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tenth  作者: 大友 鎬
第11章 戻れない過去
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終極魔窟・序編-7 休憩

 レストア・バンビューダは危機一髪で自分の特典〔休憩室(レストルーム)〕へと入っていた。

 〔休憩室(レストルーム)〕は迷宮内に扉を作成しその中に簡易的な休憩室を作成する。そこには寝台に薬棚、机に椅子、給湯器などレストアが買い揃えた道具が並んでいた。休憩室の広さは人数によって変動しない。6人いれば少し窮屈。ひとりなら少し寂しいぐらいの広さだった。

 そこに倒れ込んだレストアはすぐさま寝台に寝転ぶ。

 〔休憩室(レストルーム)〕は中にいるだけで体力、魔力が徐々に回復していく。

 クロスフェードに痛めつけられたレストアは寝台に寝転んだ頃には一瞬にして気を失っていた。

「んんんんっ!」

 その近くには手足を縛られ、口を封じられたシャアナがいた。

 ディエゴへの復讐のため、終極迷宮に挑戦したシャアナは転移の罠によって偶然ディエゴと遭遇する。

 戦いを望むシャアナを面倒臭ぇと一蹴したディエゴの仕業だった。

 特典〔休憩室(レストルーム)〕の出口はレストアが設定する。招待された冒険者はそこからしか出れないが、シャアナのように低階層にいても記録保持者(トップランナー)と同じ深層に階層を飛ばしてつれていくことができた。

 シャアナも一歩外に出れば記録保持者(トップランナー)の仲間入りとなるが実力が伴ってない場所に出口を作られても困るだろう。

 拘束されたシャアナを他所にレストアは深く深く眠りに就く。

「ぼくは弱い……」

 寝言のように弱音がぼそりとこぼれ落ちた。


 ***


 レストアは原点回帰の島に0歳のときに送られたわけじゃなかった。

 3歳になるまでは村で育てられた。地図には乗らない名前のない村だ。

 そこには同年代の子どもたちがたくさんいた。

 ミジャンカはいつも足が早くて、レストアは二番手。コージャングは三番手で、ミジャミジャはいつも最下位。

 それでも徒競走は村長の意向でみんなが一番という方針の村だった。

 差を作らないというのが村長の主張だったがその意に介さずレストアは常に劣等感があった。

 コージャングは勉強をすれば一位で、ミジャミジャは女の子に一番人気があった。ミジャンカは足の速さだけじゃなくて運動神経もいい。

 村長の主張で徒競走はみんなが一番だったのに、勉強では点数をつけられ順位を決められる。

 顔の良さでイケメンと呼ばれるミジャミジャ以外はイケメンとすら言われない。それが差以外のなんだというのだろうか。

 村長の主張は歪曲していた。足の速さで優劣をつけるのが可哀想だから徒競走で一番にするなら他の何に置いても優劣はつけてはいけないはずだった。

 村長の理不尽さが許せなかった。

 原点回帰の島に送り出すとき、村で一番優秀だったのはミジャミジャだと言い放ったのは村長だった。

 原点回帰の島についてからは挫折の日々だった。

 自分の、自分たちの弱さを痛感した。他の冒険者に比べて自分たちは弱かった。

 平然と差を見せつけられた。

 誰しもが平等なんて世界はその島のどこにもなかった。

 弱さを弱さと認めない村で育ったレストアたちは弱さを痛感し、そして弱さに耐性もなかった。

 それでもどんな順位でも一番だと言われた記憶だけが強く残っていた。

 弱さを弱さを認識できていなかった。

 村でも常に劣等感を持っていたレストアだけがマシだったのかもしれない。

 新人の宴ザニュービーズデビューをクリアしてランク1になれたレストアたちのなかで最初に死んだのはミジャミジャだった。魔物に追われた際に最初に追いつかれて噛みつかれて即死だった。

 彼の断末魔がいやに耳に残った。徒競走で最下位でも一番だったから、足が遅さをカバーできるような戦い方を学んでこなかった。

 ミジャンカは罠を罠だと気づけずにコージャングは自分の実力を図り間違えて死んでいった。

 レストアだけが四人の中で生き残り、ランクを重ねていって7になった。

 常に劣等感が合ったから常に冷静で危険なことからはすぐに逃げた。

 罵詈雑言はたくさん受けたが決して身の丈に合わないことはしなかった。

 そうやってレストアは生き抜いてきた。


 ***


 そんなレストアも記録保持者(トップランナー)だった。

 レストアはディエゴにおんぶに抱っこで(キャリーされて)その地点にいた。

 「いい特典を選んだなぁ」とディエゴに見初められてそこまで到達したのだ。

 他の冒険者には逃げの特典だの、引きこもる臆病者が選ぶ特典、と散々罵られていたからその言葉は救いだった。

 終極迷宮は戦いの連続だ。NPCと戦わない階層では強靭な魔物がひしめく。休もうにも誰かが見張りをする必要があるし、焚き火を嗅ぎつける魔物だっている。

 心が休まる時間がない。

 対してレストアの特典〔休憩室(レストルーム)〕は誰しもを寄せ付けない。しかも入口に待ち伏せされても、出口は別に設定できる。

 存分に休んで、安全な地点から冒険を再開すればいい。

 終極迷宮における絶対的安心地点は相当な優位に立てる。

 それが判明してもレストアへの風当たりも強かった。

 散々クソ特典となじっていた冒険者たちは、姑息、卑怯者、反則、改造者と同類と散々に野次られた。嫉妬だった。

 それら全てを一蹴してくれたのはディエゴだった。

 ディエゴはレストアの弱さを知っていて、それでもレストアの特典の優位性を見抜いて評価した。

 だから無理強いは絶対にさせないし、基本的に特典〔休憩室(レストルーム)〕に籠もっていても文句は言わない。

 だからレストアはその中で絶対的な安心をディエゴたちに与えていた。

 今回、NPCとの戦闘に出ていたのは、サンスクリッチェとユーゴが死亡したことで参加人数が足りなかったためだ。

 すぐに特典〔休憩室(レストルーム)〕に籠もっていていいと言われたものの、少し戦ってみたいと主張してディエゴにも許可を得たため戦っていたという経緯があった。

 そこでキングたちに強襲され、相手となったクロスフェードに打ちのめされた。

 それでも【死振(カモフラージュ)】よりも下手な死んだふりで一瞬の隙をついて特典〔休憩室(レストルーム)〕に転がり込んだ。

 使命感でもあった。

 弱い自分ができる唯一のこと。

 ディエゴたちを救出するために自分がやれること。

 出口を外につなげて、そして呼んでくる。

 終極迷宮でも噂になり、そして記録保持者(トップランナー)のディエゴを退かせるほどの実力を持つあの男を。


 ***


 夢の中で決意した途端、強い衝撃を受けて目を覚ます。

「ねえ、いったい何が起きたの? ディエゴはどこ? ボクにも説明してよ!」

 拘束を解いたシャアナの痛烈な一撃だった。

 意識が朦朧としながらもレストアは説明を始めた。

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