、放たれるのは唯一の技能【鎧通】だ。

 レベル上げとともに使いこなした【鎧通】の熟練度は度し難いほどの熟練さを持っている。

 ランク1が戦えているのだから大した場所ではない、と思うのかもしれない。

 けれど知っての通り、ガーデッド旧火山:サイコ狩場は発見されている狩場の中では二番目の難しさを誇る。

 そこを慣れた手つきでディレイソルは戦い抜いている。

 それは恐るべき男だった。

 それだけでも評価されるべきなのに、のちにランク8の試練悪戯の聖域ミスチヴァスサンクチュアリがカルデラ湖にあると発表され、さらに彼は再評価を受けることになる。

 そんな場所でディレイソルはランク1のまま戦い続けている。〈上限突破(ランクブレイカー)〉によってランクによるレベル制限を受けないとはいえ、レベルがとうに1500を超えているのは彼の地道な努力の賜物だった。

 それが評価されての[十本指ザ・ゴールデンフィンガー]入りだった。

 

 八本指 上限突破 ディレイソル・アージェンス

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