終極魔窟・序編-3 捕縛
「よく分からんがぁ……、お前たちを倒さないとここから下は進めないってことだなあ」
「ディエゴどの。言わずもがな、キングは頼むでする」
「分かってら」
了承とともに【弱火】を連発するディエゴ。
ディエゴの〔詠唱が必要がない幸せ〕は攻撃階級3、及び援護階級3以下の魔法を無詠唱で唱えることができる。
詠唱不要で放たれた熟練された【弱火】がキングへと強襲。
「ししし」
笑い声とともに瓶底のような眼鏡をした少年が前へと出る。
その手前で【弱火】が止まる。
「ししし。キングしゃん。ここはオイラが。」
「確かにそうだな。タミの力なら相性が良いだろう。王たる王はあいつを狙う!」
言ってサスガへとキングは歩を進める。
「させるかぁ!」
「お前の相手はオイラでしゅよ!」
言うや止っていた【弱火】が向きを変えてディエゴへと向かっていく。
「厄介な相手だなあ、確かにっ!」
そういう特典があったことをディエゴは思い出す。
【魔法反射穴】のように魔法の威力を倍にはしないが、そのまま跳ね返す特典があった。
「お前の特典〔魔法の捕縛〕かっ!」
「しししっ!」
その笑い声が肯定だった。
特典〔魔法の捕縛〕はその特典によって出現した魔法の手によって魔法自体を掴み、そのまま投げ返すという特典だった。
もちろん特典使用者が捕縛できなければ無理だ。
しかし、【弱火】を寸分違わず捕縛できたところを鑑みるに
「ついでに言えば遊撃師かっ!」
投球士系複合職にはろくな奴がいないっ! とディエゴは思わずレシュリーの顔を思い出す。
遊撃師は投球士と剣士の複合職、外野士の上級職だった。
「しししっ!」
「くそ、だりぃなぁ!」
レシュリーとの戦いでも自分の無詠唱魔法の連打を、連投によって防がれた覚えがある。
「てめぇの腕は何本だっ!」
特典〔魔法の捕縛〕は魔法の手で魔法を掴み取る。
その魔法の手が魔力によって出現させているのか、相手の魔法の数によって出現するかどうか、ディエゴは知らない。
あくまでディエゴが知っているのは、魔法を掴めたら跳ね返せるという情報だけだ。
試すようにディエゴは【落石】を連発。
【落石】に【落石】をぶつけて、砕くことで顔ぐらいの大きさの岩を拳大に変えて強襲した。
それでも、
「しししっ、無駄でしゅよ」
〔魔法の捕縛〕の魔法の手がその全てをつかみ取り、跳ね返してくる。
打法技能の【球捕】は投球技能の投球を受け止める能力を持つが、その熟練度が高いのかもしれない。球を受け止める感覚が高いので、魔法の手でも難なく掴み取ることができるのかもしれない。
相性の良さを生かした特典選びをしている。強敵だった。
「だがっ、こいつはどうだよ!」
特典と上級職は割れた。
そしてこれは〈7th〉には馴染みがないだろう。
「ぶちまけろっ!」
杖を脳天めがけて振り下ろす。
【直襲撃々】。
「しししっ」
だが、タミの笑い声には焦りもなにもない。
【緊急回避】によってその〈7th〉には未知の攻撃を回避。
その勢いを利用して蹴具〔友人のサッカー〕によってディエゴの顔めがけて蹴りを放つ。
腕で防御してディエゴはそのまま自分に【加速】を重ねがける。
そのままタミにぶつかっていく。
タミ自身はそれをも利用して【低姿勢滑走】で体勢を崩していく。
体勢を崩したまま加速したディエゴは壁に激突するすんで壁に着地して方向転換。
【吹水】を手のひらから噴射。
それをも掴まれて跳ね返してくる。
一進一退の攻防に見えるがディエゴには違和感があった。
「殺気が物足りねえな」
タミは攻撃する気がないように見えるのだ。
それでも汗をかいている姿を見るに、余裕はないように見える。
「時間稼ぎかっ……」
タミではない誰か、そしてキングではない誰か。
その誰かが何かをするための時間をタミもキングも稼いでいるのだ。
それはすぐに分かった。
こっちの人数は四人。向こうは五人。戦ってないそのひとりこそがなにか準備をしているのだ。




