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tenth  作者: 大友 鎬
第11章 戻れない過去
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超人計画編-27 弱体

「何が言いたい?」

「こういう状況を作らぬために、お主は"特異"を作ろうとしていたのではござらぬか?」

 核心をついた一言だった。才覚を封じられ、技能を封じられ、特典を封じられてもなお、言葉だけはまだ強靭な威力を持っていた。

 コジロウの言い分も尤もだ。

 持たざる者が持っている者と同等に戦うための"特異"の植え付け、それが〓超人(プロジェクト)計画(スーパーヒューマン)〓のはずだ。少なくともクロスフェードが語った理想はそうだった。

 けれど今は自らの特典〈難感覚(ナンセンス)〉を用いて、"特異"、そして武器の強さで優位を得ようとしている。

 それこそまさに理解不能(ナンセンス)ではなかろうか。

「ふふ……」

 クロスフェードは分かっている、と言わんばかりに乾いた笑いをあげる。

「確かにそうだ。けれど"ワたシ"は持たざる者でも持てるものを持っているだけに過ぎない」

 "特異"に関しては開発途中で予定でしかない。

 現段階ではシュタイナー一族しか得ることはできていないからこそ〈難感覚(ナンセンス)〉で封じ込めることができていないだけだ。

 もしこれが世界にとっての当たり前になれば、"特異"ですら〈難感覚(ナンセンス)〉は封じ込める。

 武器の強化も然り。まだ世界にとっての常識になっていないからこそ、きちんとした法則が定まっておらず、だから抜け道のように〈難感覚(ナンセンス)〉をすり抜けた。 

「文句があるなら世界がきちんと制定すればいい」

 この世界は何度も何度も世界改変(アップデート)を繰り返して、そういう法則を変えてきた。

 つまるところ、クロスフェードは世界に"特異"を受け入れろと訴えかけている。

 成り損ない(ファンブル)は当然、処分する。

 それは決定事項。

 クロスフェードはその後の話を一方的にしていた。

 極端な解釈だが才覚を持っている冒険者を〈難感覚(ナンセンス)〉のクロスフェードが薔薇剣〔失敗の母リィリス〕+7と"特異"によって殺していく、と言っていた。

 それを阻止したいなら世界が"特異"を認知しろ。

 駄々と一緒に、成り損ない(ファンブル)の処分を一緒に行おうと言うのはなんて烏滸がましいことだろうか。

 それでも世界が揺れた。

「おおっ!」

 クロスフェードが愉悦に微笑む。

 世界改変(アップデート)だった。

 変化が訪れる。

「ついに"特異"が認められて……」

 宣言後、クロスフェードの表情がこわばっていく。

「ないだとっ!」

 唖然とする。

 クロスフェードの"特異"は未だコジロウには判断不明だが、コジロウにいまだまとわりつく、技能を使えない感覚。

 それがクロスフェードの"特異"にも作用すれば、世界改変(アップデート)で"特異"が認められているはずだった。

 けれどその感覚がないのだろう。

「なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだ!」

 クロスフェードが動揺する。世界改変(アップデート)の揺れは、変化が訪れた者たちほどより濃く感じる。

 コジロウはさほどだったがクロスフェードはかなり揺れを感じたのだろう。

 なのに"特異"は認められていなかった。

 では何が起こったのか。

 世界改変(アップデート)はある意味で世界の調整だ。突出しすぎたものがあれば、それが弱体化(ナーフ)されるのは当然と言えた。

 それは武器強化だった。 


 武器が+3ならランクが1上がったようなもの。


 ジョバンニがかつてつぶやいた言葉だが、これは強すぎる性能だった。

 ザイセイアのみがその技術を持ち、誰にも教えようとしなければ、もしかしたらこの調整はなかったもしれない。

 しかし現在進行系でザイセイアはジョバンニを始め鍛冶屋たちに、誰でも強化できるようにその技術を伝達している。

 そしてその原料になる強化素材(リーンフォースメント)も店で買うことができ、レシュリーたちのような冒険者ではなくともその材料を得ることができた。

 それが珍しい鉱石であれば世界改変(アップデート)は起こらなかった。

 ザイセイアが技術の提供をしなければ世界改変(アップデート)は起こらなかった。

 ザイセイアが悪人で使用した武器を悪事にしか使わなければ世界改変(アップデート)は起こらなかった。

 ザイセイアは"特異"によって"鍛冶"が得意になり、その技術を使って、武器強化を広めようとしている。

 だから世界改変(アップデート)で武器強化は正式に認められていた。

 認められてなお、弱体化(ナーフ)されるのはおかしい話かもしれないが、弱体化(ナーフ)されることで一般的な普及が早まり、結果的に全体的な冒険者の底上げになるのは事実だった。


「何が起こった?」


 それをクロスフェードは知らない。

 自身に降り掛かった世界改変(アップデート)、武器強化の弱体化(ナーフ)に辿り着けていない。

 不運なのは弱体化(ナーフ)されたことで〈難感覚(ナンセンス)〉の無効化から逃れたことだった。


 動揺するクロスフェードに不意打ちするようにコジロウが迫る。


「なめるなよ!」


 振り下ろした薔薇剣〔失敗の母リィリス〕+7を今度はやすやすと避ける。

 連続で放たれた剣撃を今度は忍者刀〔仇討ちムサシ〕で受け止めた。

 薔薇剣の振り下ろされた剣速から、異変が薔薇剣に起こったのだとたどり着いた結果の判断だった。

 武器が壊れてしまうという不安はあったが、受け止めれるという直感を信じた結果だった。

「あああああん?」

 クロスフェードも気づく。

「な・ぜ・だ!? なぜこんなものが認められる。そしてなぜ弱体化(ナーフ)された? そもそもザイセイアは生きているのか?」

 ザイセイアが生きていたことも、世界改変(アップデート)が武器強化を認めたことも、それゆえに弱体化(ナーフ)されたことも認められなかった。

 そもそもザイセイアの"鍛冶"こそザイセイアの"特異”なものではないか。それで作り出された武器強化が認められてその根本たる"特異"が認められないのが納得がいかなかった。

「こんなもの、こんなものおおおおおおおおお!!」

 腹いせに薔薇剣〔失敗の母リィリス〕+7を床に叩きつける。

 柄頭(ポンメル)についていた薔薇の紋章が儚く散っていく。

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