超人計画編-17 聖水
ゾンビは減ることはなかった。
研究所が遠目ではなくても目視できるところまで接近していたコジロウ、フレアレディ、アエイウの三人だったが
そこから近づくことすらままならなかった。
「こっちでござる」
噛みつかれたらゾンビになる、ということはない。
それでもゾンビが噛み付いてくるのは事実だ。
ただしゾンビになってしまうような症状が出るのは事実だった。
状態異常・腐食。
噛まれた部分から皮膚が腐食していく症状だ。
状態異常である以上、癒術で治癒できるが、当然のように今は癒術士系複合職はいない。
そのせいで余計に慎重になっている、というのも影響しているのかも知れない。
狂戦士たるアエイウが大きく長大剣を振り回し、ゾンビの胴体を吹き飛ばす。
囲まれるのを防ぐためにはそれが一番手っ取り早くはあるが、ゾンビは定番といえば定番だが頭を破壊しないと活動を停止しない。
上半身だけのゾンビが逆に足をもつれさせようとして邪魔になる。
フレアレディが四本の耳短剣を巧みに操って頭を破砕していく。
けれど、前にいるゾンビがそのまま倒れると障害物となって行く手を阻む。
もちろん乗り越えれば逆にゾンビの足止めにつかえるが、障害物になると前に進みにくい。そのロスのほうがつらい。
コジロウが【祓魔印】を使ってゾンビを消滅させる。
ゾンビが倒されても障害物にもならず、頭を破壊しなくてもよいというのは大いなる利点だ。
ただし、扱える複合職が限られているというのが弊害か。
コジロウが連発してもゾンビが消えるのには限りがある。
その消滅によって作られたか細い道を三人は進んでいく。
「ええい、きりがない!」
アエイウの大振りの一撃は精度は低めだが頭を狙うようになっていた。悪くて空振りだが、足に絡みついてくるゾンビほど鬱陶しいものはない。
「ヴォエヴォエエ!」
雄叫びは止まない。
「やっぱりー」「指示を出している何かをどうにかしないと……」
「この雄叫びのやつでござるな」
「ああん? どういうことだ?」
「操っているやつがいるということでござる。ゾンビにしては規則正しいと思わなかったでござるか?」
「思わなかった」
呆れる一言だった。
「……がそうか。さっきから突き刺さるような不快感はいわゆるボスと同じか」
アエイウもアエイウで野生の勘のような感覚で感じ取っていたらしい。
「とはいえ近寄れないでござるよ」
気づけば大きな岩の上から身動きが取れなくなっていた。
ゾンビは岩をよじ登れないものの、手がコジロウたちの足の方へと伸び、今か今かと掴み、引きずり落とそうとしていた。
この状態で噛みつかれれば腐食程度では済まないだろう。
アエイウがまるで鍋の具材をかき混ぜるように長大剣を突き刺し、ゾンビをかき混ぜるように倒していくが、その穴をすぐにゾンビが埋めていく。
フレアレディが四匹のゾンビを一度に仕留めても、所詮4匹。としか思えないような戦果だった。
ピキッと何かが割れるような音。
足場にしていた大岩がひび割れる音だった。ゾンビたちがあらゆる方面から押し寄せ、その圧力で岩を砕かんとしていた。
そこから飛び移れるような樹がないのもの誘導されていた証左。
割れればもはや命はない。
ピキ、ピキピキピキイ――。
岩が割れるのと同時にそれは起こった。
雨だった。
雲ひとつない空に影ができ、そこから雨が降り注いだ。
しかも普通の雨ではない。その雨粒に当たったゾンビは、当たった先から消滅していく。
コジロウたちに当たった雨粒がゾンビたちが汚した汚れを削ぎ落とし、まるで漂白剤のように元の色へと浄化していく。
聖水の雨だった。
コジロウは見上げて、笑う。
コジロウたちを覆った影の正体は飛空艇だった。
コジロウがよく知る人物の。
そこから降りてくる3人の人影。
「あんたは嫌かもしれないけど、ここだけは手伝ってあげる」
言うやアリーが【魔祓】を魔充剣に込めて一振り。ゾンビを消滅させる。
「事情を聞いてね、飛んできたんだ」
言うやレシュリーが【祓魔球】。双腕で繰り出される連続投球で研究所への道が作り出されていく。
「ショウメツカイシ!」
ジェニファーは意味ありげに叫ぶと両手から聖水を噴射。物量に任せてゾンビたちを片っ端から消滅させていく。
「ここは任せて先に行って!]
「すまぬ。助かったでござる」
「やっぱり」「いい仲間……」
「最高の仲間でござる」
頼もしい三人の姿を後ろにコジロウたちは研究所へと向かっていく。




