終極魔窟・序編-6 激変
「これ、不具合ですこと?」
大きな水晶体が三つ作成され、一人残されたレストアなる冒険者を指しクイーンは言う。
記録保持者全てを封印し、変革に利用しようとしていたが、なぜだかレストアには対象外。作用しなかった。
「どういう見解だ。クロスフェード」
「おそらく弱らせすぎたのが原因でしょう。手加減したつもりでしたが手加減してもなお、"ワたシ"たちの相手ではなかった。ですがだとしたら封印しても動力源として役になっていたかは微妙なところでしょう」
「ならいい」
「トドメは?」
「捨て置け……と言いたいところだが……」
キングは一瞥する。レストアは意識を失ってこそいないが身動きはおそらくできない。それほどまでに痛めつけられている。
「殺しておくべきだろうな。どういう因子でも邪魔になる可能性がないとは言い切れない」
見逃すという選択肢をキングは取らない。〈7th〉のジャックを裏切る可能性があるとして排除したほどの男だ。容赦はなかった。
けれどクロスフェードとの一瞬の隙をついて、レストアは地面に扉を作っていた。
「……!」
攻撃よりもレストアがその扉の中に入るほうが早い。地面に作成された扉はレストアを中へと入れたあと、びくともしない。
「悠長だったな」
キングが扉を殴るがびくともしない。
「同志キング氏、これは特典ですぞ」
「ああ。先程ディエゴがレストアとか言ったかこの男の特典を展開しろ、と言っていた」
「察するに敵視レストア氏が認めた同志のみが入れる扉というところでしょうぞ」
「しししっ。でもその先に部屋があったとして扉がひとつなら逃げらんないはずでしゅ?」
「部屋とは限らない。出入り口をつなげる効果だとしたら、前の階層に戻っている可能性はある」
「もし特典が作り出した部屋だとしたら扉がここにある以上逃げられないのではないのですこと。もちろん、その部屋から別の出入り口が存在しているのであれば別ですけれど」
「さて、どれが正解だろうな」
「しかしより封印を強固にするのであれば、レストアに拘っているわけにはいかない」
「そうなのか」
「封印も野菜も鮮度が良いほうがよいということです」
ずばしっ、とクロスフェードは言い放つ。
「この扉ごと、変化させればあるいはどうだ?」
「もし部屋がこの扉の先にできている、あるいは扉の先が終極迷宮に繋がっているのであれば、それごと飲み込むことは可能です」
「この扉が外に繋がるものだったとしたら?」
「外敵を呼ぶ恐れはありますが、元よりそういった特典の想定はしております」
「なるほど。なれば憂いはないか。実行に移せ」
「御意」
深々と礼をして、クロスフェードは指示を出す。
あくまで行うのはリオリットだった。
そもそもキングの覇道――今回の変革が始まったのはリオリットの特典に目をつけたことにある。
「では特典〔魔窟創造〕を発動させます」
初回突入特典〔魔窟創造〕は階層を作り変える効果を持つ。
終極迷宮では床一面毒だったり、交互に針が飛び出してくる罠が設置された階層もある。
その階層は性質はランダムで発生するため、NPCもPCも操作できない。PCとの対戦する階層ではPCに階層選択できる階層も存在している。
どうみても不利を強いられる場所だが、それを作り変えるのが特典〔魔窟創造〕である。
その特典はあくまで一階層にしか作用しない。
しかしその特典は明らかに構造が謎であるこの終極迷宮という構造物に一石を投じるかのように変化を加えることができる。
キングはそこに着目していた。
その特典に何らかの変化を加えれたら?
改造が候補に上がったが、改造を施した冒険者は終極迷宮に入れなかった。
ジョーカーの作り上げた改造に匹敵する何か、が必要だった。
そこで着目したのが"特異"だった。
自分に合ったもの、自分に活かせるものを得ることができるのが"特異"だ。言わば自分に適した"特異"分野。
それを何のデメリットもなく手に入れることができる。
リオリット・イターはすぐにキングの覇道に賛同した。
元より自分が役に立つことをしたかった。
自分でなければできないことをしたかった。
歯車のように馬車馬のように依頼を受けて達成するだけのような冒険者になりたくなかった。
そのぐらい尖っていた。
「一緒に変革してみないか。王たる王の覇道の礎となれ」
なのに、まるで欲しかった言葉だったと言わんばかりにキングに言われてその言葉がすとんと腑に落ちた。
その言葉だけでリオリットはキングの仲間になった。馬車馬のようにこの人の元で働いて世界を変革してやろうと、なぜだかそう思えたのだった。
リオリット・イターの"特異"は"激変"という。
その力によって特典〔魔窟創造〕の効果は大きく激変する。
クイーンの"救済"によって作成されたトワイライト、ディエゴ、サスガの【永休牢獄】の結晶体を媒介にして、
特典〔魔窟創造〕は一階層ではなく、終極迷宮そのものを作り変えていく。
終わりなきと謳われた終極迷宮は、終わりが作成されてなおどこかに矛盾を含む迷宮終極魔窟へと変貌を遂げた。




