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tenth  作者: 大友 鎬
第11章 戻れない過去
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超人計画編-28 持久

 それから冷静になって

「……」

 クロスフェードは薔薇剣〔失敗の母リィリス〕+7を拾い上げる。

 弱体化(ナーフ)されたとはいえ、+7の強化は大きい。腐っても鯛、弱体化されても強化なのだ。

 自らの特典〈難感覚(ナンセンス)〉があるためクロスフェードの優位は変わらない。

 コジロウにとっては脅威の難度が多少下がった程度だが、自らの特典慣れした身体が、それ以前に戻ってしまい、身体が十全に動けないでいる。

 ランク6から7となり、上位技能に不慣れな感覚に似ている。上級職ではどんな技を覚えるのか、どういう応用にするのか考え、それを戦闘によって馴染ませてきた。特典も同じだ。終極迷宮(エンドコンテンツ)という極限の戦闘の場所で、特典を馴染ませ、特典ありきの戦いを染み込ませてきた。

 それが突然奪われた。

 それでも、

「ようやく慣れてきたでござる」

 コジロウは動き出す。よくよく考えてみれば、上位技能も特典も、遡れば複合職の技能でさえも最初は持っていなかった。

 盗士のときの、何も技能を持たなかった自分がどうやって戦ってきたか、それを思い出せば、クロスフェードが作り出した場に適応するのも時間がかからなかった。

「慣れてきたからどうだというのだ」

 薔薇剣〔失敗の母リィリス〕+7の刃がコジロウに迫っていた。

 くるりとコジロウはそれを避けて忍者刀〔仇討ちムサシ〕を斬りつける。

「単調でござる」

 コジロウは気づいたのだ。

 脅威だったのは弱体化(ナーフ)の薔薇剣〔失敗の母リィリス〕+7だった。

 そしてどういうわけだがクロスフェードは"特異"を攻撃に使わない。

 つまるところ、クロスフェード自体は脅威ではないのだと。

 斬りつけられたクロスフェードは笑っていた。

「それで? "ワたシ"に傷を負わせた、とでも思っているのか?」

 クロスフェードの傷口は修復されていく。コジロウに見せつけるように。

 クロスフェードはにやつきが止まらない。

「"ワたシ"は死なない。クロスフェード・"再生"・シュタイナーは死なない」

「つまるところ、回復細胞を超活性化しているでござるな」

「かもしれないなあ?」

 クロスフェードが迫る。

 おそらく次の一手は通用しないだろう、とコジロウは悟った。

 けれどもそれでも通用しないということを知るために投擲する。【収納】は〈難感覚(ナンセンス)〉によって使用を封じられているが、すぐに使用できるために腰の小さな革鞄に入れていた道具なら使用できる。

 回復錠剤である。

 それをクロスフェードに向かって放つ。

 "再生"が回復細胞の活性化によるものであれば過剰な細胞分裂は異常を起こす。

「無駄だ。起こさない!」

 クロフフェードは自ら回復錠剤を噛み砕いて告げる。

「ユーゴック・ジャスティネスは弱点をなくした結果、回復細胞が原因で死んだ。その記録を見ていないとでも?」

 そのまま薔薇剣〔失敗の母リィリス〕+7で突きを繰り出し突進。避けようとしたコジロウの後ろには壁があった。

「"ワたシ"は研究者だぞ。ユーゴックが改造したのか、他の何かを使ったのか、それを"ワたシ"は知らない。だがどうあれなんで失敗したかぐらいは研究者として対策してる。二の足は踏まないっ!」

「研究者でござるか……」

 壁に気づいたがコジロウは冷静。

「だとしたら冒険者(現役)には勝てぬでござるよ」

 壁に手をついて、クロスフェードめがけて蹴りが炸裂。

 変顔を披露するような格好でクロスフェードは対面へと吹き飛んでいく。

「だが……」

 よろけながらクロスフェードは立ち上がり、

「こんな傷は"再生"の前では無意味なのだよ。冒険者として格が違うと言いたいのだろうがね、そもそも成り損ない(ファンブル)と成功品では、格以前の問題なのだ!」

 優位なはずなのにクロスフェードは無様のように映る。

「さあ、"ワたシ"を倒せるか。"再生"する"ワたシ"を。無限回復たる"ワたシ"を。ここからは耐久戦といこうじゃあないかっ!」

 

 言葉通り持久戦が始まった。


 コジロウが斬りつけ、クロスフェードが再生し、クロスフェードの不格好な剣撃をコジロウが避け、追撃の一撃をクロスフェードは避けることなく相打ち狙いでコジロウを斬りつけていく。

 コジロウにあるのは心もとない回復錠剤だけだ。【収納】が使えればまだ回復錠剤を取り出せるが、技能である【収納】をも封じ込めるクロスフェードの〈難感覚(ナンセンス)〉は凶悪すぎる技能だ。

 クロスフェード自身も【収納】が使えないのも事実だが、クロスフェードには"再生"がある。特典を入手してから"特異"を付け加えたクロスフェードは特典との相性も考えていたのだろう。

 コジロウは自己再生できるクロスフェードと延々と戦い続ける必要があった。

 技能も魔法を使用しないため、疲労も少なく、精神摩耗もほぼない。

 お互いに苛立ちが募る。顕著なのは優位なはずのクロスフェードだ。

 多少の傷を与えることは可能だけれど、よくて二十回に一回ぐらいしか与えられない。

 そして困ったことにこの戦いに時間切れはないのだ。

 無限に続く、そんな錯覚がある。

「いい加減にに勝てないことを自覚したらどうだ?」

「けれど負けてはいないでござろう?」

 コジロウは言い返して、何度目かになる攻撃をクロスフェードに仕掛ける。

 クロスフェードは当然のように避けず、その短刀の一撃を胸に受ける。

「ごふっ」

 と思わずクロスフェードは血を吐き出した。

「なん……だ?」

 クロスフェードに動揺が走る。

「"ワたシ"の"特異"に成り損ない(ファンブル)があったのか……」

 のろのろのろのと近くの研究机と歩いていき、その場にあった顕微鏡で自分の血を覗き込み、回復細胞を観察していく。

「エラー・カタストロフかっ……」

 クロスフェードには後悔があった。

「回復細胞が一本鎖構造だと理解していたはずなのだが……見逃していた。複製が早すぎた」

 コジロウが胸を狙ったのも不運だっただろう、心臓に突き刺さっても本来は再生して助かるはずだった。

 慢心が致命傷を生んでいた。

 回復細胞の複製があまりにも早すぎたために分裂に複数のエラーが生じ、結果生存できなくなった細胞が自壊を始めたのだ。

 ユーゴックの二の舞にならないように回復細胞が一定数を超えないように調整する仕組みを"特異"に仕込んでいたのも仇になった。

 超回復を求めすぎたせいで、その見落としに気づかなかったのだ。


「"ワたシ"は死ぬのか……」

 その場に倒れ込んでクロスフェードはつぶやいた。しばらく無言が続き、コジロウは死んだのかと錯覚した。

 クロスフェードは自分の失敗がどこにあったか考えていた。

 おそらくは下地だ。研究のために改造された冒険者を解剖したときに無意味に思える改造跡を見つけていた。

 よくよく考えれば理解できたことだったがジョーカーへの嫉妬、そして正義の使命感で、追求を盲目にさせていた。

 けれどしばらくしてクロスフェードは手足をばたばたさせて叫ぶ。

「だが! それだけだ。その下地ができていれば、きっと"ワたシ"の〓超人(プロジェクト)計画(スーパーヒューマン)〓は成功していたのだっ!」

 ばたつかせていた手足が端から消えていく。回復細胞のエラーによる自壊が全身にも作用していた。

「"ワたシ"は死んでも〓超人(プロジェクト)計画(スーパーヒューマン)〓は残る、きっと! きっとだ!」

 クロスフェードはそう告げて消えていった。

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